魚屋の二階を借りて、夏を過ごした人がいた

明治村小泉八雲避暑の家は、愛知県犬山市の博物館明治村にある木造2階建の町家で、明治初年(1868年)頃に静岡県焼津市の城之腰で建てられ、平成16年(2004年)2月17日に登録有形文化財となった。

文化庁の記録は、この建物が呉服雑貨商の店として建てられたと記す。明治村の説明では、のちにここを住まいとしたのは魚屋の山口乙吉であった。海辺の町の、間口3の小さな商家である。

小泉八雲、もとの名をラフカディオ・ハーンというこの人物は、1850年にアイルランド人の父とギリシャ人の母のあいだに生まれ、1890年に来日した。松江をはじめ各地で英語を教え、1896年に日本国籍を得て、同じ年に東京帝国大学へ招かれている。以後、夏になると焼津へ通った。焼津市の記録によれば、滞在したのは1897年から1904年までの夏で、そのうち明治31年と明治36年は来ていない。

建物は1968年に焼津で解体され、1971年に明治村4丁目へ移された。焼津の跡地には「小泉八雲滞在の家跡」の碑が立つ。焼津にあった当時、この家は1949年から静岡県の保護を受けていた。

文豪の家としてではなく、商家として登録された

明治村小泉八雲避暑の家に適用された登録基準は「造形の規範となっているもの」である。登録番号は23-0102で、登録の告示は2004年3月4日に出された。文化庁の解説はこの建物を「地方都市商家の一例」と位置づけている。

つまり評価されたのは、有名な書き手が寝起きしたという来歴ではなく、明治初期の地方の商家がどう建てられていたかを示す標本としての価値である。建築面積は68平方メートル。平入桟瓦葺の町家で、通り土間に沿って3室が並ぶという、教科書のように素直な平面をもつ。

登録有形文化財は1996年に始まった制度で、おおむね建設後50年を経た建造物を対象とし、使いながら守ることを前提に、現状を変えるときは届出を求める。国内に数多く残る近代の町家を広くすくい上げる枠組みであり、明治村小泉八雲避暑の家のような無名の商家こそ、その対象として想定されている。

立ち止まって見たいところ

正面の建具を順に見ていくと、この家がまだ店だったころの姿が読み取れる。入口は引違戸。その脇、店の前にあたる部分には、はめ外しのできる板戸と格子窓が入る。板戸を外せば店先が通りへ開き、閉てれば夜の壁になる。2階には手摺のついた肘掛窓が並ぶ。

中へ入ると通り庭が奥まで抜け、その左に3つの部屋が縦に連なる。手前が店、奥へ行くほど私的な空間になる、間口の狭い商家の定石どおりの並びである。

2階の間取りは、この家が思っていたより広いことを教えてくれる。表側に10と4畳、裏に12畳の座敷。八雲が借りたのは、この2階であった。

八雲は『乙吉の達磨』という文章のなかで、乙吉の店の内側を書きとめている。棚には干物の箱と海藻の包みが積まれ、草鞋や草履の束、酒徳利やラムネの壜が並んでいた。神棚の下には小さな棚がもうひとつあって、そこに赤い達磨が据えられ、供物が上がっていたという。書かれたその店が、いま犬山の丘の上にある。文章と建物を突き合わせられる場所は、そう多くない。

もうひとつ気に留めておきたいのは、屋根と壁の素っ気なさである。装飾らしい装飾はほとんど無い。明治村小泉八雲避暑の家は、見せるために建てられた家ではなく、魚と乾物を売って暮らすために建てられた家であり、その平凡さこそが登録の理由になっている。

明治村小泉八雲避暑の家の見学方法

明治村小泉八雲避暑の家は内部が公開されており、土間と1階の部屋を見学できる。建物が建つのは村内の4丁目で、正門からは遠い側にあたる。歩く距離が長いので、村営バスや京都市電を組み合わせると回りやすい。

見学には博物館明治村の入村料が要る。大人2,500円、高校生1,500円、中学生と小学生は700円、未就学児は無料である。

開村時間は季節で変わる。4月から7月と9月・10月は午前9時30分から午後5時、8月は午前10時から午後5時、11月は午前9時30分から午後4時(土曜・休日は午後5時まで)、12月から2月は午前10時から午後4時、3月は午前9時30分から午後5時。入村できるのは閉村の30分前までである。冬季を中心に休村日があるため、出かける前に公式サイトの開村カレンダーを確認したい。料金と時間はいずれも変更されることがある。

撮影は個人の記録であれば可能である。建物内での三脚の使用は禁じられている。

名鉄犬山駅東口から明治村行きのバスが出ており、名古屋駅と栄からの直行バスもある。車の場合は中央自動車道の小牧東インターチェンジから3キロメートル、駐車場は普通車1,000円である。

Q&A

Q明治村小泉八雲避暑の家は建物の中に入れますか。
A入れます。通り土間と1階の部屋を見学できます。八雲が借りていたのは2階でした。
Q明治村小泉八雲避暑の家は、もともとどこにあった建物ですか。
A静岡県焼津市の城之腰にありました。1968年に解体され、1971年に明治村へ移築されています。焼津の跡地には「小泉八雲滞在の家跡」の碑が立っています。
Q小泉八雲は明治村小泉八雲避暑の家に、いつ滞在していたのですか。
A焼津市の記録では、1897年から1904年までの夏に滞在しました。ただし明治31年と明治36年の夏は来ていません。家主は魚屋の山口乙吉で、八雲は2階を借りていました。
Q明治村小泉八雲避暑の家を見学するには、いくらかかりますか。
A博物館明治村の入村料だけで見学できます。大人2,500円、高校生1,500円、中学生と小学生は700円、未就学児は無料です。建物ごとの追加料金はありません。
Q明治村小泉八雲避暑の家は、なぜ文化財になったのですか。
A「造形の規範となっているもの」という基準で登録有形文化財となりました。文化庁はこの建物を地方都市の商家の一例と位置づけており、評価の理由は八雲との縁ではなく、明治初期の商家建築としての価値にあります。

基本情報

名称明治村小泉八雲避暑の家(めいじむらこいずみやくもひしょのいえ)
所在地愛知県犬山市内山1 博物館明治村内(村内4丁目48番地)
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 23-0102
指定年2004年2月17日 登録(告示 2004年3月4日)
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積68平方メートル、間口3間
所有者公益財団法人明治村
公開状況内部公開。博物館明治村の入村料が必要(大人2,500円)。名鉄犬山駅東口からバス

参考文献

明治村小泉八雲避暑の家(国指定文化財等データベース・文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003868
明治村小泉八雲避暑の家(文化遺産オンライン)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/139638
小泉八雲避暑の家(博物館明治村 公式サイト)
https://www.meijimura.com/sight/小泉八雲避暑の家/
小泉八雲と浜通り(焼津市)
https://www.city.yaizu.lg.jp/museum/yakumo/know-yakumo/hamadori.html
チケット・料金(博物館明治村 公式サイト)
https://www.meijimura.com/guide/price/
開村時間・休村日(博物館明治村 公式サイト)
https://www.meijimura.com/guide/open/

最終更新日: 2026.09.03