めがね橋 ― 100年を超えて水を運び続ける大正時代の土木遺産

茨城県高萩市の山深い渓谷に、2つのアーチが眼鏡のように並ぶ美しい橋が架かっています。花貫川第一発電所第3号水路橋、通称「めがね橋」です。大正7年(1918年)に水力発電のための導水路として建設されたこの鉄筋コンクリート造2連アーチ橋は、国の登録有形文化財であり、土木学会選奨土木遺産にも認定されています。建設から100年以上が経った今なお現役で使用されている、高萩市を代表する近代化遺産です。

歴史:石炭火力から水力発電へ

めがね橋の歴史は、大正元年(1912年)に設立された多賀電気株式会社に始まります。多賀銀行頭取の樫村定男らによって設立された同社は、当初は石炭を利用した火力発電により茨城県北部の地域に電灯を灯しました。しかし、さらなる事業拡張を目指し、高萩市内を流れる花貫川の水力に着目します。

大正7年(1918年)、花貫川の上流・鳥曽根に取水口を設け、山腹を掘り抜いた全長約2.2kmの導水路を通じて発電用水を導く花貫川第一発電所が完成しました。施工を担当したのは鹿島建設(当時は鹿島組)です。この導水路が名馬里沢の谷を渡る箇所に架けられたのが第3号水路橋、すなわち「めがね橋」でした。

構造と設計:鉄筋コンクリート導入初期の貴重な造形

めがね橋は、谷底から約15メートルの高さまで石を積み上げた橋脚の上に、鉄筋コンクリート製の2連アーチが架けられた構造です。橋長は約77メートル、幅員は約2メートル、地上からの高さは約22メートルにおよびます。上部の水路には現在も毎秒約1.1立方メートルの発電用水が流れています。

設計上の特徴として、石積みの橋脚とコンクリートの上部構造が分離されている点が挙げられます。これは、自然災害などで上部が破損しても、頑丈な橋脚が残っていれば仮設水路をすぐに設置できるようにという実用的な配慮によるものです。この先見的な設計思想が、100年以上にわたる橋の稼働を支えてきました。

また、アーチのスパンドレル部分に配置された鉛直方向のコンクリート部材は、木造桁橋の橋脚部材を想起させるもので、わが国の橋梁分野における鉄筋コンクリート導入初期の造形を今に伝える貴重な事例とされています。

文化財としての価値

平成11年(1999年)11月18日、めがね橋は国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。日本における鉄筋コンクリート橋梁の初期事例としての歴史的価値と、現役のインフラとして機能し続けていることの両面が評価されています。

さらに平成24年(2012年)には、土木学会選奨土木遺産にも認定されました。この認定は、めがね橋が文化的遺産であると同時に、日本の近代化と土木技術の発展を象徴する構造物であることを広く社会に示すものです。

所有者である東京発電株式会社は、茨城県内で数多くの歴史的水力発電施設を管理しており、国の重要文化財に指定されている石岡第一発電所(北茨城市)をはじめ、計18件の登録有形文化財を保有しています。大正時代に建設されたこれらの施設群は、日本の電力事業の歴史を語る上で非常に重要な存在です。

見どころと魅力

めがね橋の魅力は、有名な寺社仏閣とは異なる、近代化遺産ならではの静かな感動にあります。谷間に佇む2連アーチを眺めながら、100年以上前の技術者たちが山奥で成し遂げた仕事の偉大さに思いを馳せることができます。上部の水路には今もなお水が流れ、大正時代と現在を一本の水の流れが結んでいるという事実は、訪れる人に深い印象を与えるでしょう。

めがね橋は花園花貫県立自然公園の区域内に位置し、四季折々の自然に包まれています。春から夏にかけては鮮やかな緑の中に橋が浮かぶように見え、秋には紅葉に彩られた渓谷の中でその姿がひときわ映えます。冬は落葉した木々の間から橋の全容を見ることができ、構造の美しさをじっくり観察するのに適しています。

写真撮影のスポットとしても人気があり、季節や時間帯によって大きく表情を変える橋と自然の共演は、何度訪れても新しい発見があります。朝靄が谷間に漂う早朝は、特に幻想的な雰囲気を楽しめます。

