摂田屋の醸造蔵 ― 二度動いた土蔵

星六土蔵(ほしろくどぞう、味噌星六の蔵)は、新潟県長岡市摂田屋にある明治中期建築の土蔵造二階建で、平成25年(2013年)3月29日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

JR宮内駅から南東へ徒歩十分ほど。旧三国街道の道筋に入ると、糀と塩と大豆の匂いが建物より先に届く。摂田屋は江戸期には幕府の天領で、良質な地下水に恵まれたことから酒・味噌・醤油の醸造が集まった。その集積は現在まで途切れていない。

文化庁の国指定文化財等データベースは、この蔵の建築年代を明治中期(1883〜1897年)、移築を明治後期(1898〜1912年)、さらに大正7年(1918年)に曳家が行われたと記録する。曳家は建物を解体せずに持ち上げ、そのまま位置を移す工法である。一方、地元の観光案内は明治30年(1897年)に星野本店から分家した際に蔵を移したと説明しており、この年次はデータベースの記載範囲とわずかにずれる。両者を並べたまま扱うのが妥当だろう。

年代の細部より重要なのは、この蔵が今も稼働していることである。味噌の仕込みと貯蔵に使われ続けている。

「登録」と「指定」はどう違うのか

日本の建造物保護には二つの制度が並走している。重要文化財・国宝は「指定」、登録有形文化財は「登録」であり、法的な重さが異なる。

指定は、国が突出した価値を認めて現状変更に強い制約をかけ、修理費の多くを国が負担する仕組みである。これに対し登録は、平成8年(1996年)の文化財保護法改正で設けられた比較的新しい制度で、外観の四分の一を超える変更に届出を求める程度の緩やかな規制にとどまる。所有者は税制上の優遇と修理設計費の補助を受けながら、建物を日常的に使い続けられる。

稼働中の味噌蔵にとって、この緩やかさは実務上の条件そのものである。指定並みの制約がかかれば、醸造を続けることは難しくなっていただろう。

星六土蔵の登録番号は15-0380、登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。種別は「産業2次」に分類されており、寺社や邸宅ではなく、地域経済を支えた醸造・加工の施設群に位置づけられている。

摂田屋には同種の登録が密集している。星野本店三階蔵も同じ平成25年の登録で、旧機那サフラン酒製造本舗の敷地には十棟の登録建造物が残る。

路上から見える三つの細部

規模は桁行7.3メートル、梁間7.9メートル、建築面積57平方メートル。桁行と梁間の差が小さく、平面はほぼ正方形に近い。細長い平面をとる土蔵が多いなかでは珍しい比率である。

立ち止まって見たい箇所が三つある。

  • 腰の板張り。壁の下部は漆喰をやめて横板を張り、簓子(ささらこ)と呼ばれる刻みを入れた竪桟で押さえている。刻みが板の小口を一段ずつ噛むので、板を厚く見せずに固定できる。雪と跳ね水は壁の足元から傷めていく。この木部が身代わりになって漆喰を守る。
  • 黒漆喰のアクセント。壁面は白漆喰だが、軒蛇腹と窓枠の一部だけが黒漆喰で塗り分けられている。黒漆喰は鏝で磨き上げる仕上げで、白よりはるかに手間がかかる。線として使うこの塗り分けは、施主の財力の控えめな表明でもある。
  • 置屋根。鉄板葺の屋根は土蔵本体に載せず、独立した小屋組を上からかぶせる置屋根形式をとる。本体と屋根のあいだに空隙ができるため、厚い土壁が呼吸し、雪国の冬でも蔵内の温度変化がゆるやかになる。醸造蔵としては合理的な選択である。

蔵は店舗兼主屋の南東側に接続している。店の前の道路から見上げるのが最も見やすい角度になる。

訪ねる前に

星六土蔵は稼働中の民間施設で、博物館としての公開はしていない。拝観料も拝観券もない。見学は前面道路からの外観のみで、蔵の前の店舗ではここで仕込まれた味噌を購入できる。営業時間は二次情報でおおむね9時から18時、日曜定休とされるが、公式サイトが明示しているのは電話受付時間の平日9時から17時までである。遠方から向かう場合は0258-32-6206へ事前に確認したい。

