茅葺の骨組みに瓦を載せた明治の住宅
伊東家住宅主屋は、千葉県山武郡芝山町小池にある明治時代中期の住宅で、令和2年(2020年)8月17日に国の登録有形文化財に登録された。木造平屋建、桟瓦葺の寄棟造で、建築面積は219平方メートル。町役場や郵便局、銀行、商店が並ぶ芝山町の中心部に建つ。
敷地は旧街道に東面しており、主屋はその中央北寄りに、南を正面にして建つ。規模は桁行8間半、梁間5間。正面に下屋を付け、中央に式台を備えた玄関を構える。
この建物の要点は屋根にある。建築当初から瓦葺でありながら、屋根の勾配が急である。芝山町の解説によれば、この地方の江戸時代後期の大規模な民家に見られる茅葺屋根の小屋組を、瓦葺の屋根に応用したものとみられる。茅葺の家の骨格に瓦をまとわせた、近世から近代への移り変わりをそのまま形にした住宅である。
ヒロマとオクノマ
内部は南東を土間とし、残りを床上とする。表側の中央に主室の「ヒロマ」があり、北西の奥に主座敷の「オクノマ」を置く。
オクノマには付書院、組子の欄間、床の間が備わる。付書院は床の間の脇に張り出した明かり取りの棚で、組子欄間は細い木を組み合わせて文様をつくる欄間である。いずれも客を迎える座敷の格を示す意匠で、式台玄関から客を通す動線と対応している。
土間と床上の配置は、茅葺の農家から受け継いだ構成に近い。一方で座敷まわりの造作は整っており、農家の間取りを下敷きにしながら、地域の有力者の住まいとしての体裁を整えた建物と読むことができる。
建築主・伊東祐之
伊東家住宅主屋を建てたのは、芝山町の名望家として知られる伊東祐之である。芝山町の解説によると、祐之は元治元年(1864年)に生まれ、地元の小池尋常小学校で教員と校長を務めた。
明治22年(1889年)に休職して渡米し、カンバーランド大学で法律学を修めた。明治23年(1890年)に帰国すると日本銀行に入り、営業課長を務めた。明治34年(1901年)、欧米を視察していた途上で病に倒れ、38歳で亡くなっている。
文化庁のデータベースは主屋の年代を明治中期、西暦1883年から1897年の幅で示し、芝山町は明治20年代半ば(1890年前後)の建築と推定している。推定年代は、祐之がアメリカから戻り日本銀行に勤め始めた時期と重なる。村の学校長から海外留学を経て中央銀行へ進んだ人物の家が、外観の上では地方の伝統的な屋根の形を守っている点は興味深い。
登録の理由
登録の基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。文化庁の解説は、急勾配の桟瓦葺屋根が茅葺からの過渡的な様相を示している点を挙げる。千葉県教育委員会の解説も、この急勾配の瓦屋根は建築当初からのものと考えられるとしている。
茅葺から瓦葺への転換は、屋根の材料を替えるだけでは済まない。重さも勾配も違う。伊東家住宅主屋は、その転換の途中で、大工が茅葺の小屋組の技術をどう生かしたかを示す例として価値を持つ。
見学とアクセス
伊東家住宅主屋は個人が所有する住宅で、内部は公開されていない。芝山町は、敷地に入っての見学はできないと明記している。外観は公道から控えめに眺めるにとどめ、住まいへ向けての撮影は避けたい。
公共交通では、芝山鉄道の芝山千代田駅とJR総武本線の松尾駅を結ぶ町のコミュニティバス「芝山ふれあいバス」が、芝山町役場を経由する。日曜日・祝日・年末年始(12月29日から1月3日)は運休するので注意したい。
車の場合、芝山町の案内では、圏央道・千葉東金道路の松尾横芝インターチェンジから町役場まで約10分、新空港自動車道の成田インターチェンジからは約26分である。
文化財としての問い合わせ先は、芝山町教育委員会生涯学習課文化振興係(電話0479-77-1861)である。
Q&A
- 伊東家住宅主屋は見学できますか。
- 内部は公開されていません。芝山町によれば、個人の所有のため敷地に入っての見学はできません。外観は公道から眺める形になります。
- 伊東家住宅主屋はいつ建てられましたか。
- 文化庁のデータベースは明治中期(1883年から1897年)とし、芝山町は明治20年代半ば(1890年前後)と推定しています。
- 伊東家住宅主屋を建てたのは誰ですか。
- 芝山町の名望家、伊東祐之(1864年から1901年)です。小池尋常小学校の教員・校長を務めたのち、アメリカのカンバーランド大学で法律学を学び、帰国後は日本銀行の営業課長を務めました。
- 伊東家住宅主屋の屋根はなぜ評価されているのですか。
- 建築当初から瓦葺でありながら勾配が急で、この地方の江戸後期の大規模な茅葺民家の小屋組を瓦屋根に応用したとみられるためです。茅葺から瓦葺への過渡的な姿を示しています。
- 伊東家住宅主屋へはどう行けばよいですか。
- 芝山千代田駅とJR松尾駅を結ぶ芝山ふれあいバスが芝山町役場を経由します。日曜日・祝日・年末年始は運休です。車では松尾横芝インターチェンジから町役場まで約10分です。
基本データ
| 名称 | 伊東家住宅主屋(いとうけじゅうたくおもや) |
|---|---|
| 所在地 | 千葉県山武郡芝山町小池1000 |
| 指定区分 | 国登録有形文化財(建造物) 登録番号12-0305 登録基準:国土の歴史的景観に寄与しているもの |
| 指定年 | 令和2年(2020年)8月17日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、瓦葺、建築面積219平方メートル。桁行8間半、梁間5間 |
| 所有者 | 個人 |
| 公開状況 | 非公開(個人の住宅)。敷地内への立ち入り不可 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁):伊東家住宅主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013355
- 芝山町:伊東家住宅主屋
- https://www.town.shibayama.lg.jp/0000004072.html
- 千葉県:伊東家住宅主屋
- https://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/bunkazai/bunkazai/q111-116.html
- 芝山町:芝山ふれあいバス(町コミュニティバス)
- https://www.town.shibayama.lg.jp/0000000148.html
- 芝山町:芝山町へのアクセス
- https://www.town.shibayama.lg.jp/0000001426.html
最終更新日: 2026.09.25