仲屋町通りに残る造り酒屋の屋敷
まちや倶楽部(旧西勝酒造)は、滋賀県近江八幡市仲屋町中にある旧造り酒屋の建物群で、寛保元年(1741年)の文庫蔵を最古とする9棟が、令和4年(2022年)2月17日に国の登録有形文化財となった。
屋敷は仲屋町(すわいちょう)通りに東を向けて建つ。通りに面するのは酒屋の住まいであった主屋で、その背後に文庫蔵と酒造りの蔵が連なり、敷地の奥へ向かって西へ、北へと広がっていく。文化庁の答申は、この並びを「元造り酒屋」の屋敷として一括して評価している。
西勝酒造の創業は江戸時代とされる。近江八幡市の公式観光サイトと、建物を管理するまちや倶楽部はいずれも「江戸期創業」と書き、宿の公式サイトは「江戸後期創業」としている。創業年を示す一次資料は確認できていない。
宿の公式サイトによれば、この建物は2010年まで近江八幡市で唯一の酒蔵として使われていた。酒造りを終えたあと、まちや倶楽部が2012年6月から町家や蔵の維持保全と再活用に取り組み、主屋は宿に、蔵は店舗や貸しスペースに改められた。登録はその10年後にあたる。
9棟が一連で登録された理由
登録された9棟は、主屋・文庫蔵・洗場・麹蔵・酛蔵・南仕込蔵及び通り蔵・北仕込蔵・槽蔵・中央蔵である。まちや倶楽部(旧西勝酒造)の建物群は、令和3年(2021年)11月19日の文化審議会答申で一括して取り上げられ、いずれも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準で登録された。
答申の解説は、個々の蔵の意匠よりも組み合わせに目を向けている。洗米と蒸米、麹造り、酒母造り、仕込み、搾り、瓶詰という酒造りの工程ごとに建物が分かれ、それが一つの敷地に揃って残る。答申はこれを「酒造りの情景浮かぶ建物群」と要約した。
建てられた時期には200年以上の幅がある。最も古い文庫蔵が寛保元年(1741年)、主屋・洗場・酛蔵・南仕込蔵及び通り蔵が明治前期(1868〜1882年)、槽蔵が明治44年(1911年)、麹蔵が昭和中期、北仕込蔵が昭和34年(1959年)である。北仕込蔵は1階を鉄筋コンクリート造とし、小屋組にトラスを用いる近代的な蔵で、答申は酒造量の増加を示す建物と位置づけている。
伝統的な土蔵造の蔵と、モルタル仕上げの近代の蔵が同じ敷地で隣り合う。造り酒屋が生産を拡げながら建物を足していった過程が、そのまま配置に残っている点が、旧西勝酒造の建物群の見どころといえる。
酒造りの順に棟をたどる
文化庁の解説に書かれた位置関係をつなぐと、敷地の構成がおおよそ読める。主屋の背後、西側に文庫蔵があり、さらにその西に洗場が建つ。洗場は板張りの外壁と、棟の上に載る越屋根で見分けがつく。
酒造りの工程では、洗場で米を洗って蒸したあと、麹蔵で麹をつくり、酛蔵で酒母を育てる。麹蔵は酛蔵の西に並び、いずれも床を板敷とする。その北に南仕込蔵及び通り蔵があり、さらに北に北仕込蔵が大きな量感で建つ。仕込みを終えたもろみは槽蔵で搾られた。槽蔵は敷地の外郭にあり、土蔵造ながら小屋組をトラスとしている。
工程の最後にあたるのが中央蔵で、かつては瓶詰所であった。主屋の南西に建ち、低い棟を西へ継ぎ足して長い蔵になっている。答申はこの中央蔵を「増築を繰り返して長大な蔵となった」と説明する。
各棟の構造や寸法、現在の使われ方は、それぞれの棟のページにまとめた。まちや倶楽部(旧西勝酒造)全体として見るなら、通りから主屋を眺めたあと、敷地の奥へ入り、蔵の外壁の違い(漆喰、板張、モルタル)を順に比べていくと、200年あまりの建物の重なりが分かりやすい。
名称と表記
文化庁の登録名は棟によって「旧西勝酒造」と「旧西勝酒蔵」の2通りがある。南仕込蔵及び通り蔵・北仕込蔵・槽蔵の3棟が「酒蔵」、残る6棟が「酒造」で、読みはいずれも「きゅうにしかつしゅぞう」と振られている。同じ造り酒屋を指す表記ゆれである。
