銅山の迎賓館から移された座敷
旧泉寿亭特別室棟は、愛媛県新居浜市立川町にある昭和12年(1937年)建築の木造平屋建で、平成21年(2009年)8月7日に登録有形文化財に登録された。別子銅山の跡地を活用した観光施設「マイントピア別子」の端出場エリアに建つ。
もとから一棟だけの建物だったわけではない。新居浜市の説明によれば、泉寿亭は昭和12年(1937年)12月、現在の別子銅山記念図書館がある場所に宿泊施設として建てられている。「泉寿亭」という名は、住友家の屋号である泉屋を寿ぐ意味だという。宿泊施設としての役目を終えたのち、平成3年(1991年)に賓客用玄関と特別室の一室だけが現在地へ移され、いまの姿になった。
規模は桁行8.6メートル、梁間11メートル。建築面積は114平方メートルある。屋根は入母屋造桟瓦葺で、軒先だけを銅板で葺く。西面には切妻屋根の玄関が付き、その正面に庇が掛かる。内部は六畳と十畳の座敷を南北に並べ、四周に縁をまわした構成をとる。
登録の理由と、同じ日に登録された二件
旧泉寿亭特別室棟が登録有形文化財となった際の登録基準は「造形の規範となっているもの」である。登録番号は38-0091、第64回の登録にあたる。文化庁の国指定文化財等データベースは、軒まわりに丸太材を多用し、随所に竹や杉皮などをあしらう数寄屋風のつくりと記載している。
別子銅山に残る建造物の多くは、坑道や鉄道、製錬所といった生産のための施設である。この一棟はそこから外れる。銅山の経営を担った住友が、客を迎えるために用意した空間だった。特別室は賓客だけが泊まることを許された部屋だったと新居浜市は説明している。
同じ平成21年(2009年)8月7日には、旧別子鉱山鉄道端出場鉄橋(足谷川鉄橋)と旧別子鉱山鉄道端出場隧道も登録された。いずれも立川町にある鉄道と土木の遺構で、端出場に残る近代産業の景観を構成している。接遇のための建物が同じ日に加わったことで、この一帯の登録物件に生産以外の性格が持ち込まれた。
丸太と竹がつくる軒まわり
建物に近づくと、まず軒の下に目が行く。柱や桁に整った製材を使わず、丸太のままの材を並べた部分が多い。皮を剥いだだけの曲がりや節がそのまま見え、直線で構成された銅山の産業遺構とは違う表情になる。
竹と杉皮も随所に使われている。いずれも数寄屋造で好まれる材で、格式を誇示するのではなく、意図して簡素な素材を選ぶ考え方に基づく。賓客のための建物でありながら装飾が控えめなのは、この方針によるものだろう。
屋根は桟瓦の赤茶色が広がり、軒先の一列だけが銅板になっている。経年で色の変わった銅板と瓦が接する線は、少し離れて見ると細い縁取りのように映る。
入口には「別館 泉寿亭」と書かれた看板が掛かる。新居浜市によれば、今治市の書家である織田子青の筆によるものである。
座敷は六畳と十畳の二室で、南北に並び、外周を縁が取り巻く。建物全体ではなく玄関と特別室だけが選ばれて移築された経緯を知ったうえで立つと、この二室が泉寿亭のどの部分にあたるのかという見方ができる。
見学方法とアクセス
旧泉寿亭特別室棟はマイントピア別子の端出場エリアにあり、無料で見学できる。施設の公式サイトは、旧端出場水力発電所とともに泉寿亭を無料施設として案内している。鉱山観光や砂金採りといった有料の体験とは扱いが別で、この建物を見るだけなら入場料はかからない。
端出場エリアの観光施設は午前9時から午後6時まで開いている(季節によって変更がある)。定休日は設けられていないが、2月に点検のための休館日がある年もある。訪問前に新居浜市または施設の告知を確認しておきたい。
撮影の可否について、施設の公式サイトに明示はない。建物が催しに使われる日もあるため、現地の掲示や係員の案内に従ってほしい。
公共交通ではJR予讃線の新居浜駅が起点になる。駅前バス停の2番乗り場からせとうちバスの「マイントピア別子」行きに乗り、約20分で終点に着く。バス停から建物までは歩いてすぐである。車で訪れる場合、端出場エリアには380台分の駐車場がある。
Q&A
- 旧泉寿亭特別室棟は見学できますか。料金はかかりますか。
- 見学できます。マイントピア別子の端出場エリアにあり、施設の公式サイトで無料施設として案内されています。鉱山観光や砂金採りなどの有料体験とは別扱いで、この建物を見るだけなら入場料は不要です。
- 旧泉寿亭特別室棟へのアクセスと、最寄り駅からの所要時間を教えてください。
- 最寄り駅はJR予讃線の新居浜駅です。駅前バス停の2番乗り場からせとうちバスの「マイントピア別子」行きに乗って約20分、終点で降りればすぐの場所にあります。車の場合は380台分の駐車場が使えます。
- 旧泉寿亭特別室棟は撮影できますか。
- 撮影の可否は施設の公式サイトに明示されていません。建物が催しで使われている日もあるため、現地の掲示や係員の案内を確認してください。
- 旧泉寿亭特別室棟はなぜ現在の場所に移されたのですか。
- もとは別の場所にあった宿泊施設「泉寿亭」の一部だからです。新居浜市によれば、宿泊施設としての役目を終えたのち、平成3年(1991年)に賓客用玄関と特別室の一室がマイントピア別子の敷地内へ移築されました。
- 旧泉寿亭特別室棟の見学にはどのくらい時間がかかりますか。
- 桁行8.6メートル、梁間11メートルの木造平屋建が一棟あるだけなので、外まわりと座敷を見るなら15分ほどで足ります。端出場エリアに残る他の産業遺構と合わせて歩くなら、半日を見ておくとよいでしょう。
基本情報
| 名称 | 旧泉寿亭特別室棟 |
|---|---|
| 所在地 | 愛媛県新居浜市立川町598-1 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 平成21年(2009年)8月7日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 桁行8.6メートル、梁間11メートル、建築面積114平方メートル |
| 所有者 | 新居浜市 |
| 公開状況 | 公開(マイントピア別子端出場エリア内、無料) |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース ― 旧泉寿亭特別室棟
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00007810
- 新居浜市 ― 新たな登録有形文化財 (3) 旧泉寿亭特別室
- https://www.city.niihama.lg.jp/soshiki/dozan/torokusenjyutei.html
- 新居浜市 ― 指定・登録文化財
- https://www.city.niihama.lg.jp/soshiki/bunka/shiteitourokubunkazai.html
- 新居浜市 ― マイントピア別子(端出場ゾーン)
- https://www.city.niihama.lg.jp/map/maintopia-hadeba.html
最終更新日: 2026.09.05