屋敷が水を自前で配った装置

久恒家住宅給水塔は、大分県中津市大字上宮永にある大正13年(1924年)建設の煉瓦造の塔で、平成13年(2001年)に登録有形文化財となった。

東蔵の北面に立つ。平面は1辺約1.3メートルの方形で、細長い柱のような姿をしている。壁体は鉱滓煉瓦の1枚積。上部のおよそ4分の1をモルタル塗とし、そこに水槽を納める。頂部には銅板葺の切妻造の屋根が架かる。

高い位置に水槽を置き、落差で水を送る。上水道が普及する前に、屋敷が自前で水を配るにはこの方法しかなかった。久恒家住宅給水塔は、その仕組みがそのまま形になった工作物である。

登録が評価した点

久恒家住宅給水塔の登録基準は「再現することが容易でないもの」である。東蔵・西蔵・煙突と同じ枠に入る。

理由は材料と構法にある。鉱滓煉瓦を1枚積で高く立ち上げる工作物は、現在同じようには作れない。加えて、こうした住宅用の給水塔そのものが残りにくい。上水道が引かれれば役目を終え、邪魔になれば壊される。設備であるがゆえに、記念物として守られる契機を持ちにくい。

文化庁の解説は、大正期の住環境を知る手がかりとなる数少ない施設と評する。建築ではなく生活の設備が評価された点が、久恒家住宅給水塔の位置づけを示している。

見どころ

久恒家住宅給水塔で確かめたいのは、壁の仕上げが途中で変わる位置である。下からおよそ4分の3は鉱滓煉瓦を見せ、上のおよそ4分の1はモルタル塗になる。その境目が、内部で水槽が始まる高さにあたる。外から見ただけで、内部の構成が読める。

頂部の屋根は銅板葺である。小さな切妻屋根を載せることで、水槽への雨や落ち葉の侵入を防ぐ。緑青が出ていれば、瓦の赤褐色や煉瓦の黒ずんだ色の上に、緑の点が乗って見える。

煉瓦の1枚積は、厚さが煉瓦1個分しかないという意味である。1辺約1.3メートルの細い塔をこの厚さで立ち上げているので、目地の精度がそのまま構造の安定につながる。積み手の技量が問われる仕事になる。

なお高さについては資料の記載が一致しない。文化庁データベースの構造欄は高さ7.6メートルとするが、同じページの解説文は約5メートルと記す。中津市教育委員会が公表する国・県・市指定文化財一覧も1辺約1.3メートル、高さ約5メートルとしており、解説文と同じ値を採る。つまり構造欄だけが他と離れている。本記事の基本データには登録原簿の記載にあたる構造欄の7.6メートルを載せたうえで、両論を併記しておく。

見学方法

久恒家住宅給水塔は東蔵の北面に立つため、北側の公道から塀越しに塔の上部が見える。細く高い形なので、屋根や樹木の間からでも見つけやすい。物置とオンドル部屋の並びの奥、東寄りを探すとよい。

敷地には立ち入れないため、基部の煉瓦を間近で見ることはできない。水槽の内部を見る手立ても案内されていない。

見つけるなら冬が有利である。落葉すれば視線が通り、塔の輪郭が背景から分離する。夏は樹木に隠れやすい。

撮影は公道からに限る。屋敷への行き方と見学の条件は、久恒家住宅のページにまとめてある。

よくある質問

Q久恒家住宅給水塔は何のための施設ですか。
A屋敷に水を配るための施設です。高い位置に水槽を置き、落差を使って水を送る仕組みで、上水道が普及する前の住宅設備にあたります。
Q久恒家住宅給水塔の高さはどのくらいですか。
A文化庁データベースの構造欄は高さ7.6メートルとしますが、同じページの解説文と中津市教育委員会の文化財一覧はいずれも約5メートルと記しています。平面は1辺約1.3メートルの方形です。
Q久恒家住宅給水塔はどんな材料でできていますか。
A鉱滓煉瓦の1枚積です。上部のおよそ4分の1はモルタル塗で、そこに水槽を納めます。頂部の屋根は銅板葺です。
Q久恒家住宅給水塔はなぜ貴重なのですか。
A住宅用の給水塔は上水道が引かれると役目を終えて失われやすく、大正期の住環境を知る手がかりとして残る例が少ないためです。
Q久恒家住宅給水塔は外から見えますか。
A北側の公道から塀越しに上部が見えます。細く高い形なので見つけやすく、落葉期のほうが視線が通ります。

基本データ

名称久恒家住宅給水塔
所在地大分県中津市大字上宮永3-1
指定区分登録有形文化財(建造物)
指定年平成13年(2001年)8月28日登録
員数1基
寸法煉瓦造、高さ7.6メートル
所有者個人
公開状況非公開。公道からの外観見学のみ

参考文献

国指定文化財等データベース 久恒家住宅給水塔(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002337
中津市の文化財について(中津市)
https://www.city-nakatsu.jp/doc/2024101700025/
国指定・選定等文化財一覧(大分県)
https://www.pref.oita.jp/kyoiku/tmp/bunka/post-101/1.pdf
国・県・市指定文化財一覧 令和6年(2024年)8月1日現在(中津市教育委員会 歴史博物館)
https://www.city-nakatsu.jp/doc/2024101700025/file_contents/shiteibunkazai.pdf

最終更新日: 2026.09.14