庭に向いて建つ明治の離れ座敷
森川家住宅書院は、愛知県一宮市大和町苅安賀にある明治35年(1902年)ごろの離れ座敷で、2008年(平成20年)7月8日に登録有形文化財に登録された。木造平屋建、寄棟造桟瓦葺で、建築面積は88平方メートル。主屋の南側縁の西端、屋敷の南西隅にあたる位置に、主屋と直角に折れて接続する。
建物は東側の庭に正面を向ける。庭に面した東面と南面には縁側を広くとった広縁が回り、その庇は銅板で葺かれている。桁行4間半、梁間3間という規模は大きくないが、廊下を矩折に付けることで、主屋から座敷へ進む道筋に一度折れる動きが加わる。
森川家は苅安賀村の有力地主の一つで、天保年間から明治末期にかけて酒造業を営んだ。森川家住宅書院が建てられた明治35年は、その家業が続いていた時期にあたる。日常の住まいである主屋とは別に、客を迎えるための座敷を庭の側に構えた形である。
登録の理由と、茶の家としての背景
森川家住宅書院の登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。登録番号は23-0306、第60回の登録で、官報告示は2008年(平成20年)7月23日。同じ日に主屋(23-0305)と土蔵(23-0307)も登録され、屋敷を構成する3棟がそろって国の文化財となった。
この座敷の性格を理解するうえで欠かせないのが、森川家第21代の勘一郎(1887年から1980年)である。勘一郎は如春庵と号し、明治後期から昭和にかけて中京地区を代表する茶人として知られた。かつて敷地内には茶室が構えられていたが、舒嘯庵は江南市へ移築されて市指定文化財となり、如春庵は名古屋市緑区へ移されている。茶室そのものは失われても、森川家住宅書院に組み込まれた茶室と水屋、そして座敷の設えに、この家の茶の文脈が残っている。
登録有形文化財は届出を基本とする「登録」の制度であり、国宝や重要文化財の「指定」とは別の枠組みにある。使いながら守ることを想定した仕組みで、住まいの一部として使われ続けてきた建物に適用しやすい。
三室の並びと、残月の間の設え
内部は主屋側から順に三室が並ぶ。まず水屋を備えた6畳の茶室、続いて10畳の次の間、そして11畳半の残月の間。北面の下屋に茶室と水屋が付設される構成で、茶を出す準備の場と、客が座る場が、無理のない距離で並んでいる。
いちばん奥の残月の間が、森川家住宅書院の中心である。二畳の上段を設け、床の中に付書院を配し、地袋のある床脇を備える。上段は床より一段高い座で、そこに座る人と次の間の客との関係を、床の高さそのもので示す仕掛けである。表千家にある残月亭を意識した造りといわれている。
次の間にも床の間と違い棚が設けられる。上段を持つ残月の間と、床飾りを備えた次の間が隣り合う形で、格の異なる二つの座が用意されている。客の人数や集まりの性格に応じて使い分けができたと考えられる。
茶室の天井は二段構成をとる。床は表千家好みとされる原叟床である。11畳半、10畳、6畳と面積が段階的に小さくなり、天井の扱いもそれに応じて変わる。森川家住宅書院を見るなら、部屋の広さと天井の高さの対応関係に注意を向けたい。
見学方法とアクセス
森川家住宅書院は個人が所有する住宅の一部で、内部は非公開である。定期的な一般公開や事前予約による見学は行われていない。書院は屋敷の奥、庭に面して建つため、外観も街路からはほとんど見えない。訪ねる場合、街路から確かめられるのは主屋と土蔵の外観までと考えておくとよい。
撮影についても、公道から見える範囲に限られる。居住中の個人宅であり、敷地内への立ち入りや塀越しの撮影は控えたい。
最寄り駅は名鉄尾西線の苅安賀駅で、屋敷までは北東へ約600メートル、徒歩8分ほど。名鉄一宮駅から尾西線に乗ると、観音寺駅の次、2駅目が苅安賀駅である。苅安賀駅は駅員無配置駅で、駅前に案内所はない。文化財に関する問い合わせは、一宮市の博物館管理課(電話0586-46-3215)が受け付けている。
この座敷そのものを見ることはできないが、勘一郎が構えた茶室のうち舒嘯庵は江南市へ移築され、市の指定文化財となっている。森川家の茶の文脈をたどりたい場合は、移築先の公開状況を江南市に確認する方法がある。
よくある質問
- 森川家住宅書院は見学できますか。内部の公開はありますか。
- 個人所有の住宅の一部で、内部は非公開です。一般公開や予約見学の制度もありません。屋敷の奥に建つため、外観も街路からはほとんど見えません。
- 森川家住宅書院はいつ建てられましたか。
- 明治35年(1902年)ごろの建築と伝わります。安政2年(1855年)の主屋より約半世紀新しく、家業の酒造業が続いていた時期にあたります。
- 森川家住宅書院の残月の間とはどのような部屋ですか。
- 11畳半の座敷で、二畳の上段を設け、床の中に付書院、地袋のある床脇を備えます。表千家にある残月亭を意識した造りといわれています。
- 森川家住宅書院は重要文化財ですか。登録有形文化財との違いは何ですか。
- 重要文化財ではなく、2008年(平成20年)に登録された登録有形文化財です。重要文化財や国宝は「指定」、登録有形文化財は届出を基本とする「登録」で、制度が異なります。
- 森川家住宅書院へのアクセスは。最寄り駅からどのくらいですか。
- 名鉄尾西線の苅安賀駅から北東へ約600メートル、徒歩8分ほどです。名鉄一宮駅からは尾西線で2駅目にあたります。
基本データ
| 名称 | 森川家住宅書院 |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県一宮市大和町苅安賀字北川田1159 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 2008年(平成20年)7月8日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 建築面積88平方メートル、桁行4.5間、梁間3間 |
| 所有者 | 個人 |
| 公開状況 | 非公開(居住中。街路からの外観の視認も困難) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース 森川家住宅書院(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00007213
- 文化遺産オンライン 森川家住宅書院
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/153815
- 文化財ナビ愛知 森川家住宅主屋・書院・土蔵(愛知県)
- https://www.pref.aichi.jp/kyoiku/bunka/bunkazainavi/yukei/kenzoubutu/kunitouroku/1324-1326.html
- 一宮市内の文化財(一宮市)
- https://www.city.ichinomiya.aichi.jp/katsuryokusouzou/hakubutsukan/1044092/1024202/1036232.html
- 苅安賀駅 駅情報(名古屋鉄道)
- https://www.meitetsu.co.jp/train/station_info/line10/station/2627.html
最終更新日: 2026.09.03