長崎の斜面から入鹿池の高台へ
明治村長崎居留地二十五番館本館は、愛知県犬山市の博物館明治村にある明治22年(1889年)建築の木造平屋建住宅で、平成15年(2003年)に国の登録有形文化財となった。
もとは長崎の南山手にあった。長崎の外国人居留地は東山手、南山手、大浦の三か所に開かれ、そのうち南山手は長崎湾を見下ろす斜面に洋風住宅が並ぶ一画だった。二十五番地に建てられたこの家は、昭和41年(1966年)に解体されるまで、その斜面から港を見ていた。
棟梁は堤松太郎という日本人である。この一点で建物の見え方が変わる。広いヴェランダ、鎧戸付きの上げ下げ窓、下見板の外壁は、東アジアの開港場に広まったコロニアル・スタイルの語彙だが、軸組と屋根と造作を担ったのは、日本の大工技術を身につけた職人だった。外国人施主の求めを図面と口伝から読み取り、手持ちの技で組み立てている。
建築面積は241平方メートル。屋根は寄棟造の桟瓦葺で、正面と両側面には一段低い下屋を差し掛け、その下に板敷のヴェランダを回している。
なぜ登録有形文化財なのか
明治村長崎居留地二十五番館本館が登録有形文化財に登録されたのは2003年12月1日、「造形の規範となっているもの」という基準による。登録番号は23-0085である。
居留地住宅は長崎、神戸、横浜に残っているが、一軒の暮らしがまるごと読み取れる形で残っている例は多くない。ここで評価されているのは、間取りがそのまま追える点だろう。眺めに向いたヴェランダ、その背後に並ぶ部屋、そして各室に据えられた暖炉。熱帯のバンガローが持つ風通しと、ヨーロッパの居間が持つ暖かさを、一棟のなかで両立させようとした結果がこの平面である。
細部にも造作の質が出ている。ヴェランダの角柱は礎石立で、柱頭に置かれた持送りが桁を受ける。外壁は隅柱を表した下見板張、開口部は両開きの鎧戸を伴う上げ下げ窓で統一されている。
見どころ
白く光る屋根
屋根を斜めから眺めると、瓦の合わせ目に沿って白い筋が何本も走っているのがわかる。漆喰を目地に盛り上げた仕上げで、もとは強風で瓦がめくれるのを防ぐための工法だった。それが次第に意匠として扱われるようになり、九州や沖縄の瓦屋根に広く見られるようになる。明治村長崎居留地二十五番館本館では主屋の屋根面全体にこの目地漆喰が施されているため、遠目にも屋根が灰色ではなく白っぽく見える。
扉に描かれた木目
平成31年(2019年)に竣工した保存修理の調査で、後年の塗装の下から明治期の木目塗りが見つかった。塗料で木の杢目を描く技法で、扉には中杢や笹杢といった、板材としては入手しにくい希少な杢が写し取られていた。修理ではこれを塗り込めずに忠実に復原している。扉に近づくと、木目が筆の跡に分解して見える。
暖炉の下から出た紅
同じ修理のとき、本館の暖炉枠の塗膜を剥がしていくと、最下層から当初の紅溜漆の仕上げが現れた。透けるような深い赤である。復原にはカシュー漆が使われた。狭い部屋の小さな面積の話だが、建物を丁寧に解体しなければ出てこない種類の発見でもある。
足もとの石敷き
昭和41年(1966年)の移築では、アプローチの石敷きや側溝も長崎から運ばれ、そのまま使われている。明治村での敷地は、もとの立地条件をなぞって選ばれた。南山手では長崎湾を望む斜面に建っていたので、こちらでは入鹿池を眼下に見る高台に据えられている。ヴェランダに上がる前に、一度水面を振り返ってみてほしい。
移築が決まったのは1966年4月、竣工は同じ年の暮れである。解体中に部材から見つかった痕跡を手がかりに、間仕切り壁や開口部の位置も復原された。
見学方法
明治村長崎居留地二十五番館本館は、村内3丁目の31番地にあたる区画に建つ。前後には菅島燈台附属官舎と神戸山手西洋人住居が並ぶ。建物ごとの拝観料はなく、入村券だけで内部まで見学できる。ただし安全確保や修理のため、立ち入りを制限している部屋や箇所がある。
入村料は大人2,500円、高校生1,500円、中学生と小学生が700円で、未就学児は無料。開村時間は季節で動く。4月から7月と9月、10月、3月は9:30~17:00、8月は10:00~17:00、11月の平日は9:30~16:00、12月から2月は10:00~16:00となっている。入村は閉村の30分前まで。休村日は年間を通じて平日に点在するので、出かける前にカレンダーを確認しておきたい。
個人での撮影に許可は要らない。建物のなかや入口付近、狭い通路での三脚と一脚の使用は禁じられており、広告や販売を目的とした撮影は事前の申込みが必要になる。
名鉄犬山駅からは東口発の明治村行きバスで約20分。車なら中央自動車道の小牧東インターチェンジから3キロメートルで、駐車場は普通車1,000円。村内は起伏があり、建物の間に急な坂と段差が続くので、地図から受ける印象よりも歩く時間はかかる。
Q&A
- 明治村長崎居留地二十五番館本館は内部に入れますか?
- 入れます。開村時間内であれば入村者が建物のなかまで見学でき、木目塗りや暖炉といった内部の仕上げがむしろ見どころです。安全確保や修理のため立ち入りを制限している箇所があるほか、普段は非公開の部分を時間を決めて公開するガイドもあります。
- 明治村長崎居留地二十五番館本館はもともとどこにありましたか?
- 長崎市南山手町の二十五番地、長崎湾を見下ろす斜面です。昭和41年(1966年)に別館とともに解体され、博物館明治村へ移築されました。
- 明治村長崎居留地二十五番館本館だけの拝観料はかかりますか?
- かかりません。入村券ひとつで村内の建造物をすべて見学できます。入村料は大人2,500円、高校生1,500円、中学生と小学生が700円です。
- 明治村長崎居留地二十五番館本館で写真を撮れますか?
- 個人の撮影は申込み不要です。建物内や入口付近、狭い通路での三脚・一脚・レフ板・脚立の使用は禁止されています。広告や販売に使う撮影は、事前に明治村へ申請してください。
- 名古屋から明治村長崎居留地二十五番館本館へはどう行きますか?
- 名鉄で犬山駅まで行き、東口から明治村行きのバスに乗り換えて約20分です。名古屋駅と栄からの高速バスもあります。村内では3丁目、池を望む斜面を上がった一帯にあります。
基本情報
| 名称 | 明治村長崎居留地二十五番館本館 |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県犬山市内山1 博物館明治村内 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 平成15年(2003年)登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、瓦葺、建築面積241平方メートル |
| 所有者 | 公益財団法人明治村 |
| 公開状況 | 開村時間内は入村者に公開。一部立ち入り制限あり |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース:明治村長崎居留地二十五番館本館
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00003672
- 文化庁 文化遺産オンライン:明治村長崎居留地二十五番館本館
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/168982
- 博物館明治村:長崎居留地二十五番館
- https://www.meijimura.com/sight/長崎居留地二十五番館
- 博物館明治村:開村時間・休村日
- https://www.meijimura.com/guide/open/
- 博物館明治村:チケット・料金
- https://www.meijimura.com/guide/price/
- 博物館明治村:アクセス
- https://www.meijimura.com/guide/access/
- 博物館明治村:村内での撮影について
- https://www.meijimura.com/photography/
最終更新日: 2026.09.03