「西勝」は「にしかつ」と読む。所在地の「仲屋町」は近江八幡では「すわいちょう」と読み、答申も「仲屋(すわい)町通り」とふりがなを付けている。施設名の「まちや倶楽部」は「まちや俱楽部」と書かれることもある。宿は2021年まで「MACHIYA INN近江八幡」の名で営業し、現在は「近江八幡まちや倶楽部」に改めている。
見学とアクセス
まちや倶楽部(旧西勝酒造)の敷地は、旧八幡郵便局とアンドリュース記念館のあいだを抜ける小径になっており、自由に通行できる。まちや倶楽部はこの小径を、近江八幡のヴォーリズ建築を結ぶ「近江八幡ヴォーリズ・ストリート」の一部と位置づけている。見学料は設けられていない。
建物の内部に入れるかどうかは棟によって異なる。主屋は宿の本館で、内部は宿泊客のみが利用できる。文庫蔵は直営ショップになっており、営業時間内なら誰でも入れる。槽蔵と酛蔵は予約制の貸しスペースである。敷地内には他にも複数の店舗が入っており、営業日と営業時間は店ごとに異なる。問い合わせ先はまちや倶楽部の代表電話0748-32-4654。
撮影の可否について、まちや倶楽部の公式な告知は見当たらない。小径から外観を撮るぶんには支障はないと思われるが、店舗の内部や宿の客室では各店・宿に確認するのが確実である。
電車では、JR琵琶湖線の近江八幡駅から近江鉄道バスの長命寺行きに乗り、約7分の「八幡堀(大杉町)八幡山ロープウェイ口」で降りて徒歩約5分。車では名神高速道路の竜王インターチェンジから約25分。専用の駐車場はないため、周辺の有料駐車場を使う。以上の情報は2026年9月25日時点のものである。
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース まちや倶楽部(旧西勝酒造)主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00014173
- 文化庁 令和3年11月19日 文化審議会の答申(登録有形文化財(建造物)の登録)について
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/pdf/93601801_02.pdf
- 文化遺産オンライン まちや倶楽部(旧西勝酒造)主屋
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/587723
- 文化遺産オンライン まちや倶楽部(旧西勝酒蔵)北仕込蔵
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/592550
- まちや倶楽部 まちや倶楽部の酒蔵跡建物が国登録有形文化財に登録されました。
- https://machiya-club.org/%E3%81%BE%E3%81%A1%E3%82%84%E5%80%B6%E6%A5%BD%E9%83%A8%E3%81%AE%E9%85%92%E8%94%B5%E8%B7%A1%E5%BB%BA%E7%89%A9%E3%81%8C%E5%9B%BD%E7%99%BB%E9%8C%B2%E6%9C%89%E5%BD%A2%E6%96%87%E5%8C%96%E8%B2%A1%E3%81%AB/
- まちや倶楽部 取り組み
- https://machiya-club.org/torikumi/
- まちや倶楽部 施設案内
- https://machiya-club.org/shisetsu/
- 近江八幡まちや倶楽部(宿泊)公式サイト
- https://www.omi-machiyainn.com/
- 近江八幡観光物産協会 まちや倶楽部
- https://www.omi8.com/spot/detail_1193.html
最終更新日: 2026.09.24
基本情報
| 名称 | まちや倶楽部(旧西勝酒造) |
|---|---|
| 所在地 | 滋賀県近江八幡市仲屋町中15-1 |
| 指定 | 登録有形文化財 9件 |
| 座標 | 35.13836, 136.09207 |