蔵のなかに座敷がある
旧梅津歯科医院座敷蔵は、山形県上山市十日町にある大正11年(1922年)建築の木造2階建土蔵で、令和4年(2022年)2月17日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。登録番号は06-0199。
座敷蔵は、土蔵の内部を座敷として仕立てた建物をいう。東北の雪国に多く見られる形式で、日本の住宅の常識をひとつ裏返している。家がいちばん上等に作った部屋が、母屋ではなく庭奥の厚い壁の内側にある。
この蔵の一階は続き座敷で、仏間と床付の座敷が並ぶ。二階は物置。下が接客と仏事、上が収納という配分である。
座敷蔵が生まれた理由は、実用の側から説明されるのが一般的だ。土蔵は屋敷のなかで最も火に強い。木の軸組を土で包み、漆喰で仕上げる。失えないものはそこへ入れる。家格のある家では、それが米俵だけでなく先祖の位牌でもあった。
構造と建具を見る
建築面積73平方メートル。屋根は切妻造の鉄板葺で、平入、つまり長手側から入る。軒下には鉢巻を回す。漆喰で厚く塗り上げた帯状の造作で、東北の土蔵に広く見られるが、この蔵では丁寧に仕上げられている。
戸口と窓には掛子塗の扉が備わる。扉と枠の合わせ目を段状に刻んで噛み合わせ、その上を漆喰で塗り込めた建具で、閉めれば炎と煙が隙間から入らない。左官の技量が問われる仕事であり、その出来は施主の格をそのまま映すものだった。
文化庁の解説がとくに挙げるのは頭上である。太い牛梁が空間を横断し、それを支える曲梁もまた太い。雪国の小屋組は、南国の住宅が経験しない荷重を前提に組まれる。積雪の重さが構造全体を押し下げるからだ。データベースの記述は「雪国らしい豪壮な座敷蔵」と結んでいる。行政文書としてはかなり踏み込んだ書き方といえる。
庭に向く一面
土蔵は普通、四面とも閉じている。この蔵は一面だけ違う。
池庭に面する蔵前には縁を通し、そこにガラス戸を建てる。大正11年の地方の家にとってガラスはまだ高い建材だった。それをここに使ったという事実が、この空間の用途を示している。誰かが縁に座り、水面を眺めた。
5年後の昭和2年に建てられた住居棟二階の座敷と比べてみたい。文化庁の解説は両者を好対照と評している。住居棟は高い位置に明るく開いた部屋を用意し、外へ視線を放つ。座敷蔵は地上に暗く重い部屋を置き、囲われた庭の内側を見せる。客と用向きと天候に応じて、主人は二つの部屋を選び分けられた。山形の冬を考えれば、最後の条件は小さくない。
年代の順序も押さえておきたい。座敷蔵は診療棟・住居棟より古い。大正11年の竣工時にはまだ以前の主屋が建っており、現在この蔵を挟んで建つ二棟は5年先の話である。今日見られる屋敷の姿は、大正から昭和初期にかけて段階的に組み上げられたものだ。
見学の可否と近隣
個人所有で、内部は公開されていない。拝観料や公開時間の設定はなく、上山市の見学可能な文化財建造物の一覧にも入っていない。池庭とガラス戸の縁は敷地外から見ることができない。
そのため、ここを目的地にするより、街歩きの途中の一点として組み込むほうが現実的だ。JRかみのやま温泉駅から徒歩5分ほど、山形駅からは奥羽本線の普通列車で20分前後。撮影は公道から見える範囲にとどめてほしい。
東北の蔵の造りに関心があるなら、市内に見学しやすい対象がある。登録有形文化財の蟹仙洞は展示館と旧長谷川家住宅からなる博物館で、旧長谷川製糸所の繭蔵も登録されている。北へ歩けば仲丁通りの武家屋敷が4軒残り、三輪家は内部が公開されている。天文4年(1535年)築城の上山城は再建天守が郷土資料館となっており、十日町が属した城下町の全体像をつかむのに向く。
Q&A
- 旧梅津歯科医院座敷蔵の「座敷蔵」とはどういう建物ですか。
- 土蔵の内部を座敷として仕立てた建物です。この蔵では一階に仏間と床付座敷の続き座敷を置き、二階を物置としています。東北の雪国に多く見られる形式です。
- 旧梅津歯科医院座敷蔵は見学や撮影ができますか。
- 個人所有のため公開されていません。拝観料や公開時間の設定はなく、池庭に面する側は敷地外から見えません。撮影は公道から見える範囲にとどめてください。
- 旧梅津歯科医院座敷蔵はいつ建てられましたか。ほかの棟との前後関係は。
- 大正11年(1922年)の建築で、昭和2年(1927年)の診療棟・住居棟より5年古いものです。同じ敷地の穀物蔵と味噌蔵は大正後期(1919年から1926年)とされています。
- 旧梅津歯科医院座敷蔵の構造上の見どころはどこですか。
- 太い牛梁とそれを支える曲梁で、文化庁の解説は雪国らしい豪壮な造りと評しています。戸口と窓の掛子塗扉、軒下の鉢巻も土蔵として質の高い造作です。
- 旧梅津歯科医院座敷蔵はなぜ重要文化財ではなく登録有形文化財なのですか。
- 登録有形文化財は平成8年(1996年)に設けられた届出制の制度で、使い続けられている建物を保存の枠に入れることを想定しています。この蔵は「造形の規範となっているもの」の基準で登録されました。
基本情報
| 名称 | 旧梅津歯科医院座敷蔵(きゅううめつしかいいんざしきぐら) |
|---|---|
| 所在地 | 山形県上山市十日町941 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号06-0199/登録基準「造形の規範となっているもの」 |
| 指定年 | 令和4年(2022年)2月17日 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、鉄板葺、建築面積73平方メートル |
| 所有者 | 個人 |
| 公開状況 | 非公開(池庭側は敷地外から見えない) |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「旧梅津歯科医院座敷蔵」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014131
- 文化遺産オンライン「旧梅津歯科医院座敷蔵」
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/545041
- 上山市「国登録有形文化財(100から104、109)」
- https://www.city.kaminoyama.yamagata.jp/soshiki/25/km202000714.html
- 上山市「市内見学可能施設(文化財建造物)」
- https://www.city.kaminoyama.yamagata.jp/soshiki/25/bunka-shisetsu.html
最終更新日: 2026.07.30