名門校の柔道部を支えた木造道場

岡山市街の東、操山のふもとに広がる校地の東寄りに、桁行約一八メートル、梁間約一三メートルの細長い木造平屋が建っている。完成は大正八年(一九一九年)。当時ここに置かれていたのは第六高等学校、略して六高と呼ばれた官立の旧制高等学校で、卒業生の多くが東京帝国大学と京都帝国大学へ進んだ全国有数の進学校であった。なかでも運動部の活躍は際立ち、柔道部は昭和初期の全国大会で八年連続の優勝を重ねている。その鍛錬の場として用意されたのが、この道場である。

建物は外観こそ簡素だが、つくりは手堅い。屋根は切妻造で、軒側ではなく妻側から入る妻入の形式をとり、鉄板で葺かれている。基礎は煉瓦積み、建築面積は二四一平方メートル。その大半が広い畳敷きの稽古場にあてられている。

国の登録に至った理由

この道場が国の登録有形文化財(建造物)に登録されたのは平成二十三年(二〇一一年)一月、第六十九回登録の折で、登録番号は33-0235である。登録有形文化財は、おおむね築五十年を経た近代以降の建造物のうち、国土の歴史的景観に寄与しているものなどを対象とする制度で、当初の意匠や技法をよくとどめている点が評価された。各地で建て替えが進み、大正期の学校体育施設はほとんど残っていない。その数少ない好例として、この建物は登録の対象となった。

価値は、周囲で失われたものの大きさによっていっそう際立つ。昭和二十年(一九四五年)六月の岡山空襲で、六高の校舎や寄宿舎は焼け落ちた。昭和二十四年に学校が新制岡山大学へ包括され、校地が現在の高等学校へ引き継がれたとき、創立当初からの建物はわずかしか残っていなかった。この柔道場と、煉瓦造・鉄筋コンクリート造の二棟の書庫、そして石造の正門が、その数少ない残存例である。四件がまとめて登録されたのも、こうした事情による。

訪れたときに注目したい点

知っておくと面白いのは、畳の下に隠れた仕掛けである。床組にはバネが仕込まれ、踏むとわずかにたわむようになっている。投げと受け身を繰り返す柔道にとって、この弾力は身体への配慮そのものであり、一般の講堂を転用したのではなく、柔道のために設計された建物であることを最もはっきりと示す特徴でもある。

基礎の上に立つ外壁は、横板を細い竪桟で押さえる簓子下見板張で仕上げられている。隅部の壁の荷重は、建築当初から取り付けられた方杖が受け止める。頭上の小屋組は伝統的な和小屋ではなく洋小屋で、大正期の学校建築にすでに西洋の構造技術が入り込んでいたことがうかがえる。昭和六十三年と平成十九年の改修を経てなお現役だが、これらの当初の選択は損なわれずに残された。

ひとつ実用的な注意を。ここは現役の県立高等学校の校地であり、柔道場をはじめとする登録建造物は自由に見学できる施設ではない。一方、石造の正門と長い石積は、校地の脇を通る公道から眺めることができる。

Q&A

Q第六高等学校とはどんな学校でしたか。
A明治三十三年(一九〇〇年)に岡山へ設けられた官立の旧制高等学校で、戦前のいわゆるナンバースクール八校のひとつです。卒業生の多くが東京・京都の両帝国大学へ進みました。昭和二十五年、岡山大学への統合を経て廃止されています。
Q床にバネがあるのはなぜですか。
A床組にバネを装置することで床面に弾力をもたせ、稽古での受け身や投げの衝撃をやわらげるためです。学校における専用の柔道場の床仕様として、早い時期の例にあたります。
Qいつ建てられた建物ですか。
A大正八年(一九一九年)の竣工です。その後、昭和六十三年と平成十九年に改修されていますが、木造の軸組や外壁の仕上げは当初のものが保たれています。
Q建物の中に入れますか。
A入れません。道場は現役の高等学校の構内にあり、一般公開はされていません。校地の縁に立つ登録対象の正門と石積は、周囲の公道から見ることができます。
Q屋根はどのような形式ですか。
A小屋組は和小屋ではなく洋小屋を用い、切妻造妻入の形に鉄板で葺いています。

基本情報

名称岡山県立岡山朝日高等学校(旧第六高等学校)柔道場
所在地岡山県岡山市中区古京町2-1241-1
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号33-0235
登録年月日平成23年(2011年)1月26日 第69回登録
年代大正8年(1919年) 昭和63年・平成19年改修
員数・規模1棟 木造平屋建、鉄板葺、建築面積241平方メートル
所有者岡山県
公開状況現役の高等学校構内につき内部は非公開

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 岡山県立岡山朝日高等学校(旧第六高等学校)柔道場
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008567
第六高等学校 (旧制) ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/第六高等学校_(旧制)

最終更新日: 2026.06.25