大阪商人の別荘として建った洋館
明治村芝川家住宅主屋は、愛知県犬山市の博物館明治村に建つ明治44年(1911年)の住宅建築で、平成20年(2008年)に国の登録有形文化財となった。
もとは兵庫県西宮市上甲東園にあり、大阪の商人だった芝川又右衛門の別荘として建てられた。博物館明治村では「芝川又右衛門邸」の名で案内している。文化庁の台帳に載る名称と館内の呼び名が違うので、村内の案内図を見るときは両方を頭に入れておくとよい。
設計は武田五一。当時は京都高等工芸学校の図案科で主任を務めており、のちに京都帝国大学の建築学科を創設した人物である。明治34年(1901年)から約2年半ヨーロッパに学び、帰国してすぐ、貿易商の福島行信の依頼でアール・ヌーボー様式を取り入れた住宅を設計している。芝川からの依頼はその後、議院建築の視察で再び欧米を回ったあとに来た。
建物は平成7年(1995年)の阪神・淡路大震災で被災して解体され、同じ年に明治村へ寄贈された。平成17年(2005年)に開村40周年の記念事業として復原に着手し、平成19年(2007年)に竣工、同年9月から公開されている。
明治村芝川家住宅主屋が登録された理由
文化庁の登録理由は、和洋の意匠を折衷した住宅の好例として武田五一の設計を評価する。登録番号は23-0284、登録基準は「造形の規範となっているもの」である。国の登録有形文化財のうち住宅は数が多いが、設計者が判明していて、しかもその人物の作風の転換期にあたる作例となると限られてくる。
木造2階建、瓦葺、建築面積165平方メートル。1階は開放的なベランダにボウウィンドウを張り出させて洋風にまとめ、2階は対照的に和風とする。折衷というと上下で別の建物が乗っているような状態を想像しがちだが、明治村芝川家住宅主屋ではプロポーションが破綻していない。文化庁の解説も、両者を破綻なくまとめている点を指摘している。
外壁の姿には来歴がある。創建当初の古写真では杉皮張りで仕上げられていた。昭和2年(1927年)に和館が増築されたのに伴い、外装が大きく変えられたらしい。昭和8年(1933年)刊行の『武田博士作品集』に載る写真ではスパニッシュ風の仕上げになっており、明治村への移築ではこの作品集に写る姿への復原が目指された。いま見えている外観は、創建時ではなく昭和初期の姿である。
明治村芝川家住宅主屋の見どころ
セセッションの気配が残る細部
建物全体の比例に加えて、2階和室の出窓に入る柱間装置、上げ下げ窓、正面と背面に立つ煙突、そして照明器具のデザインに、ウィーンのセセッションを見てきた設計者の手つきが出ている。武田五一はグラスゴー派の作風にも触れており、直線を基調にした細部の処理はその延長にある。細かい飾りを追うより、窓まわりの割り付けと煙突の輪郭を離れて眺めたほうが分かりやすい。
洋間の天井に張られた網代
1階ホールは洋風の漆喰壁だが、天井には網代と葦簾が市松状に組まれている。網代天井も葦簾も数寄屋造の技法で、本来は茶室や和室に用いるものである。それを洋間の頭上に持ち込んだ。逆に2階の座敷では、襖戸の奥に暖炉が仕込まれている。和のなかに洋、洋のなかに和という入れ替えが、明治村芝川家住宅主屋の面白いところで、どちらの部屋でも上と奥を見る癖をつけておきたい。
高台に置かれた配置
明治村では村内3丁目68番地、高台に建っている。もとは西宮の甲東園という郊外の別荘地に建っていた建物なので、周囲に空きのある置かれ方は本来の性格に近い。ベランダから外を見たときの視界の抜けを、建物の内側から確かめてみるとよい。建物ガイドが現地で行われており、予約は不要である。ただし建物保護のため人数を制限する場合がある。
明治村芝川家住宅主屋の見学方法とアクセス
明治村芝川家住宅主屋は博物館明治村の展示建造物である。個別の拝観料はなく、明治村の入村チケットで見学する。入村料は大人2,500円、高校生1,500円、中学生と小学生が700円、未就学児は無料(2026年9月時点)。20名以上には団体料金があり、年間パスポートも販売されている。
