弁柄で栄えた吹屋の商家
旧片山家住宅は、岡山県高梁市成羽町吹屋にある江戸時代後期から明治時代にかけての商家建築で、平成18年(2006年)12月19日に国の重要文化財に指定された。指定されているのは主屋、宝蔵、米蔵、弁柄蔵、仕事場及び部屋の5棟である。
吹屋は吉備高原の標高およそ600メートルに開けた山間の町で、近世には銅山と弁柄(ベンガラ)の産地として知られた。弁柄は酸化鉄を主成分とする赤色顔料で、漆器や陶磁器の彩色、建物の塗装に使われ、吹屋の家々の柱や格子を染めている色そのものでもある。
片山家は18世紀半ばには吹屋に住んでいたとみられ、初代浅治郎が宝暦9年(1759年)に弁柄の製造を始め、安永元年(1772年)には近隣に工場を建てたとされる。屋号は「胡屋」といい、弁柄の株仲間に加わって当地を代表する商家となり、庄屋や年寄をたびたび務めた。当主は代々浅治郎を襲名している。
家業はおよそ二百年続いた。昭和初期以降、吹屋の弁柄の需要は細り、九代浅治郎の代である昭和46年(1971年)に廃業する。屋敷はのちに公有となり、現在は高梁市が所有している。吹屋の町並みは昭和52年(1977年)に重要伝統的建造物群保存地区に選定された。保存地区はおよそ1.2キロメートル、面積およそ6.4ヘクタールに及び、旧片山家住宅はそのうち最も広壮な構えの続く中町の西端に建つ。
屋敷構えがそのまま残る
敷地は南北に細長く、旧吹屋往来に北面している。通りから見えるのは主屋と、その西に寄り添う小さな宝蔵だけで、残りは奥にある。主屋の後方、東側に米蔵と弁柄蔵、西側に仕事場及び部屋が並び、裏門を出た南側には市の指定を受けた玄米蔵や道具蔵などが控える。
これらは一度に建ったものではない。主屋の主体部は18世紀末頃、南側と仏間部の増築が文政13年(1830年)まで、座敷部は家業の最も盛んな時期にあたる明治8年(1875年)の新築である。宝蔵は文政13年の増築より前、米蔵と弁柄蔵、仕事場及び部屋は安政2年(1855年)以前と判断されている。
年代がここまで細かく押さえられるのは、片山家に家相図が伝わっているためだ。文政13年(1830年)、安政2年(1855年)、安政7年(1860年)の3枚が残り、いずれも建物とあわせて附として指定されている。文政13年の図では弁柄蔵の建つあたりはまだ他家の屋敷地で、仕事場及び部屋の位置には弁柄の製法所や物置が描かれる。安政2年の図になるとほぼ現在の建物が出そろい、敷地は南へ広げられて材木の納屋が加わっている。図面が屋敷の成長をそのまま記録しているわけである。
指定にあたって評価されたのは、江戸時代後期の商家の屋敷構えが主屋と附属建物のまとまりとして良く保たれている点、そして中国地方の山間部を代表する商家建築である点だった。重要伝統的建造物群保存地区の核となる建物であることも理由に挙げられている。
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通りに面した表構え
旧片山家住宅の正面は大壁とし、風雨や火のかかりやすい要所に海鼠壁を廻す。平瓦を並べて目地を白く盛り上げた壁面が、黒い瓦との対比で目に立つ。一階の開口部には出格子、二階には虫籠窓が入り、両開きの大戸や腰壁には近代の意匠も混じる。
棟の線に目をやってほしい。水平に通らず、階段のように高さを変えている。家業の伸びにあわせて増築を繰り返した結果で、そのつど棟の高さが違っているためだ。大棟には煙出しの越屋根が載る。
主屋の内部
主屋の主体部は桁行11.4メートル、梁間15.0メートル。切妻造の段違、平入で、二階建の一部三階建、屋根は桟瓦葺とし庇の一部を鉄板葺とする。東側に通り土間が貫き、これに沿って10畳のミセノマ、タマゴベヤ、ショクジベヤ、ジョチュウイマが北から順に並び、ミセノマの西に6畳のナカノマとチャノマが続く。客を迎えたのは通りに近いミセノマである。
天井が部屋の格を語る。土間まわりは根太天井のままとし、奥の部屋には竿縁天井を張る。小屋組はいずれも和小屋である。
主体部の西に続く仏間部は桁行6.3メートル、梁間8.8メートルで、一階南に10畳のブツマ、北に床の間を備えた6畳のミセオクを置く。その先が明治8年の座敷部で、桁行9.0メートル、梁間5.9メートル、入母屋造。片山家が最も費用をかけた場所である。8畳のオクザシキには床・違い棚・付書院が構えられ、南から東へ鈎形に縁を廻す。オクザシキとシュフイマの境には板の欄間が入る。石見(現在の島根県西部)から大工を招き、銘木を選んで建てさせたと伝わり、電灯の意匠にも当時の趣向がうかがえる。
蔵と仕事場
附属建物の4棟も素通りするには惜しい。宝蔵は桁行3.0メートル、梁間4.9メートルと最も小さく、土蔵造の外壁を漆喰で塗り、腰を縦板で覆って隅に海鼠壁を廻し、水切瓦を付ける。米蔵は桁行6.0メートル、梁間9.0メートル。一階は東から風呂場、土間の物置、板床の米蔵の三室に分かれ、二階は棚を巡らせた広い一室になる。一階が土壁、二階が漆喰塗と仕上げを変えているのが庭側から読み取れる。
弁柄蔵は敷地内で最大で、桁行17.3メートル、梁間7.9メートル、西面南端に納屋を附属する。小屋は桁行に牛梁を通して登梁を架ける豪快なつくりだ。仕事場及び部屋はL字に折れ、桁行の折曲り延長19.6メートル、梁間4.0メートル。庇を方杖で受け、西側を仕事場、南側を職人の部屋とする。登梁が弓なりに反っているのはこの棟の特徴である。現在、蔵の中では弁柄に関わる道具や資料が公開されている。
ゆっくり歩く人ほど得をする細部がある。海鼠壁の釘を隠す錺金物の意匠で、棟ごと、壁ごとに図柄が違い、同じ並びが二つとない。
見学のしかた
