看板を掲げる表構え
主屋は新潟県長岡市摂田屋の広い屋敷地の東端に東面して建つ。切妻造の重厚な玄関にはサフラン酒の看板が掲げられ、通りと朝の光へ向けた表構えをつくる。奥に広がる木造二階建の主体部は建築面積四百六十九平方メートルに及び、初めて訪れる人は足を止めて全体を見渡すことになる。
主体部は二階建入母屋造で桟瓦を葺く。平面は表に二列六室を並べ、背面に座敷と三室を控える。もっとも古い部分は明治中期、一八八三年から一八九七年ごろの造営で、大正二年(一九一三年)に大きく増築された。当初の玄関と増築された主体部の継ぎ目には、屋敷が広げられていった痕跡が読み取れる。
登録の理由
令和三年二月、この主屋は同じ屋敷内の九棟の建物と石垣とともに登録有形文化財となった。登録制度は一点の傑作を選ぶのではなく、その土地の歴史的景観を形づくる建造物を守る仕組みで、主屋は周辺の歴史的景観に寄与している点で登録されている。
創業者の吉澤仁太郎は文久三年(一八六三年)の生まれで、明治十七年に家伝の薬酒の製造を始めた。明治二十七年に摂田屋へ移り、販路を東北から北海道、やがてハワイまで広げるなかで、得た財を普請へ注ぎ込んだ。華やかな装飾は背後の蔵に譲り、主屋は事業の落ち着いた顔として構えている。
訪ねてみる
見学は玄関から始めたい。東面するため午前中は光が回り、写真を撮る人はこの時間帯を選ぶことが多い。内部は見学の受付所を兼ね、古い広告やラベル、一族が遺した品々が並ぶ。
主屋は長岡市の所有で、土曜・日曜・祝日に公開される。外観はいつでも自由に見られるが、内部と庭園は一族の歴史に詳しいボランティアガイドの案内で見学する。所要は二十分ほどをみておくとよい。庭園と離れ座敷は積雪期に閉鎖される。
Q&A
- サフラン酒とはどのような酒ですか。
- サフランなどの高価な植物で調製した滋養強壮をうたう薬用酒で、明治後期から健康飲料として売り出されました。その評判が大きな売上を生みましたが、薬効については慎重にみる説もあります。
- 主屋の内部は見学できますか。
- 土曜・日曜・祝日に公開されます。内部の見学は保存のための募金(およそ二百円から)に応じる形で、受付は主屋で行います。
- 摂田屋への行き方は。
- JR宮内駅から徒歩約十分です。宮内駅は長岡駅の隣で、車の場合は近くの市営摂田屋駐車場が利用できます。
- 敷地全体は同じ年代ですか。
- いいえ。主屋は明治中期に始まり大正二年に増築され、周囲の蔵は一八八〇年代から一九三〇年代にわたります。屋敷は数十年にわたる普請の記録です。
- 「機那」とは何を指しますか。
- キニーネの原料となるキナ(規那)の当て字です。サフランと同じく高価な舶来品で、商品に舶来の高級感を添えるために名づけられたと伝わります。
基本情報
| 名称 | 旧機那サフラン酒製造本舗主屋 |
|---|---|
| 所在地 | 新潟県長岡市摂田屋四丁目2292-1他 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(令和3年2月4日登録) |
| 年代 | 明治中期(1883〜1897年)/大正2年(1913年)増築 |
| 構造 | 木造2階建、瓦葺、建築面積約469㎡ |
| 員数 | 1棟 |
| 所有者 | 長岡市 |
| 公開 | 外観自由。内部は土日祝に募金による見学 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース — 旧機那サフラン酒製造本舗主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013520
- 摂田屋・宮内 機那サフラン酒
- https://settaya-miyauchi.jp/kinasaffron/
- nippon.com 醸造の町・長岡「摂田屋地区」
- https://www.nippon.com/ja/guide-to-japan/gu900174/
最終更新日: 2026.07.09