京の町を写し取った一双の屏風

米沢市上杉博物館が収める「上杉本洛中洛外図屏風」は、紙に金箔を貼った地へ墨と岩絵具で京都の市街を描いた六曲一双の屏風である。画面には老若男女、身分も職業も問わず、およそ2485人もの人物が描き込まれている。商家の軒先、門前、社寺の境内で思い思いに動く人々が、小さな筆致で一人ずつ写し取られている。

右隻は祇園祭でにぎわう下京、左隻は将軍の邸宅などが置かれた上京を、いずれも俯瞰の視点でとらえる。金雲が町並みの区画を分け、季節も名所も一つの画面のなかに同居する。「洛中洛外図」は京の市中(洛中)と郊外(洛外)を一望のもとに描く画題で、十六世紀には多くの屏風が制作された。そのなかで最も名高い作例が、描かれた京から遠く離れた山形・米沢の地に収まっている。

筆者は誰か

この種の屏風は作者が知られないものが大半だが、本図は例外である。左右の両隻に「州信」と読む朱文の円郭壺形印が捺されている。州信(くにのぶ)は狩野永徳(1543〜1590)の諱であり、のちに織田信長や豊臣秀吉に重用され、桃山画壇の頂点に立つことになる絵師の、若き日の名である。

筆者が判明する洛中洛外図は本図のほかになく、しかもその筆者が日本絵画史を代表する一人であるという点に、本図の大きな意味がある。緻密でよどみのない描写から、二十歳代前半の永徳の筆とみる説もあるが、制作年代には諸説が残る。文化庁は本図を桃山時代の作とするが、室町時代後期の作として紹介されることもあり、両時代の境目に位置づけられる作品である。

国宝に指定された理由

本図は平成7年(1995年)6月15日に国宝へ指定された。価値の一つはその希少性にある。桃山時代前期より前にさかのぼる洛中洛外図は、本図と、ともに国立歴史民俗博物館が保管する三条本・高橋本(いずれも重要文化財)の三例が知られるのみである。

なかでも本図は情報量で群を抜く。金雲の上には、寺社や武家・公家の邸宅の名を記した墨書が232か所も書き込まれており、三条本の61か所を大きく上回る。描かれる人物の数も、年中行事や民衆の風俗の場面も他本よりはるかに多く、細やかで破綻のない描写によって表されている。

見どころ

右隻では、祇園祭の山鉾が家々の屋根の間を進み、それを見物する人々が通りを埋める。同じ右隻には御所、清水寺の舞台、東寺の塔も描かれている。左隻では将軍の邸宅と、有力者・細川邸が大きく扱われる。

画中のある門は、永禄4年(1561年)に将軍足利義輝が三好邸を訪れる際に新造された冠木門にあたると指摘されている。こうした細部から、描かれた景観の年代を永禄年間に置く見方が導かれてきた。ただし景観の年代と制作の年代が必ずしも一致するわけではない。

画面に顔を近づけると、本図は働く都市の図鑑のように見えてくる。洗濯物を干す者、犬を追う子ども、品物を並べる商人、社頭へ向かう行列。原本は傷みやすいため照明は抑えられ、公開期間も短い。展示ケースの前をゆっくり一周するほどに、こうした場面が見つかる。

「上杉本」の名は、米沢藩主の上杉家に長く伝えられたことに由来する。上杉家の記録によれば、本図は織田信長から上杉謙信へ贈られた屏風にあたると考えられ、その年は天正2年(1574年)とされることが多い(文化庁は天正元年または2年とする)。将軍義輝が当初この屏風を謙信への贈り物として作らせようとし、その死によって計画が他者に引き継がれたとする伝えもあるが、確証のある話ではない。

周辺の見どころと拝観

博物館は、旧米沢城跡にあたる松が岬公園に隣接する文化施設「伝国の杜」のなかにある。徒歩数分のところには上杉謙信を祀る上杉神社があり、「為せば成る」の言葉で知られる名君・上杉鷹山の像も建つ。近くの上杉記念館(旧伯爵邸)では、鷹山の救荒食に由来する料理を含め、米沢の郷土の味を楽しめる。

拝観にあたっては注意がいる。原本が展示されるのは春と秋の限られた期間(おおむね各一か月)のみで、それ以外の時期は精巧な複製が公開される。複製はガラスを隔てずに間近で見られる利点があり、それ自体に見る価値がある。隣の一室では、十六世紀の京の町なかを映像でたどる展示も行われている。

Q&A

Q原本はいつでも見られますか。
A原本の公開は春と秋の限られた期間(各一か月程度)に限られ、それ以外は複製が展示されます。来館前に博物館の展示予定をご確認ください。
Q作者はどのように特定されたのですか。
A両隻に捺された「州信」印により、狩野永徳の筆と判断されています。作者が判明している洛中洛外図は本図のみです。
Qなぜ京都の屏風が山形県にあるのですか。
A織田信長が上杉謙信へ贈ったと伝わり、以後、米沢を治めた上杉家に伝来したためです。
Q博物館へのアクセスは。
A東京から山形新幹線で米沢駅まで約2時間です。米沢駅から約2km、市街地循環バスで約10分、「上杉神社前」で下車します。
Q見学時間の目安と料金は。
A所要は1〜2時間が目安です。常設展では国宝「上杉家文書」や映像展示も見られます。常設展の観覧料は一般410円です。

基本情報

名称紙本金地著色洛中洛外図〈狩野永徳筆/六曲屏風〉(通称:上杉本洛中洛外図屏風)
指定区分国宝(絵画)
指定年月日平成7年(1995年)6月15日
時代桃山時代(16世紀)
作者狩野永徳(1543〜1590)
員数一双(六曲屏風二隻)/紙本金地著色
所有者米沢市
所在地米沢市上杉博物館(山形県米沢市丸の内1-2-1)
公開原本は期間限定公開、通常は複製を展示。常設展観覧料 一般410円。開館9:00〜17:00(入館は16:30まで)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/10332
文化遺産オンライン(国立情報学研究所)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/47441
米沢市上杉博物館(伝国の杜)国宝 上杉本洛中洛外図屏風
https://www.denkoku-no-mori.yonezawa.yamagata.jp/rakuchyu_rakugai.htm
伝国の杜 お問合わせ(アクセス案内)
https://www.denkoku-no-mori.yonezawa.yamagata.jp/info.htm
キヤノン 綴プロジェクト 洛中洛外図屏風(上杉本)
https://global.canon/ja/tsuzuri/works/rakuchurakugaizu-uesugibon/

最終更新日: 2026.06.08