画面を兼ねた蔵

衣装蔵は主屋の前方南面に接続して建つ。土蔵造二階建で桟瓦を葺き、建築面積は約五十三平方メートル。内部は一階・二階とも一室である。この蔵を際立たせるのは壁面で、正面妻の鉢巻には唐草とサフランの六弁の花が漆喰で盛り上げられ、戸口や窓の扉の内側には龍や動物が色鮮やかに描かれている。

この装飾は鏝絵である。左官が壁を塗る鏝で図柄を肉付けし、色漆喰で彩色する技法だ。蔵が建てられたのは大正五年(一九一六年)で、当施設を代表する建物の一つに数えられる。

先立つ手

摂田屋といえば、その鏝絵が日本一とも称される名高い一棟が全国に知られる。だが、それは別棟で、登録も平成十八年(二〇〇六年)にさかのぼる。両者は混同されやすい。衣装蔵はその名高い蔵ではない。地元の左官・河上伊吉が、近くの代表作を手がける前に残した早い時期の仕事として、独自の鏝絵をまとっている。

そう捉えると、この蔵は近くでよく見るだけの価値がある。妻を飾るサフランの花弁は、蔵を建てさせた商品そのものへ装飾を結びつけ、扉の内側の動物には、まだ本領を探る手つきがうかがえる。登録では、再現することが容易でないものという基準が挙げられている。十件のうちでは珍しい基準で、漆喰装飾に求められる技量への評価といえる。

文脈のなかで見る

衣装蔵は主屋に接続するため、単独の立ち寄り先というより案内見学の一部として捉えるのがよい。妻の外観は無料で入れる敷地内から観察でき、色漆喰の装飾は光がやわらかいときにゆっくり近くで見ると応えてくれる。

屋敷地は長岡市の所有で、土曜・日曜・祝日に公開される。内部は保存のための募金に応じて入る形で、ボランティアガイドが、少し歩いた先の名高い鏝絵蔵と衣装蔵との関係を示してくれる。

Q&A

Qこれがよく話題になる名高い鏝絵蔵ですか。
Aいいえ。日本一とも称される鏝絵の蔵は別棟で、登録は平成十八年です。衣装蔵は、同じ左官による、より早い時期の鏝絵をまとった蔵です。
Q鏝絵とは何ですか。
A漆喰を鏝で盛り上げて図柄をつくり、彩色する日本の左官の伝統技法です。彫るのではなく、肉付けして立体的に仕上げます。
Q装飾は誰の手によるものですか。
A近くに住んでいた左官・河上伊吉の作と伝わります。富山で技を学んでから、この屋敷の仕事にあたったといわれます。
Qなぜサフランの花が描かれているのですか。
Aサフランはこの地の財を築いた薬酒の風味づけで、その六弁の花が事業の印のように装飾へ取り入れられています。
Q内部の彩色された扉は見られますか。
A内部は土日祝に募金で公開されます。漆喰が傷みやすく、蔵が見学ルートの一部をなすため、ガイドが案内します。

基本情報

名称旧機那サフラン酒製造本舗衣装蔵
所在地新潟県長岡市摂田屋四丁目2292-1
指定区分登録有形文化財(令和3年2月4日登録)
年代大正5年(1916年)
構造土蔵造2階建、瓦葺、建築面積約53㎡
員数1棟
所有者長岡市
公開外観自由。内部は土日祝に募金による見学

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース — 旧機那サフラン酒製造本舗衣装蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013522
長岡市 旧機那サフラン酒製造本舗
https://www.city.nagaoka.niigata.jp/kankou/miru/brewing/kina-saffron.html
摂田屋・宮内 機那サフラン酒
https://settaya-miyauchi.jp/kinasaffron/
長岡観光ナビ 旧機那サフラン酒製造本舗
https://nagaoka-navi.or.jp/spot/5880

最終更新日: 2026.07.09