洋館として建てられた歯科医院
旧梅津歯科医院診療棟は、山形県上山市十日町にある昭和2年(1927年)建築の木造2階建洋館で、令和4年(2022年)2月17日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。登録番号は06-0197である。
敷地の中央やや東寄りに南面して建つ。屋根は入母屋造の鉄板葺で、棟の頂部にフィニアルを立てる。正面にはペディメント風の三角形の切妻をのせたポーチが突き出す。街路に向けた顔つきは、地方都市の歯科医院というより小規模な洋風住宅に近い。
梅津家は江戸時代に上山藩の御殿医を務めた家系で、歯科医院としての開業は大正期にあたる。上山市の文化財紹介はそう記している。つまりこの診療棟は、代々医を業としてきた家が、新しく入ってきた歯科という職業のために新しい様式で建てた建物である。
建築面積は76平方メートル。一階に薬局を置き、二階に診察室と技工室を配した。技工室は義歯や冠を手作業で成形する作業場で、専用の一室を設けた例が地方に残ることは多くない。開業当初から相応の設備を備えた医院であったことがうかがえる。
指定ではなく「登録」であること
この建物の肩書きは重要文化財ではなく登録有形文化財である。両者は運用がかなり違う。
登録制度は平成8年(1996年)に文化財保護法の改正で設けられた。重要文化財の指定が現状変更に許可を要する強い規制をかけるのに対し、登録は届出制をとる。所有者が現に使い続けている建物、住み続けている建物を対象に想定した仕組みで、全国の登録件数は建造物だけで1万4千件を超える。原則として建設後50年を経ていることが要件となる。
登録基準は三つあり、診療棟は「造形の規範となっているもの」に該当する。同じ基準で登録されたのは、西隣の住居棟と庭の座敷蔵。一方、敷地背面の穀物蔵と味噌蔵は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録された。同じ屋敷のなかで基準が二種類に分かれている点は、この一群を見るときの手がかりになる。5棟はいずれも令和4年2月17日に同時登録され、登録番号は06-0197から06-0201まで連番である。
洋風が及ばなかった場所
外観は洋風で通している。ところが文化庁の解説によれば、各階の待合は畳敷である。
ここが面白い。昭和2年の上山で、患者は靴を脱ぎ、畳の上で順番を待った。その頭上には、ヨーロッパの客間に見られるような天井中心飾りがある。階段の手摺も洋風に仕上げてある。洋風の意匠を全体に凝らしながら、床は畳のまま据え置いた。
近代建築史ではこうした部分的な受容を、折衷の失敗ではなく時代の標準として扱う。街路に向けたペディメントは新しい医療の到来を告げる看板の役目を果たし、内部の畳は、玄関で履物を脱ぐという変わらない習慣に応じていた。二つの要求が一棟のなかで役割を分けている。
診療棟の西側には和館の住居棟が接続する。同じ昭和2年に建てられた別棟で、洋館と和館が肩を接して並ぶ構成そのものが、この屋敷の見どころといえる。接合部は外からも確認できる。
訪ねるときに
個人所有の私邸であり、内部は公開されていない。拝観時間や入館料の設定はなく、上山市が公表している「見学可能な文化財建造物」の一覧にも含まれていない。内部を見る目的で足を運んでも入ることはできないので、その前提で計画してほしい。
外観は公道から見える。JRかみのやま温泉駅から徒歩5分ほど、山形駅からは奥羽本線の普通列車で20分前後。東北中央自動車道の山形上山インターチェンジからは車で10分程度である。撮影は敷地外から見える範囲にとどめ、門内に立ち入ったり生活の様子を写したりすることは避けたい。現に人が住んでいる家である。
十日町という地区の性格も知っておくと歩き方が変わる。上山は天文4年(1535年)築城の上山城(月岡城)の城下町であり、羽州街道の宿場町であり、同時に温泉町でもあった。十日町はその三つの機能が重なる位置にある。北へ少し歩けば仲丁通りの武家屋敷が4軒残り、三輪家は内部が公開されている。上山城の再建天守は郷土資料館として使われている。市内にはほかに蟹仙洞や山城屋旧館など5件の登録有形文化財があり、梅津家の建物群も含めて徒歩圏の一巡りにまとめられる。
Q&A
- 旧梅津歯科医院診療棟は見学できますか。拝観料や公開時間はありますか。
- 個人所有のため内部は公開されていません。拝観料や公開時間の設定はなく、上山市の見学可能な文化財建造物の一覧にも含まれていません。外観は公道から見ることができます。
- 旧梅津歯科医院診療棟へはどう行けばよいですか。
- 所在地は上山市十日町941で、JRかみのやま温泉駅から徒歩約5分です。山形駅からは奥羽本線の普通列車で20分前後、車の場合は東北中央自動車道の山形上山インターチェンジから10分程度です。
- 旧梅津歯科医院診療棟は重要文化財とどう違うのですか。
- 登録有形文化財です。平成8年(1996年)に始まった制度で、現状変更に許可を必要とする重要文化財の指定と異なり、届出制をとります。使い続けられている建物を保存の対象に取り込むための仕組みです。
- 旧梅津歯科医院診療棟の内部はどのような造りですか。
- 一階に薬局、二階に診察室と技工室を配します。天井中心飾りや階段手摺など全体に洋風の意匠を用いる一方、各階の待合は畳敷です。義歯などを製作する技工室が専用に設けられている点も特徴です。
- 旧梅津歯科医院で登録有形文化財になっている建物は何棟ありますか。
- 5棟です。昭和2年の診療棟と住居棟、大正11年の座敷蔵、大正後期の穀物蔵と味噌蔵で、いずれも令和4年2月17日に登録されました。前三者は造形の規範、後二者は歴史的景観への寄与を基準としています。
基本情報
| 名称 | 旧梅津歯科医院診療棟(きゅううめつしかいいんしんりょうとう) |
|---|---|
| 所在地 | 山形県上山市十日町941 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号06-0197/登録基準「造形の規範となっているもの」 |
| 指定年 | 令和4年(2022年)2月17日 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、鉄板葺、建築面積76平方メートル |
| 所有者 | 個人 |
| 公開状況 | 非公開(外観は公道から見学可) |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「旧梅津歯科医院診療棟」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014129
- 文化遺産オンライン「旧梅津歯科医院診療棟」
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/598769
- 上山市「国登録有形文化財(100から104、109)」
- https://www.city.kaminoyama.yamagata.jp/soshiki/25/km202000714.html
- 上山市「市内見学可能施設(文化財建造物)」
- https://www.city.kaminoyama.yamagata.jp/soshiki/25/bunka-shisetsu.html
最終更新日: 2026.07.30