長良川の水で一世紀を越えて回り続ける赤煉瓦の発電所
岐阜県美濃市立花。和風の屋根を載せた赤煉瓦の建物が、百年以上にわたって送電を続けている。長良川発電所の本館である。明治43年(1910年)3月の竣工以来、一度も止まることなく発電を担ってきた。川を堰き止めるダムは設けない。取水口から発電所まで約4.9キロメートルの導水路を緩い勾配で水を導き、十分な落差を得たところで下部の水車を回す。水路式と呼ばれる方式である。
建屋そのものは煉瓦造で地上2階、地下1階。建築面積は439平方メートル、屋根は鉄板葺である。運転開始当時は出力4200キロワットを誇り、この種の水力発電所として国内最大級であった。生み出された電気は約50キロメートル離れた名古屋へと送られ、成長期の都市を支えた。機械は後年に更新され、現在の出力は4800キロワットだが、それを収める壁は明治期に積まれたものがそのまま残る。
頓挫した構想から名古屋電燈最初の発電所へ
発端は一人の技術者的情熱にあった。旧岩村藩士の小林重正は、京都で琵琶湖疏水を動力源とする水力発電を目にし、長良川でも同じことができると確信する。明治30年に水利の許可を得て会社を興したものの、日清戦争後の不況で資金が集まらず、明治37年に事業許可は取り消された。計画はここで潰えてもおかしくなかった。
これを引き取ったのが、当時シーメンス日本営業所にいた野口遵である。彼は放棄された構想を名古屋電燈に持ち込んだ。電力不足に悩む同社は、予定していた木曽川に先んじて長良川で建設を進めると決めた。着工は明治41年。交通が未発達なため、輸入した発電機は岐阜駅から牛車で約一週間かけて対岸まで運ばれ、そこから大筏に組んで現地へと渡された。明治43年3月15日に運転を開始し、その翌日、名古屋の鶴舞公園で開かれた共進会のイルミネーションをこの発電所の電気が灯した。
本館は平成12年に登録有形文化財となり、平成19年には近代化産業遺産に認定された。事業者は名古屋電燈から東邦電力、戦時中の統合を経て、昭和26年に中部電力へと引き継がれている。
妻面と水車ヤードに注目する
川を渡ってでも見たい細部は、妻面の高いところにある。煉瓦壁にはバラ窓を思わせる円形の開口が穿たれ、これは西欧の意匠である。一方、棟の頂には鬼瓦が据えられている。かつての瓦葺屋根の名残であり、日本の屋根の飾りだ。西洋の構造と在来の装飾が一つの壁面に同居する。いかにも明治らしい折衷といえる。平面はもとL字形で発電機室と接していたが、両者は現在では地上部で切り離されている。
内部には入れない。現役の設備であり、建屋の中は非公開である。ただし煉瓦の意匠は公道からはっきりと読み取れるし、前庭は立ち寄る価値がある。ここには当初の水車発電機が展示されている。ドイツ製のフォイト社製水車とシーメンス社製発電機の組で、昭和55年まで70年間この場所で回り続けたものだ。旧い水圧鉄管も見て取れる。中部電力は時折、構内を公開する見学会を開いている。外観以上を見たい場合は事前に確認するとよい。
Q&A
- 本館の中に入れますか。
- 入れません。現役の発電所のため内部は非公開です。煉瓦の外観は公道から容易に見え、屋外の水車発電機の展示は誰でも見学できます。
- 今も発電しているのですか。
- はい。明治43年から運転を続けています。昭和56年に水車と発電機を更新して出力を4800キロワットに高め、現在は美濃市や郡上市の一部へ電力を供給しています。
- 屋外に展示されている機械は何ですか。
- 運転開始当初の水車発電機です。ドイツから輸入したフォイト社製水車とシーメンス社製発電機で、昭和55年に引退するまで70年間この発電所で稼働しました。
- どうやって行きますか。
- 岐阜県美濃市立花にあり、国道156号から立花橋を渡ってすぐです。最寄りは長良川鉄道越美南線の駅です。
基本情報
| 名称 | 長良川発電所本館 |
|---|---|
| 所在地 | 岐阜県美濃市立花字木の末844-1 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(平成12年登録) |
| 建造年 | 明治43年(1910年) |
| 構造 | 煉瓦造地上2階地下1階建、鉄板葺、建築面積439平方メートル |
| 所有者 | 中部電力株式会社 |
| 公開状況 | 内部非公開。外観と屋外の水車発電機展示は構内から見学可 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース — 長良川発電所本館
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002039
- 美濃市 — 長良川発電所本館他8件
- https://www.city.mino.gifu.jp/docs/1174.html
- Wikipedia — 長良川発電所
- https://ja.wikipedia.org/wiki/長良川発電所
最終更新日: 2026.07.03