巡見街道に面して建つ尾張の町家
森川家住宅主屋は、愛知県一宮市大和町苅安賀にある江戸時代末期の町家建築で、2008年(平成20年)7月8日に登録有形文化財に登録された。一宮市内を東西に延びる巡見街道に北面し、間口7間の平入、切妻造桟瓦葺で建つ。建築面積は171平方メートルである。
森川家は尾張国中島郡苅安賀村の有力地主の一つで、天保年間から明治末期にかけて酒造業を営んだ家柄と伝わる。屋敷は街道に面して主屋が建ち、向かって右手にあたる西側に土蔵、主屋と直角に折れる位置に書院を配する。主屋と書院はいずれも庭に面している。
建築年代は棟札から安政2年(1855年)とされる。明治2年(1869年)の改築では棟木を後退させ、2階全体の天井高を確保したとされている。ここで一点、資料の記述が分かれる箇所がある。文化庁の国指定文化財等データベースは構造欄に「木造平屋建、瓦葺、建築面積171㎡」と記す一方、同データベースの解説文も愛知県の解説も、森川家住宅主屋をつし二階建の町家と説明している。つし二階は天井の低い中二階で、正規の2階とは扱いが異なる。数え方の違いによるもので、建物の姿そのものが食い違っているわけではない。
なぜ登録されたのか
森川家住宅主屋の登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。登録番号は23-0305、第60回の登録にあたり、官報告示は2008年(平成20年)7月23日に出された。同じ日付で書院(23-0306)と土蔵(23-0307)も登録され、一つの屋敷を構成する3棟がそろって国の文化財となっている。
評価の中心にあるのは、間口の大きさが街路の見え方を決めているという点である。桁行7間、梁行は上屋で6間。苅安賀の街道沿いに残る建物のなかで、この横幅は際立っている。西隣の土蔵が妻壁を街路に向けて建つため、平入の主屋と並ぶと、水平に伸びる屋根と垂直に立つ妻面が交互に現れる。街並みのリズムは、この2棟の組み合わせで作られている。
登録有形文化財は「登録」の制度で、国宝や重要文化財の「指定」とは別の枠組みにある。届出を基本とし、使いながら守ることを前提とした仕組みである。森川家住宅主屋が現在も住まいとして使われていることは、この制度の性格とよく合っている。
街路から読み取れるつくり
正面1階は、東側に戸口、西側に格子を構える。戸口には潜戸を組み込んだ大戸が付き、その脇には出格子が張り出す。人の出入りと採光、そして通りからの視線の調整を、幅7間のあいだで振り分けている。
目を上げると、森川家住宅主屋の見どころは2階まわりに集まっている。軒は出桁造で、桁を柱の外まで持ち出して深い庇を支える。両端には袖卯建が立ち上がり、窓には格子が入る。2階正面は柱と貫をそのまま見せる真壁で、尾張地方の町家に多い形式である。防火のために立てられた卯建は、隣家との境を示す標識でもあった。
内部は東側に土間が通る。玄関土間、ニワ、勝手土間が前後に連なる通り庭形式だが、それぞれは仕切られている。土間の西側には2列6室が並ぶ。道路側から順に、土間寄りが8畳の玄関の間、6畳の中の間、10畳の板の間。その西列が8畳、6畳の仏間、10畳の座敷である。
いちばん奥の座敷は長押を廻し、天井は棹縁天井とする。床の間と、天袋を備えた床脇が座敷飾を構成する。装飾は控えめで、材の質と部屋の均衡で見せるつくりといえる。主屋の西面は蔵前を介して土蔵につながり、南側縁の西端からは書院へ抜ける。3棟は別々の登録でありながら、動線としては一体である。
見学方法とアクセス
森川家住宅主屋は個人が所有する住宅で、現在も住まいとして使われている。内部は公開されておらず、一般の見学は受け付けていない。訪ねる場合は、前面の巡見街道から外観を眺めることになる。
撮影は公道からであれば妨げられないが、居住中の個人宅である。敷地内に立ち入らないこと、門や玄関まわりに人が写り込む撮り方をしないことは守りたい。周辺は生活道路で歩道も狭いため、車道に出ての撮影は避けたほうがよい。
最寄り駅は名鉄尾西線の苅安賀駅で、南西へ約600メートル、徒歩8分ほどの距離にある。名鉄一宮駅から尾西線で観音寺駅の次、2駅目である。苅安賀駅は駅員無配置駅で、駅前に観光案内の窓口はない。文化財としての問い合わせは、一宮市の博物館管理課(電話0586-46-3215)が窓口となっている。
なお、森川家第21代の勘一郎(1887年から1980年)は如春庵と号し、明治後期から昭和にかけて中京地区を代表する茶人として知られた。かつて敷地内にあった茶室のうち、舒嘯庵は江南市へ、如春庵は名古屋市緑区へそれぞれ移築されている。現在の敷地でこれらを見ることはできない。
よくある質問
- 森川家住宅主屋は見学できますか。内部の公開はありますか。
- 個人所有の住宅で現在も居住が続いており、内部は非公開です。定期的な一般公開も行われていません。外観は前面の巡見街道から見ることができます。
- 森川家住宅主屋はいつ建てられた建物ですか。
- 棟札から安政2年(1855年)の建築とされています。明治2年(1869年)の改築で棟木を後退させ、2階の天井高を確保したとされます。
- 森川家住宅主屋へのアクセスは。最寄り駅からどのくらいですか。
- 名鉄尾西線の苅安賀駅から北東へ約600メートル、徒歩8分ほどです。名鉄一宮駅からは尾西線で2駅目にあたります。
- 森川家住宅主屋は国宝や重要文化財ですか。
- いいえ。2008年(平成20年)に登録有形文化財として登録された建物です。国宝や重要文化財は「指定」、登録有形文化財は「登録」で、制度が異なります。
- 森川家住宅主屋のほかに登録されている建物はありますか。
- 同じ敷地の書院と土蔵が、主屋と同じ2008年7月8日に登録されています。登録番号は主屋が23-0305、書院が23-0306、土蔵が23-0307です。
基本データ
| 名称 | 森川家住宅主屋 |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県一宮市大和町苅安賀字北川田1159 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 2008年(平成20年)7月8日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 建築面積171平方メートル、桁行7間、梁行6間(上屋) |
| 所有者 | 個人 |
| 公開状況 | 非公開(居住中。外観は街路から見学可) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース 森川家住宅主屋(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00007212
- 文化遺産オンライン 森川家住宅主屋
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/120084
- 文化財ナビ愛知 森川家住宅主屋・書院・土蔵(愛知県)
- https://www.pref.aichi.jp/kyoiku/bunka/bunkazainavi/yukei/kenzoubutu/kunitouroku/1324-1326.html
- 一宮市内の文化財(一宮市)
- https://www.city.ichinomiya.aichi.jp/katsuryokusouzou/hakubutsukan/1044092/1024202/1036232.html
- 苅安賀駅 駅情報(名古屋鉄道)
- https://www.meitetsu.co.jp/train/station_info/line10/station/2627.html
最終更新日: 2026.09.03