旧矢掛本陣石井家住宅とは ― 本陣と造り酒屋を兼ねた屋敷

旧矢掛本陣石井家住宅は、岡山県小田郡矢掛町矢掛にある江戸時代後期から明治時代にかけての本陣兼酒造家の屋敷で、主屋・座敷・御成門など11棟が昭和44年(1969年)に重要文化財に指定された。

石井家は、旧山陽道の宿場である矢掛宿で本陣職を代々務めた家である。本陣は、参勤交代で国元と江戸を往復する大名や公家、幕府の役人が泊まり、あるいは休むための宿をいう。石井家は宝永5年(1708年)から大庄屋も務め、元禄のころ(1700年前後)には酒造業も始めていた。宿の主、村方の役人、造り酒屋という三つの顔を、一つの屋敷の中で使い分けていたことになる。

屋敷は旧山陽道に面し、間口は約36メートル、奥行きは約90メートルある。短冊形の細長い敷地に、本陣として客を迎える棟、店と住まいの棟、酒造りの棟が軒を接して並ぶ。

ふりがなは文化庁のデータベースでは「きゅうやかけほんじんいしいけじゅうたく」とされているが、町名は「やかげ」と読まれ、町の案内では「矢掛本陣」とも呼ばれている。

重要文化財に指定された理由

旧矢掛本陣石井家住宅の主屋以下11棟は、昭和44年(1969年)6月20日に重要文化財に指定された。同じ宿場で脇本陣を務めた高草家の住宅も同じ日に指定を受けており、昭和58年(1983年)6月2日には石井家住宅の追加指定が行われている。

文化庁の解説が重んじているのは、一棟ごとの古さよりも屋敷全体の構えである。大名を迎える座敷と御成門、帳場や家族の暮らしの場となった主屋、酒倉・絞り場・麹場といった酒造りの建物、米倉・西倉・内倉の蔵、そして裏門と中門。用途の違う建物が本来の場所に立ったまま、互いの位置関係を失わずに残っている。商家を兼ねた本陣の屋敷構えがここまでまとまって見られることが、評価の中心になった。

指定には附として、隠居所1棟、番所・洗場及び風呂場1棟、家相図1枚、御成門と裏門にそれぞれ続く土塀も含まれる。建物だけでなく、屋敷の間取りを家相の観点から描いた図が一緒に守られている点は見落とされやすい。

保存修理は段階的に進められた。裏門については昭和47年(1972年)に修理工事報告書がまとめられ、昭和61年(1986年)には屋敷全体の解体修理が始まった。修理を終えた旧矢掛本陣石井家住宅は、平成3年(1991年)から一般に公開されている。

旧矢掛本陣石井家住宅の見どころ ― 表の座敷から奥の酒倉まで

御成門と座敷

街道から見て最も格式の高い入口が御成門である。天保ごろ(19世紀前半)の棟門で、屋根は本瓦葺。大名など身分の高い客を迎えるための門で、これに続く土塀も附として指定されている。

その奥の座敷は天保3年(1832年)の建築で、桁行11.7メートル、梁間12.0メートル。入母屋造・本瓦葺の屋根をのせ、北面に玄関、南面に風呂場・便所と渡廊下が付く。内部には大名などが宿泊や休憩に使った上段の間があり、床を一段高くして主客の座を区別している。

石井家に伝わる古文書には、薩摩から江戸へ向かう途中の天璋院篤姫がこの本陣に泊まった記録がある。将軍への献上のため長崎から江戸へ運ばれた象が立ち寄ったという記録も残されており、本陣が人だけの宿ではなかったことが分かる。

主屋

主屋は江戸時代末から明治初めにかけての建物で、本体は桁行21.4メートル、梁間9.0メートル、一部二階の入母屋造・本瓦葺。そこへ南側に桁行13.0メートルの突出部、西側に両下造の突出部、南東の端に切妻造の小さな突出部が取り付く。平面は単純な長方形ではなく、屋根も高さと向きの違う面が重なっている。街道側から見上げると、その重なりで建物の奥行きがつかめる。

