九十年を経てなお現役の木造校舎

山形県米沢市の九里学園高等学校。その正面に立つ木造校舎は昭和10年(1935年)の建築で、いまも生徒たちが日々この玄関をくぐる。木造2階建、瓦葺で、建築面積はおよそ1,713平方メートル。L字型の平面を持つ細長い建物が、上杉神社の参道沿いに静かに構えている。

学校の沿革によれば、この校舎が建つ前年に火災が起き、校舎の大半が焼失したという。現在の建物は、その焼失からの再建として昭和10年に竣工した。米沢の街は明治・大正・昭和を通じて幾度か大火に見舞われており、木造の学び舎が時代を越えて残ること自体が、決してたやすいことではなかった。

文化財としての登録名は「米沢女子高等学校校舎」である。登録が行われた平成9年(1997年)当時の校名がそのまま用いられているためで、学校自体は明治34年(1901年)に九里とみが開いた九里裁縫女学校を起源とする、山形県内で最も古い私立学校にあたる。戦後の学制改革を経て米沢女子高等学校となり、平成11年(1999年)に男女共学化して現在の九里学園高等学校へ改称した。登録名と現校名の違いには、こうした歩みが映し出されている。

現役の校舎が文化財となる理由

この建物は国宝や重要文化財のような指定文化財ではなく、登録有形文化財に位置づけられる。登録の制度は平成8年(1996年)に設けられた比較的新しい仕組みで、築後おおむね50年を経て国土の歴史的景観に寄与する建造物などを、届出を基本とする緩やかな保護のもとに置く。所有者は外観を守ることに同意しつつ、建物を使い続け、必要に応じて手を加えることができる。

厳格な許可制をとる指定の制度に対し、登録は使いながら守るための制度だといえる。学校がこれからも学校であり続けられるのは、この柔軟さがあればこそだ。本校舎が登録されたのは平成9年5月7日、官報告示は同月29日で、登録番号は06-0004。登録の理由は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」とされている。

米沢城址の濠と石垣に近い一画にあって、この校舎は周囲の町並みと一体の歴史的な景観をかたちづくっている。個々の建物の格付けよりも、場所全体の趣を守ろうとする登録制度の考え方が、ここではよく見てとれる。

外観に見るべきところ

見どころは、道を隔ててゆっくりと眺めたときに立ち上がってくる。外壁は下見板張りをハーフティンバー風に見せる仕上げで、昭和初期の地方の学校建築としては先進的な洋風の意匠だった。水平に走る板が長い正面に一定のリズムを与えている。

建物の中央には、垂直の線を強調した素朴な意匠の玄関が据えられる。大仰な車寄せではなく、控えめに視線を上へ導く構えである。注意したいのは、2階の窓枠のすぐ下に並ぶ小さな窓だ。これは小屋裏に空気を通すための気抜きの窓で、平坦になりがちな壁面に細かな変化を添えている。全体として華美に走らず、風格のある外観に仕上がっており、市民に長く親しまれてきた。

1階を高くして上に屋根裏部屋を載せるのではなく、総二階建とした点も見逃せない。そのため建物は道に向かって均整のとれた堂々とした表情を見せ、隣り合う上杉神社の社殿建築の傍らにあっても引けを取らない。

あわせて訪ねたい周辺

校舎は、米沢でも見どころが集まる一画の縁に立っている。少し歩けば旧米沢城の城内であった松が岬公園に至り、水をたたえた広い濠と残された石垣が往時の輪郭を描く。公園は明治7年(1874年)に市民へ開放され、およそ200本の桜が植えられて、4月下旬には大勢の花見客でにぎわう。

その中心に鎮座するのが、上杉謙信を祭神として城の本丸跡に建てられた上杉神社である。近くの稽照殿には上杉家ゆかりの武具などが収められ、重要文化財も少なくない。伝国の杜の米沢市上杉博物館には、上杉本洛中洛外図屛風が所蔵される。この城跡は、独眼竜として知られる伊達政宗の生誕の地としても記憶されている。

米沢といえば米沢牛で、公園周辺の店ではさまざまな調理で味わえる。市内へは山形新幹線が通じ、校舎は米沢駅からおよそ徒歩20分、米坂線の南米沢駅からはより近い。

Q&A

Q建物の中を見学できますか。
A現役の高校のため、内部は一般公開されていません。外観は公道や上杉神社の参道から眺め、撮影することができます。
Qいまは共学なのに、なぜ女子高等学校という名前なのですか。
A登録された平成9年当時の校名が米沢女子高等学校だったためです。平成11年に共学化して九里学園高等学校へ改称しましたが、文化財の登録名は当初のまま用いられています。
Q登録有形文化財は重要文化財とどう違うのですか。
A登録は平成8年に始まった緩やかな制度で、外観を守りながら使い続けることを基本とし、築50年を超える建物などが対象です。重要文化財や国宝はより古い指定の制度に属し、厳格な許可制がとられます。
Q訪ねるのに適した季節はいつですか。
A城址の濠端に桜が咲き、4月29日から5月3日に米沢上杉まつりが開かれる4月下旬が人気です。雪を背にした冬の木造校舎も見ごたえがあります。
Q東京からの行き方を教えてください。
A山形新幹線で米沢駅まで、およそ2時間半から3時間です。駅から校舎と城址公園までは徒歩20分ほどです。

基本情報

名称米沢女子高等学校校舎(現・九里学園高等学校)
所在地山形県米沢市門東町1-1-72
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 06-0004
登録年月日平成9年(1997年)5月7日(告示5月29日)
建築年昭和10年(1935年)
構造木造2階建、瓦葺、建築面積約1,713平方メートル、1棟
所有者学校法人九里学園
アクセス米沢駅(山形新幹線)から徒歩約20分
公開状況現役の学校。外観のみ公道から見学可

References

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00000119
文化遺産オンライン(国立文化財機構)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/191119
九里学園高等学校 九里の歴史
https://kunori-h.ed.jp/history/
米沢城址/松が岬公園(やまがたへの旅)
https://yamagatakanko.com/attractions/detail_2314.html

最終更新日: 2026.06.18