隅に立つ異質な一棟
敷地の南西隅に、周囲となじまない建物が立つ。ほかの蔵が白漆喰をまとうのに対し、この建築面積約五十二平方メートルの二階建は鉄板で覆われている。鉄板葺の置屋根を低く葺き降ろして前室まで覆い、内部の壁も鉄板で張る。腰も同じ鉄板張りで、漆喰は上部だけである。
戸口は北側に設けられる。全体に暗く閉じた印象で、主屋寄りの装飾された建物よりも工場然としている。年代は大正、おおよそ一九一二年から一九一八年にあたる。
秘密を明かさない建物
この蔵についていちばん正直に言えるのは、何のための建物か誰もはっきりとは分からない、ということだ。当蔵で花火を製造したとの伝聞があり、鉄板を多用する点は湿気や火への配慮とも合致するが、当時の用途は不詳と記録されている。登録もまた、伝聞と不明であることだけを記す。
花火の話は、この町では突飛ではない。サフラン酒の事業は、長岡花火の、それも祭りを名高くしている大玉のスポンサーであったことが記録に残る。火薬とのつながりは一族の世界のうちにある。それがこの場所での製造にまで及んだかどうかは、この建物が答えを渋りつづける類いの問いである。
観察できること
この蔵は、素材の対比として敷地内から読むのがよい。主屋寄りの漆喰や色鮮やかな鏝絵と並べると、鉄板という選択が考えるに足る謎になる。鉄板葺の屋根が前室の上へどう続くか、腰の張り方がどう覆うかを見てみたい。
屋敷地は長岡市の所有で、土曜・日曜・祝日に案内見学を受け付ける。外観は自由に見られる。この隅の建物について、分かっていることと推測にとどまることをガイドが整理してくれる。それもまた魅力の一つだ。
Q&A
- この蔵は何に使われていたのですか。
- 当時の用途は不詳と記録されています。花火を製造したとの伝聞があり、鉄板の多用は湿気や火への配慮とも考えられますが、確証はありません。
- なぜ鉄板で覆われているのですか。
- 屋根、腰、内壁がいずれも鉄板張りです。理由は定かでありませんが、こうした張り方は湿気や火を防ぐことがあります。
- 本当に花火とのつながりがあるのですか。
- サフラン酒の事業は長岡花火のスポンサーであったことが記録に残り、火薬は一族の世界の一部でした。ただし、ここで実際に玉を製造したかは確かめられていません。
- なぜ他の蔵と見た目がこれほど違うのですか。
- 主屋寄りの建物が白漆喰と色鮮やかな鏝絵をまとうのに対し、この蔵は暗い鉄板張りで、敷地の隅にあって際立ちます。
- 内部に入れますか。
- 内部は通常の公開ルートには含まれません。土日祝に開かれる敷地内から外観を見るのがよいでしょう。
基本情報
| 名称 | 旧機那サフラン酒製造本舗シチレン蔵 |
|---|---|
| 所在地 | 新潟県長岡市摂田屋四丁目169-1 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(令和3年2月4日登録) |
| 年代 | 大正(1912〜1918年頃) |
| 構造 | 土蔵造2階建、鉄板葺、建築面積約52㎡ |
| 員数 | 1棟 |
| 所有者 | 長岡市 |
| 公開 | 土日祝に外観自由 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース — 旧機那サフラン酒製造本舗シチレン蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013528
- 摂田屋・宮内 機那サフラン酒
- https://settaya-miyauchi.jp/kinasaffron/
- nippon.com 醸造の町・長岡「摂田屋地区」
- https://www.nippon.com/ja/guide-to-japan/gu900174/
最終更新日: 2026.07.09