尾張東部の丘に残る庄屋の家
旧市川家住宅主屋は、愛知県日進市野方町にある江戸時代の木造平屋建の民家で、平成25年(2013年)12月24日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。茅葺の屋根を鉄板で仮に覆った状態で保たれており、建築面積は163平方メートルある。
市川家は野方村の庄屋を務めた家で、当主は代々「藤蔵」を名乗った。家に伝わる文書によれば、明和6年(1769年)に分家して現在の地に屋敷を構えたという。旧市川家住宅主屋はこのとき、愛知郡植田村(現在の名古屋市天白区)にあった庄屋宅を移してきたものと伝えられる。
平面は右側に土間を取り、床を張った部分を前後二列に分けて三室ずつ配する。前列のいちばん奥がザシキで、その隣が中の間。二室は続き間となって接客の場をつくる。裏の列には板の間、納戸、奥納戸が並ぶ。庄屋の格式を備えた大型の民家の姿がそのまま残っている。
「四つ建て」という骨組みと、墨書が明かした年代
登録の基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。評価の中心にあるのは骨組みの形式で、この地方で用いられた「四つ建て」(鳥居建て)と呼ばれる建て方をとる。土間と床上を仕切る位置に立つ柱を含めて、上屋の柱四本を梁でつなぐ構法である。柱二本を梁が渡す姿が鳥居に似ることから、その別名が付いた。
文化庁の国指定文化財等データベースは、旧市川家住宅主屋がこの四つ建てを基本としながら、一部に構造の発達した段階も示す点を挙げている。完成した型の見本ではなく、型が定まっていく途中の姿をとどめた建物ということになる。
建造年代をめぐっては、登録の翌年に新しい事実が出た。平成26年度(2014年度)の改修整備工事で「宝永6年」の年記がある墨書が見つかり、日進市はこれをもとに建造年代が明らかになったと説明している。宝永6年は1709年にあたる。
一方、文化庁データベースは年代を明和6年(1769年)と記す。これは現在地へ移された年である。登録は平成25年(2013年)で、墨書の発見はその後であるため、両者の記載には差が残っている。読み方としては、建てられたのが1709年、現在の場所へ移されたのが1769年、と整理するのが実際に近い。
見どころ
入ってすぐの土間は三和土で仕上げられている。ここで足を止めて、土間と板の間の境に立つ太い柱を見上げてほしい。柱の上を梁が渡り、鳥居のような形が現れる。四つ建てという名前が何を指しているのかは、図面よりこの一点を見るほうが早い。
板の間は嘉永年間に二室へ間仕切られていたが、改修で明和6年(1769年)当時の一室の姿へ戻された。日常の生活と夜なべ仕事の場だった空間である。
納戸と板の間を仕切る建具にも古い形式が残る。鴨居に桟木を打ち付けて溝をつくる「付樋端」で吊られた片引きの板戸で、溝を彫り込む一般的なつくりとは手順が違う。
座敷と中の間には付書院、床の間、簡素な欄間、釘隠しが備わる。庄屋の家として客を迎えるための設えだが、装飾は抑えられている。土間側の粗い骨組みと座敷側の整った意匠、その落差が一棟のなかに同居しているところが旧市川家住宅主屋の面白さである。庭と前庭に面した縁側に腰を下ろせば、両方の側が見渡せる。
馬屋も残っている。明治期に香久山村の村長を務めた五代目が、木曽馬をここで飼っていた。
見学方法
旧市川家住宅は平成27年(2015年)6月4日から一般公開されており、火曜日から日曜日の午前9時から午後5時まで自由に見学できる。休館日は月曜日で、月曜が祝日の場合は開館する。年末年始(12月28日から1月4日)も休みとなる。入場は無料である。
屋内に入って各室を見て回ることができる。板の間、和室の南にある縁側、広場では飲食もできるが、ごみ箱は置かれていないため持ち帰りが必要で、飲酒は控えるよう求められている。
公共交通では名鉄バス日進中央線「野方」で下車し、徒歩1分。日進市役所からは徒歩約10分である。駐車場は8台分(うち障害者等用1台)で、台数が限られるため公共交通機関の利用が呼びかけられている。問い合わせは旧市川家住宅(電話0561-78-0855)まで。
令和5年(2023年)4月から指定管理者による運営に移り、開館日時が拡充された。1月のお正月飾り、3月のひなまつり、5月の端午の節句、7月の七夕飾りなど、季節ごとの飾り付けやワークショップも行われている。(開館時間と料金は2026年9月1日時点の情報)
Q&A
- 旧市川家住宅主屋は見学できますか。開館時間と入場料は?
- 見学できます。火曜日から日曜日の午前9時から午後5時まで開いており、入場は無料です。月曜日は休館ですが、祝日の場合は開館します。年末年始(12月28日から1月4日)は休みです。
- 旧市川家住宅主屋へのアクセスは?駐車場はありますか?
- 名鉄バス日進中央線「野方」バス停から徒歩1分、日進市役所からは徒歩約10分です。駐車場は8台分ありますが台数が限られるため、公共交通機関の利用が呼びかけられています。
- 旧市川家住宅主屋はいつ建てられたのですか?
- 平成26年度の改修工事で「宝永6年」、すなわち1709年の年記がある墨書が見つかりました。現在地へ移されたのは明和6年(1769年)で、文化庁データベースは年代をこの明和6年としています。
- 旧市川家住宅主屋の「四つ建て」とはどのような構造ですか?
- 土間と床上を仕切る柱を含む上屋の柱四本を梁でつなぐ、尾張地方に見られる建て方です。柱と梁が鳥居に似た形をつくることから「鳥居建て」とも呼ばれます。土間と板の間の境で実際に見ることができます。
- 旧市川家住宅主屋の中で飲食や写真撮影はできますか?
- 板の間、和室の南にある縁側、広場では飲食ができます。ごみ箱がないため持ち帰りが必要で、飲酒は控えるよう案内されています。撮影について公式の案内に制限の記載はありませんが、催しの日は現地の指示に従ってください。
基本データ
| 名称 | 旧市川家住宅主屋(きゅういちかわけじゅうたくしゅおく) |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県日進市野方町東島384 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 平成25年(2013年)12月24日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、茅葺(鉄板仮葺)、建築面積163平方メートル |
| 所有者 | 日進市 |
| 公開状況 | 公開。火曜日から日曜日の午前9時から午後5時まで、無料 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース「旧市川家住宅主屋」(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00009772
- 文化遺産オンライン「旧市川家住宅主屋」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/231881
- 日進市「旧市川家住宅」
- https://www.city.nisshin.lg.jp/department/shogai/manabi/5/3/12177.html
- 旧市川家住宅 公式サイト「施設を知る」
- https://kyu-ichikawake.com/facility
- 日進市「教育・生涯学習施設」
- https://www.city.nisshin.lg.jp/department/shogai/manabi/5/3/index.html
最終更新日: 2026.08.31