道路からの外観撮影に制限はない。店内および蔵内部の撮影は、食品製造の現場であるため必ず声をかけてからにすること。

なお、文化財データベースが記載する所在地は摂田屋4-2340-1、事業所として公表されている住所は摂田屋4-5-11で、いずれも同一の敷地を指す。地図アプリには後者を入力するほうが確実である。

摂田屋は一箇所だけ見て帰る場所ではない。徒歩五分の摂田屋4-6-33にある「摂田屋6番街 発酵ミュージアム・米蔵」は旧機那サフラン酒製造本舗の米蔵を改装した施設で、9時から17時、火曜休館、入場無料。同じ敷地には龍や十二支の鏝絵で知られる蔵が建つ。天保年間から続く醤油の越のむらさき、長谷川酒造、吉乃川も数百メートル圏内にある。

これらが残ったのは、ひとつの偶然による。昭和20年(1945年)8月1日の長岡空襲で市街地の大部分は焼失したが、南に離れた摂田屋は被災を免れた。

Q&A

Q星六土蔵は見学できますか。拝観料はかかりますか。
A内部の見学はできません。星六土蔵は現在も味噌の仕込みと貯蔵に使われている稼働中の蔵で、民間の事業所敷地内にあります。見学施設ではないため拝観料の設定もありません。外観は前面道路から自由に見ることができ、蔵に接続する店舗ではここで造られた味噌を購入できます。
Q星六土蔵は登録有形文化財と重要文化財のどちらですか。違いは何ですか。
A星六土蔵は登録有形文化財(建造物)で、重要文化財ではありません。登録は平成8年の文化財保護法改正で創設された制度で、外観を大きく変える際の届出を求める緩やかな規制にとどまり、所有者は建物を使い続けながら税制優遇を受けられます。重要文化財の「指定」は現状変更に強い制約を伴います。星六土蔵は平成25年3月29日に「国土の歴史的景観に寄与しているもの」の基準で登録されました。
Q星六土蔵へは長岡駅からどう行けばよいですか。
AJR信越本線で長岡駅から一駅南の宮内駅で降り、南東へ徒歩約十分です。摂田屋は長岡市街から南へおよそ4キロメートルの位置にあります。長岡駅からタクシーを使えば十五分程度。自動車の場合は発酵ミュージアム・米蔵に隣接する市営摂田屋駐車場が利用できます。
Q星六土蔵の写真撮影はできますか。
A道路からの外観撮影に制限はありません。軒蛇腹の黒漆喰は午後の斜光を受けたときに輪郭が出ます。店内や蔵内部の撮影は食品製造の現場にあたるため、必ず店の方に許可を得てください。
Q星六土蔵とあわせて摂田屋で見るべきものはありますか。
A摂田屋では五つの醸造元が登録有形文化財を有しています。星六土蔵と同じ平成25年登録の星野本店三階蔵は徒歩圏内にあり、旧機那サフラン酒製造本舗には鏝絵の蔵を含む十棟の登録建造物が残ります。摂田屋6番街 発酵ミュージアム・米蔵は9時から17時、火曜休館、入場無料。いずれも徒歩十五分ほどの範囲に収まります。

基本情報

名称星六土蔵(ほしろくどぞう)
所在地新潟県長岡市摂田屋4-2340-1(事業所住所は摂田屋4-5-11)
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 15-0380
指定年平成25年(2013年)3月29日 登録
員数1棟
寸法土蔵造2階建、鉄板葺、建築面積57平方メートル。桁行7.3メートル、梁間7.9メートル
所有者文化庁データベースに記載なし(味噌製造の星六が使用)
公開状況外観は前面道路から常時見学可。内部非公開。店舗営業時間は9時〜18時、日曜定休とされる(要事前確認)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「星六土蔵」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009448
長岡観光ナビ「星六(昔ながらの手作り味噌専門店)」
https://nagaoka-navi.or.jp/spot/42111
味噌星六 公式サイト
https://hoshi6.com/
摂田屋・宮内の歩き方
https://settaya-miyauchi.jp/touristguide/
nippon.com「醸造の町・長岡『摂田屋地区』」
https://www.nippon.com/ja/guide-to-japan/gu900174/
長岡市「長岡空襲について」
https://www.city.nagaoka.niigata.jp/kurashi/cate12/sensai/kuusyu.html

最終更新日: 2026.08.13