酒造りの蔵と裏門

酒倉は江戸時代後期の土蔵造で、桁行29.6メートル、梁間9.9メートル。指定された11棟のうち桁行がもっとも長く、造り酒屋としての石井家の規模がこの一棟で分かる。仕込んだもろみを搾った絞り場は明治の建物で、桁行5.6メートル、梁間6.9メートルとほぼ正方形に近い。江戸時代末期の麹場は桁行9.1メートル、梁間3.9メートルと細長く、用途によって蔵の形がはっきり違う。

米倉は江戸時代末期の二階建てで、西面に庇と井戸屋形、北面に塩部屋・カギヤ・井戸屋形が付属する。西倉は安永ごろ(1772〜1780年ごろ)の二階建ての土蔵で、建築年代が絞り込まれている建物の中では最も古い。内倉は明治の二階建てで、切妻造の妻入とし、北面に渡廊下が付く。

敷地の奥を固める裏門は江戸時代後期の長屋門で、桁行28.3メートル、梁間4.9メートル、一部二階の入母屋造。中門は明治の二階建てで、桁行10.8メートルある。御成門・裏門・中門と、一つの屋敷で門が三つも指定されているところに、人と物の出入りが多かった本陣兼酒造家の暮らしぶりがうかがえる。

旧矢掛本陣石井家住宅の見学方法

旧矢掛本陣石井家住宅は内部を公開している。開館時間は3月から10月が午前9時から午後5時、11月から2月が午前9時から午後4時で、入館は閉館の30分前まで。休館日は月曜日(祝日の場合は翌日)で、年末年始も休館となる。

入館料は大人(高校生以上)500円、小中学生300円。20名以上の団体は大人400円、小中学生200円になる。問い合わせ先は、町の施設案内ではやかげ郷土美術館(0866-82-2110)とされている。

最寄り駅は井原鉄道井原線の矢掛駅で、旧矢掛本陣石井家住宅まで徒歩約10分。駅は宿場町の北側にあり、南へ歩いて旧山陽道に出れば屋敷の長い間口が見えてくる。車では山陽自動車道の鴨方インターチェンジから約20分とされる。駐車場は、矢掛町の施設案内では「なし」、岡山県観光連盟の案内では台数の記載があり、情報が分かれているため事前に問い合わせたい。

内部での撮影の可否は公表されている資料で確認できなかった。撮影したい場合は受付で尋ねてほしい。

屋敷の前を通る旧山陽道沿いの町並みは、令和2年(2020年)に重要伝統的建造物群保存地区「矢掛町矢掛宿」に選定されている。同じ街道沿いには旧矢掛脇本陣髙草家住宅が残り、矢掛町は本陣と脇本陣が揃って重要文化財として残る例を全国唯一としている。毎年11月の第2日曜日には「矢掛の宿場まつり」で大名行列が再現される。

Q&A

Q旧矢掛本陣石井家住宅は見学できますか?開館時間と入館料は?
A見学できます。3月から10月は午前9時から午後5時、11月から2月は午前9時から午後4時まで開館し、入館は閉館の30分前までです。月曜日(祝日の場合は翌日)と年末年始は休館です。入館料は大人500円、小中学生300円です。
Q旧矢掛本陣石井家住宅へ電車で行くには?
A井原鉄道井原線の矢掛駅から徒歩約10分です。駐車場については案内によって記載が異なるため、車で訪れる場合はやかげ郷土美術館(0866-82-2110)に事前に確認してください。
Q旧矢掛本陣石井家住宅で重要文化財になっている建物はどれですか?
A主屋、座敷、御成門、裏門、内倉、西倉、米倉、酒倉、絞り場、麹場、中門の11棟です。昭和44年(1969年)に指定され、隠居所や家相図、土塀などが附として含まれています。
Q旧矢掛本陣石井家住宅に篤姫が泊まったというのは本当ですか?
A石井家に伝わる古文書に、薩摩から江戸へ向かう途中の天璋院篤姫が矢掛本陣に宿泊した記録があります。座敷には大名などが使った上段の間が残っています。
Q旧矢掛本陣石井家住宅の建物はいつ建てられたものですか?
A建築年代が絞り込まれているもので最も古いのは安永ごろ(1772〜1780年ごろ)の西倉で、裏門と酒倉も江戸時代後期の建物です。座敷は天保3年(1832年)、主屋は江戸時代末から明治初め、内倉・絞り場・中門は明治の建築です。

