裁判所の車寄が神社の建物になるまで
近江神宮自動車清祓所(旧大津裁判所本館車寄)は、滋賀県大津市神宮町の近江神宮境内に建つ明治23年(1890年)建築の車寄で、昭和46年(1971年)に移築され、平成10年(1998年)に国の登録有形文化財に登録された。
この境内の登録建造物はいずれも近江神宮のために設計されたものだが、この一棟だけは違う。もとは大津地方裁判所庁舎の玄関車寄、明治23年に建てられた官庁建築の一部である。所有する神社よりも半世紀ほど年上ということになる。
昭和46年、庁舎の解体建て替えにあたって車寄が譲り受けられ、この地に建て直された。現在は自動車の清祓、つまり新車や乗り換えた車の交通安全を祈願する神事の場を覆っている。建築面積26平方メートル、木造平屋建、銅板葺。
出自は細部に残る
大津地方裁判所は、明治の官庁建築に多い洋風ではなく和風の庁舎だった。だからこの車寄は、神社の境内に置かれても違和感がない。来歴を知らずに見れば、昭和15年の造営時からここにあったものと受け取る人もいるだろう。
手がかりは二つある。ひとつは構造で、隅柱それぞれに控柱を2本ずつ添わせている。この二重の控えは珍しく、公共建築の正面に単独で建つ車寄という性格によく合う。もうひとつは紋章だ。破風は緩やかに膨らんだムクリ破風で、その下に下がる懸魚は蝙蝠形。この懸魚に菊の紋章が付く。皇室の紋であり、この車寄の奥に法廷があった明治国家の官庁であることを示す印である。
登録は平成10年10月9日付、登録番号25-0088、登録基準は「造形の規範となっているもの」。文化庁データベースは年代を「明治23/昭和46移築」と両論併記の形で記録しており、この建物が持つ二つの生涯がそのまま台帳に残されている。
見どころ
まず菊の紋章を探してほしい。破風下の懸魚に、外へ向けて付いている。これを見つけた瞬間、建物の見え方が組み替わる。神社の施設ではなく、役に立つことで生き延びた明治の官庁の一部なのだ、と。
次に一歩下がって、隅の控柱を数える。境内のほかの建物がおおむね柱一本で立っているのに対し、2本ずつ添えられた控柱は目に見えて頑丈だ。三方から見られることを前提とした車寄を、どう自立させたかがここに表れている。
清祓所は屋外にあり、参拝時間の6時から18時のあいだ、いつでも無料で見ることができる。外観の撮影に制限はない。ただし実際に車と神職が使っているときは道を譲りたい。展示物ではなく、今も働いている設備である。
京阪石山坂本線の近江神宮前駅から徒歩約9分。駐車場は200台分あり、正月期間を除き無料。この建物にとっては車で来る人こそが本来の相手なので、自動車での参拝も的外れではない。
よくある質問
- 近江神宮自動車清祓所はなぜ神社より古いのですか。
- 神社のために建てられた建物ではないからです。もとは明治23年(1890年)建築の大津地方裁判所庁舎の玄関車寄で、昭和46年(1971年)の庁舎解体建て替えにあたって近江神宮へ移築され、自動車の清祓を行う場を覆う建物として使われるようになりました。
- 近江神宮自動車清祓所が裁判所由来だと、どこを見ればわかりますか。
- 破風の下に下がる懸魚を見てください。緩やかなムクリ破風の下に蝙蝠形の懸魚が下がり、そこに菊の紋章が付いています。皇室の紋であり、明治期の官庁であったことを示します。隅柱に控柱を2本ずつ添える構えも、公共建築の車寄らしい特徴です。
- 近江神宮自動車清祓所では何が行われているのですか。
- 自動車の清祓です。新車や新たに購入した車を持ち込み、交通安全を祈願する神事で、各地の神社で広く行われています。この建物はその神事を行う場所を覆う屋根であり、人が中で過ごすための建物ではありません。
- 近江神宮自動車清祓所は自由に見学できますか。
- できます。屋外に建っており、参拝時間である6時から18時のあいだは無料で見学でき、撮影の制限もありません。ただし清祓の最中は現役の設備として使われていますので、道を譲るようにしてください。
- 近江神宮自動車清祓所の文化財としての区分を教えてください。
- 登録有形文化財(建造物)で、登録番号は25-0088、平成10年(1998年)10月9日登録、同月26日告示です。登録は指定より軽い保護の枠組みで、改変には許可ではなく届出を要し、築おおむね50年以上の建物が対象になります。
基本データ
| 名称 | 近江神宮自動車清祓所(旧大津裁判所本館車寄) |
|---|---|
| 所在地 | 滋賀県大津市神宮町1-1 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 25-0088 |
| 指定年 | 平成10年(1998年)10月9日登録、同月26日告示 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 建築面積26平方メートル、木造平屋建、銅板葺 |
| 所有者 | 近江神宮 |
| 公開状況 | 屋外に建ち自由に見学可。境内参拝時間は6時から18時、無料 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00000866
- 近江神宮公式サイト「境内図と境内各所のご案内」
- https://oumijingu.org/pages/96/
- 近江神宮公式サイト「交通アクセス」
- https://oumijingu.org/pages/85/
- 文化遺産オンライン「近江神宮本殿」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/166142
最終更新日: 2026.07.23