旧片山家住宅は一般に公開されており、座敷から蔵まで内部を歩いて見学できる。入館料は大人500円、小中学生250円で、同じ券で通りの向かいにある郷土館にも入れる。吹屋ふるさと村の5施設を巡る周遊券は大人1,000円、小中学生500円である。
開館時間は4月から11月が午前10時から午後5時、12月から3月が午前10時から午後4時。12月29日から1月3日は休館する。冬期は吹屋のほかの施設が平日に休むことがあるが、旧片山家住宅は年末年始を除いて毎日開いている。ただし大雪や大雨の警報が出ると全館が急に休館することがあるので、真冬に訪ねるなら観光協会の告知を確かめてから出かけたい。
公共交通ではJR備中高梁駅から吹屋行きのバスに乗り、終点まで約60分。JR備中川面駅からは約40分である。車なら中国自動車道新見インターチェンジから約40分、岡山自動車道賀陽インターチェンジから約55分。吹屋の公設駐車場は無料で使える。令和8年(2026年)3月20日からは、町並みを巡る小型の電動車が主に土曜・日曜・祝日に運行している。
旧片山家住宅で見学者の写真撮影を一律に禁じる案内は出ていない。室内は薄暗いので、目が慣れるのを待ってから構えるとよい。取材や商業目的の撮影は高梁市観光協会吹屋支部(0866-29-2205)が窓口となっており、事前の連絡を求めている。個別の部屋について迷ったら受付で尋ねてほしい。
Q&A
- 旧片山家住宅は内部を見学できますか。入館料はいくらですか。
- 見学できます。主屋の座敷や奥の蔵まで公開されています。入館料は大人500円、小中学生250円で、向かいの郷土館と共通です。吹屋ふるさと村の5施設を巡る周遊券は大人1,000円です。
- 旧片山家住宅の開館時間と休館日を教えてください。
- 4月から11月は午前10時から午後5時、12月から3月は午前10時から午後4時です。12月29日から1月3日は休館します。冬期も平日を含めて開館していますが、大雪や大雨の警報で臨時休館になることがあります。
- 旧片山家住宅へは公共交通機関でどう行きますか。
- JR備中高梁駅から吹屋行きのバスで終点まで約60分、下車してすぐです。JR備中川面駅からは約40分。便数が少ないので、着いたらまず帰りの時刻を確かめておくと安心です。
- 旧片山家住宅で重要文化財に指定されているのはどの建物ですか。
- 主屋、宝蔵、米蔵、弁柄蔵、仕事場及び部屋の5棟です。あわせて文政13年(1830年)、安政2年(1855年)、安政7年(1860年)の家相図3枚が附として指定されています。裏門の南側にある蔵は市の指定です。
- 旧片山家住宅の館内で写真を撮ってもよいですか。
- 見学者の撮影を一律に禁じる案内は出ていません。部屋ごとに掲示がある場合もあるので、受付で確かめてください。取材や商業撮影は高梁市観光協会吹屋支部(0866-29-2205)への事前連絡が必要です。
基本情報
| 名称 | 旧片山家住宅(岡山県高梁市成羽町) |
|---|---|
| 所在地 | 岡山県高梁市成羽町吹屋367番地 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物) |
| 指定年 | 平成18年(2006年)12月19日指定 |
| 員数 | 5棟、附として家相図3枚 |
| 寸法 | 主屋主体部 桁行11.4メートル、梁間15.0メートル/弁柄蔵 桁行17.3メートル、梁間7.9メートル/仕事場及び部屋 桁行折曲り延長19.6メートル、梁間4.0メートル |
| 所有者 | 高梁市 |
| 公開状況 | 公開(有料)。4月から11月は午前10時から午後5時、12月から3月は午前10時から午後4時。12月29日から1月3日は休館 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース 旧片山家住宅(岡山県高梁市成羽町) 主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/00004159
- 文化庁 国指定文化財等データベース 旧片山家住宅(岡山県高梁市成羽町) 弁柄蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/00004162
- 文化庁 国指定文化財等データベース 旧片山家住宅(岡山県高梁市成羽町) 仕事場及び部屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/00004163
- 高梁市 文化財 旧片山家住宅 附家相図
- https://www.city.takahashi.lg.jp/bunkazai/map/0121.html
- 高梁市 文化財 旧片山家住宅(市指定の玄米蔵・弁柄箱・道具蔵)
- https://www.city.takahashi.lg.jp/bunkazai/map/0135.html
- 高梁市観光課 吹屋ふるさと村
- https://www.city.takahashi.lg.jp/soshiki/9/fukiya4240131.html
- 文化庁 日本遺産ポータルサイト 旧片山家住宅
- https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/5403/
- 文化遺産オンライン 旧片山家住宅(岡山県高梁市成羽町) 主屋
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/124934
最終更新日: 2026.09.09
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