基本情報

名称旧矢掛本陣石井家住宅(主屋、座敷、御成門、裏門、内倉、西倉、米倉、酒倉、絞り場、麹場、中門)
所在地岡山県小田郡矢掛町矢掛3079番地
指定区分重要文化財(建造物)
指定年昭和44年(1969年)6月20日指定、昭和58年(1983年)6月2日追加指定
員数11棟(附:隠居所1棟、番所・洗場及び風呂場1棟、家相図1枚、土塀)
寸法主屋 桁行21.4m・梁間9.0m、酒倉 桁行29.6m・梁間9.9m、裏門 桁行28.3m・梁間4.9m、座敷 桁行11.7m・梁間12.0m
所有者個人
公開状況公開(有料、月曜休館)

参考文献

旧矢掛本陣石井家住宅 主屋(文化庁 国指定文化財等データベース)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/3067
旧矢掛本陣石井家住宅 座敷(文化庁 国指定文化財等データベース)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/3068
旧矢掛本陣石井家住宅 裏門(文化庁 国指定文化財等データベース)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/3070
旧矢掛本陣石井家住宅 酒倉(文化庁 国指定文化財等データベース)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/3074
旧矢掛本陣石井家住宅(岡山県小田郡矢掛町) 主屋(文化遺産オンライン)
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/123874
旧矢掛本陣石井家住宅(矢掛町公式ホームページ)
https://www.town.yakage.okayama.jp/machi/shisetsu/honjin.html
矢掛町矢掛宿(文化庁 重要伝統的建造物群保存地区 紹介資料)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/hozonchiku/pdf/93738601_85.pdf
矢掛町文化財保存活用地域計画【案】(矢掛町)
https://www.town.yakage.okayama.jp/news/files/%E3%80%90%E6%9C%AC%E6%96%87%E3%80%91%E7%9F%A2%E6%8E%9B%E7%94%BA%E6%96%87%E5%8C%96%E8%B2%A1%E4%BF%9D%E5%AD%98%E6%B4%BB%E7%94%A8%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E8%A8%88%E7%94%BB.pdf
旧矢掛本陣石井家住宅(高梁川流域連盟 高梁川流域の指定文化財)
https://takahashiryuiki.com/feature/%E9%AB%98%E6%A2%81%E5%B7%9D%E6%B5%81%E5%9F%9F%E3%81%AE%E6%8C%87%E5%AE%9A%E6%96%87%E5%8C%96%E8%B2%A1%EF%BC%88%E5%BB%BA%E9%80%A0%E7%89%A9%EF%BC%89/%E7%9F%A2%E6%8E%9B%E7%94%BA/%E6%97%A7%E7%9F%A2%E6%8E%9B%E6%9C%AC%E9%99%A3%E7%9F%B3%E4%BA%95%E5%AE%B6%E4%BD%8F%E5%AE%85/
旧矢掛本陣石井家住宅(岡山観光WEB 岡山県観光連盟)
https://www.okayama-kanko.jp/spot/11677

最終更新日: 2026.09.25

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  1. 旧矢掛本陣石井家住宅(岡山県小田郡矢掛町) 裏門 0.00 km
  2. 旧矢掛本陣石井家住宅(岡山県小田郡矢掛町) 中門 0.02 km
  3. 旧矢掛本陣石井家住宅(岡山県小田郡矢掛町) 麹場 0.02 km
  4. 旧矢掛本陣石井家住宅(岡山県小田郡矢掛町) 絞り場 0.02 km
  5. 旧矢掛本陣石井家住宅(岡山県小田郡矢掛町) 西倉 0.02 km
  6. 旧矢掛本陣石井家住宅(岡山県小田郡矢掛町) 酒倉 0.03 km
  7. 旧矢掛本陣石井家住宅(岡山県小田郡矢掛町) 座敷 0.04 km
  8. 旧矢掛本陣石井家住宅(岡山県小田郡矢掛町) 米倉 0.05 km
  9. 旧矢掛本陣石井家住宅(岡山県小田郡矢掛町) 内倉 0.05 km
  10. 旧矢掛本陣石井家住宅(岡山県小田郡矢掛町) 主屋 0.06 km
  11. 旧矢掛本陣石井家住宅(岡山県小田郡矢掛町) 御成門 0.08 km