周辺情報:花貫渓谷と周辺の見どころ

めがね橋の近くには、茨城県屈指の景勝地として知られる花貫渓谷が広がっています。花貫川沿いに続く渓谷には、数々の見どころがあります。

  • 汐見滝吊り橋 ― 全長約60メートルの歩行者用吊り橋。眼下に汐見滝を望み、特に紅葉シーズンには左右から紅葉のトンネルが形成される絶景スポットです。11月にはライトアップも行われます。
  • 名馬里ヶ淵(なめりがふち) ― 不思議な伝説が残る花貫川の深い淵。豊かな自然に囲まれた神秘的な雰囲気が漂います。
  • 不動滝・乙女滝 ― 花貫駐車場奥から徒歩でアクセスできる2つの滝。不動滝はパワースポットとしても知られています。
  • 花貫渓谷紅葉まつり ― 毎年11月に開催。地元の特産品販売、飲食店の出店があり、11月中旬から下旬にかけて汐見滝吊り橋周辺のライトアップが楽しめます。
  • 土岳 ― 花貫渓谷近くの登山口から約70分で標高約600メートルの山頂へ。山頂の展望台からは360度のパノラマが広がり、冬の晴天時には富士山も望めます。

また、近代化遺産に興味のある方には、北茨城市にある国の重要文化財・石岡第一発電所も合わせて訪れることをおすすめします。明治44年(1911年)竣工の日本最古級の鉄筋コンクリート造発電所で、めがね橋と同じ東京発電株式会社が管理しています。

おすすめの訪問時期

めがね橋は通年で見学可能ですが、季節ごとに異なる表情を楽しめます。4月下旬から5月の新緑の季節は、みずみずしい緑に包まれた橋が美しく映えます。夏は木陰と谷間を渡る涼風が心地よく、自然の中でリフレッシュできます。最も人気が高いのは11月中旬から下旬の紅葉シーズンで、燃えるような秋色の中に佇む橋の姿は格別です。冬は葉が落ちて橋の構造全体が見渡せるため、土木遺産としての造形美をじっくり堪能できます。

Q&A

Qめがね橋は歩いて渡ることができますか?
Aめがね橋は東京発電株式会社が所有する現役の水力発電インフラであり、一般の歩行者が橋上を渡ることはできません。周辺の遊歩道や展望ポイントから橋を眺めることができます。地域の観光イベント等で特別見学が実施されることもあります。
Q東京方面からのアクセスは?
A電車の場合、JR常磐線の上野駅または品川駅から特急で高萩駅まで約2時間半。高萩駅からタクシーで約15分です。車の場合、常磐自動車道・高萩ICから約10分で到着します。
Q見学に料金はかかりますか?
Aめがね橋の見学自体は無料です。ただし、11月の花貫渓谷紅葉まつり期間中は、近隣の花貫駐車場・大能駐車場で駐車料金(普通車1,000円)が必要です。
Q橋は本当にまだ使われているのですか?
Aはい、建設から100年以上経った現在も、毎秒約1.1立方メートルの発電用水がめがね橋の水路を流れています。花貫川第一発電所は現在も出力約630kWのクリーンな水力エネルギーを生み出しています。
Q近くに食事ができる場所はありますか?
A秋の紅葉まつり期間中は花貫渓谷の駐車場付近に露店や食事処が出店します。通年では高萩駅周辺に飲食店があります。地元名物の「けんちんそば」がおすすめです。事前にお店の営業状況をご確認ください。

基本情報

名称 花貫川第一発電所第3号水路橋(めがね橋)
所在地 茨城県高萩市大字秋山字板木2989
所有者 東京発電株式会社
建築年 大正7年(1918年)
施工 鹿島建設株式会社(当時:鹿島組)
構造 鉄筋コンクリート造2連アーチ橋
橋長 約77m
幅員 約2m
高さ 約22m
文化財指定 国登録有形文化財(建造物) 平成11年(1999年)11月18日登録
その他の認定 土木学会選奨土木遺産 平成24年度(2012年)認定
アクセス JR常磐線 高萩駅からタクシー約15分/常磐自動車道 高萩ICから車で約10分
問い合わせ 一般社団法人 高萩市観光協会 TEL: 0293-23-2121

参考文献

茨城県教育委員会 — 花貫川第一発電所第3号水路橋(めがね橋)
https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/bunkazai/bunkazai-registered-6507/
東京発電株式会社 — 有形文化財
https://tokyohatsuden.co.jp/csr/cultural_property/
鹿島建設株式会社 — 鹿島の軌跡 第20回 花貫川水力発電所
https://www.kajima.co.jp/gallery/kiseki/kiseki20/index-j.html
土木ウォッチング — 今も残る大正期の花貫川第一発電所第3号水路橋(めがね橋)
https://www.doboku-watching.com/index.php?kijiId=1101
高萩市観光協会 — 花貫川第一発電所 第3号水路橋(国の登録文化財)
https://www.takahagi-kanko.jp/learn/bunkazai/page000020.html
文化遺産オンライン(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/186130
観光いばらき — めがね橋(花貫川第一発電所第三号水路橋)
https://www.ibarakiguide.jp/spot.php?mode=detail&code=292

最終更新日: 2026.03.22