開村時間は月によって異なる。3月と、4月から7月、9月・10月は午前9時30分から午後5時まで。8月は午前10時から午後5時まで、11月は午前9時30分から午後4時まで(土曜・休日は午後5時まで)、12月から2月は午前10時から午後4時まで。入村受付は閉村の30分前に終わる。夏季と冬季には不定期の休村日が設定されるので、出発前に公式サイトで確認したい。
撮影は個人利用であれば申請なしにできる。建物内での長時間の撮影と三脚・一脚・レフ板の使用は禁止で、入口付近や狭い通路を占領しての撮影も認められていない。ガイドが入っているときは他の見学者の動線を塞がないようにしたい。
行き方は、名鉄犬山駅の東口から岐阜バスの明治村行きに乗って終点で降りる。名古屋駅の名鉄バスセンターからは高速バスが直通している。車では中央自動車道の小牧東ICから3キロメートル、駐車場は普通車1,000円で北口のすぐ外にある。村内は広く坂が多い。9か所の停留所を約20分で回る村営バスが走っているので、3丁目まではこれを使うと歩く距離を減らせる。
Q&A
- 明治村芝川家住宅主屋は誰が設計したのですか。
- 武田五一です。設計当時は京都高等工芸学校図案科の主任で、のちに京都帝国大学建築学科を創設しました。文化庁の登録理由にも設計者として明記されています。
- 明治村芝川家住宅主屋は「芝川又右衛門邸」と同じ建物ですか。
- 同じ建物です。文化庁の国指定文化財等データベースでの登録名称が明治村芝川家住宅主屋、博物館明治村の展示名が芝川又右衛門邸です。
- 明治村芝川家住宅主屋はもとどこにあり、なぜ移築されたのですか。
- 兵庫県西宮市上甲東園にありました。平成7年(1995年)の阪神・淡路大震災で被災して解体され、同年に明治村へ寄贈されて、平成19年(2007年)に復原が竣工しました。
- 明治村芝川家住宅主屋は内部に入れますか。ガイドはありますか。
- 展示建造物として公開されています。現地で行う建物ガイドがあり予約は不要ですが、建物保護のため入場人数を制限する場合があります。
- 明治村芝川家住宅主屋の外観は建てられた当初の姿ですか。
- 創建時の外壁は杉皮張りでした。昭和2年(1927年)の和館増築に伴って外装が変更され、移築では昭和8年(1933年)刊『武田博士作品集』に載る姿への復原が目指されています。
基本情報
| 名称 | 明治村芝川家住宅主屋 |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県犬山市字内山1 博物館明治村内 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 平成20年(2008年)登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 建築面積165平方メートル、木造2階建 |
| 所有者 | 公益財団法人明治村 |
| 公開状況 | 公開。博物館明治村の展示建造物として内部を見学できる(建物ガイドあり、予約不要) |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース 明治村芝川家住宅主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006857
- 文化遺産オンライン 明治村芝川家住宅主屋
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/197849
- 博物館明治村 芝川又右衛門邸
- https://www.meijimura.com/sight/%E8%8A%9D%E5%B7%9D%E5%8F%88%E5%8F%B3%E8%A1%9B%E9%96%80%E9%82%B8/
- 博物館明治村 開村時間・休村日
- https://www.meijimura.com/guide/open/
- 博物館明治村 チケット・料金
- https://www.meijimura.com/guide/price/
- 博物館明治村 アクセス
- https://www.meijimura.com/guide/access/
最終更新日: 2026.09.03