庭へ張り出す座敷
九番の間は、行形亭の登録座敷のなかで最も小さい、約29平方メートルの平屋の一棟である。離れ座敷に隣接して建つ。明治10年(1877年)の建築で、一室の座敷に加えて玄関と廊下を備えた、単独で成り立つ独立した客室である。
最も目を引くのは、地面との接し方である。建物の後部は庭の築山に載り、前面は懸造状に高い床束の上に立つ。斜面に張り出して建てられた寺院の懸造に通じる構えである。その効果は舞台装置のようで、座敷は庭へと張り出して見える。
小さな躯体に込めた造作
小さいながら、九番の間の仕上げは丁寧である。木造で鉄板葺の屋根を載せ、腰壁を黒塗簓子下見板張、上部を真壁造りとして軸組を見せる。慎ましい床面積と、劇的な構えとの取り合わせにこそ、この座敷の眼目がある。
平成12年(2000年)の登録では、九番の間は登録番号15-0059で登録された。その基準は一群のなかで異彩を放つ。多くの棟に用いられた景観の基準ではなく、「造形の規範となっているもの」として認められた。庭へ舞台のように張り出す姿を、範とすべき例と評価したものである。
味わい方
この座敷の楽しみは、外への眺めと、庭の上に持ち上げられた感覚にある。前面が床束で高く上げられているため、池や植栽は眼下に落ち、小さな部屋は床面積からは想像しにくい広い視界を得る。独立した玄関と廊下により、一つの席がそれ自体で完結した世界となる。
九番の間は営業中の料亭に属し、予約した食事の客に開かれる。隣り合う離れ座敷と並べて見ると、この小さな舞台のような座敷は、行形亭が高低差と庭の起伏を用いて、最も小さな部屋にまで強い場所の感覚を与えたことを示す。
Q&A
- 「懸造」とは何ですか。
- 斜面などに、建物の一部を高い柱で支えて張り出す建て方です。山腹に建てられた寺院に見られます。ここでは座敷の前面がこの方法で庭の上に持ち上げられています。
- なぜ「造形の規範」として登録されたのですか。
- 範となる造形として評価されたためです。小さな座敷が高い床束の上に舞台のように庭へ張り出す姿が、手本とすべき例と判断されました。
- 広さはどのくらいですか。
- 約29平方メートルで、登録された行形亭の座敷のなかで最も小さいですが、前面が床束で上げられているため広い眺めを得ます。
- 九番の間を訪れられますか。
- 営業中の料亭の私的な座敷で、予約した食事の客に開かれます。一般の見学順路ではありません。
基本情報
| 名称 | 行形亭九番の間(いきなりやきゅうばんのま) |
|---|---|
| 所在地 | 新潟県新潟市中央区西大畑町573 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(2000年登録/登録番号 15-0059) |
| 時代 | 明治10年(1877年) |
| 構造・形式 | 木造平屋建、鉄板葺、建築面積約29平方メートル |
| 員数 | 1棟 |
| 所有者 | 株式会社行形亭 |
| 公開 | 営業中の料亭の私的な座敷。食事の予約による |
References
- 国指定文化財等データベース — 行形亭九番の間
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00001587
- 行形亭 公式サイト
- https://www.ikinariya.co.jp/
- 新潟観光コンベンション協会 — 行形亭
- https://www.nvcb.or.jp/topics/ikinariya
最終更新日: 2026.07.09