大正七年の旅館建築 ― かみのやま温泉発祥の地に建つ

山城屋旧館は、山形県上山市湯町にある大正7年(1918年)建築の旅館建築で、平成23年(2011年)10月28日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。国指定文化財等データベースは、敷地中央に建つ木造2階建、建築面積219平方メートル、寄棟造鉄板葺の建物として記録している。

所在地の湯町277番地は、上山の温泉街のなかでも最も古い層に属する。長禄2年(1458年)、肥前の僧・月秀が沼地に湧く湯で鶴が傷ついた脛を癒すのを見たという伝承がこの地に結びつき、以来この温泉は長く「鶴脛の湯」と呼ばれた。旅籠の集積という点で、湯町は新湯や十日町よりも一段古い履歴を持つ。

旅館としての山城屋は平成22年(2010年)に営業を終えた。同年9月、同じ市内で葉山地区に宿を構える株式会社葉山館が建物を取得し、以後は夏季限定のかき氷店、飲食店、月一回の市、教室や撮影のための施設貸出といった形で使い続けている。保存のために凍結された建物ではなく、用途を変えながら現役であり続けている建物である。

登録の理由と、この建物が示すもの

登録有形文化財の制度は平成8年(1996年)に始まった。国宝・重要文化財のような厳格な現状変更規制を課さず、外観の四分の一を超える改変に際して届出を求める代わりに、税制上の優遇と修理設計の助言を与える。使いながら残すことを前提とした枠組みで、山城屋旧館はその典型に当たる。

登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。規模や意匠の稀少性ではなく、地方の温泉街に建つ中規模旅館が、大正期にどう建てられたかという点が評価された。

その解答は明快である。上下階とも、蔵王連峰を望む南東面に客室を並べる。客室の外周には廊下を廻し、その外側をガラス戸で閉じる。大正7年の地方において板ガラスは高価な材で、一面の立面をガラスで覆うのは経営判断としての投資だった。2階の建具には色ガラスが用いられている。文化庁の解説文は、これを「瀟洒な外観の旅館建築」と短く評した。

登録は第71回、登録番号06-0126。同じ日に、敷地東側の土蔵が山城屋荷蔵(06-0127)として別個に登録されている。

見どころ ― 屋根、ガラス、そして廻り縁

まず屋根を見上げたい。寄棟造は四方に勾配を落とす形式で、切妻造の商家建築が並ぶ通りのなかでは低く広い輪郭を描く。鉄板葺は軽く、雪を滑らせやすい。東北の木造建築で二十世紀のあいだに広く採用された仕様で、文化庁の記録も現況を鉄板葺とする。

次にガラス。南東面に立ち、板ガラスの一枚一枚を眺めてみる。フロート法以前のガラスは引き上げまたは圧延で製造され、面にわずかな起伏が残る。当初材が残る箇所では、首を動かすと向こうの蔵王の稜線が静かに揺れる。2階建具の色ガラスは、午後の光を廊下の床板に落とす。

廊下そのものが、この平面計画の要である。客室と外壁のあいだに一間の通路を挟み、建具を引き込めば庭が座敷の延長になる。この時期の旅館建築では珍しくない構成だが、山城屋旧館では上下二層でそれを繰り返し、いずれの層も外側をガラスで閉じている。

敷地には登録建造物以外の要素も残る。門、白砂利を敷いた前庭、松と躑躅の植栽は旅館時代の演出の一部で、旅館営業時の訪問記にはしばしば武家屋敷を思わせるという評が見える。上山には実際の武家屋敷が鶴脛町に四棟残り、うち二棟が公開されている。徒歩圏なので、続けて訪ねると意匠の系統の違いがよく分かる。

訪ねる前に確認したいこと

かみのやま温泉駅は山形新幹線の停車駅で、東京駅からおよそ2時間30分、山形駅からは普通列車で12分ほど。湯町までは駅から約900メートル、徒歩12〜15分。途中に上山城(昭和57年再建の郷土資料館)があり、山城屋の門の近くには鶴の休み石と湯町の足湯がある。

山形県の文化財データベースは山城屋旧館を「公開の有無:有」とする。ただし内部に入れるかどうかは、その時期に所有者がどの事業を行っているかに左右される。平成27年(2015年)4月に本格開業した飲食店については、主要な飲食店情報サイトで運営状況が確認できない状態が続いている。内部の見学を目的に遠方から訪ねる場合は、事前に葉山館(023-672-0885)へ問い合わせておきたい。外観、門、前庭は通りから随時見ることができる。

撮影規則は公表されていない。営業中の私有建築であるため、内部での撮影は所有者に確認するのが前提となる。

山城屋は歌人・斎藤茂吉ゆかりの宿としても知られてきた。茂吉は明治15年(1882年)に現在の上山市金瓶に生まれている。旅館営業の末期には上階に茂吉関係の資料を並べた一室があり、無料で見学できた。所有者の葉山館も現在、この建物を「歌人・齋藤茂吉ゆかりの旧旅館」と紹介している。なお、茂吉の主要資料を収蔵するのは市内みゆき公園内の斎藤茂吉記念館で、こちらは別施設である。

Q&A

Q山城屋旧館は見学できますか。拝観料や公開時間はありますか。
A山形県の文化財データベースは公開ありとしていますが、常設の見学施設ではありません。定まった拝観料も公開時間も設定されておらず、内部に入れるかどうかは所有者がその時期に行っている事業次第です。訪問前に葉山館(023-672-0885)へご確認ください。外観は通りから自由に見られます。
Q山城屋旧館へはかみのやま温泉駅からどう行きますか。
A徒歩が便利です。湯町地区までは駅から約900メートル、ゆっくり歩いて12〜15分。道中に上山城や無料の足湯があります。タクシーなら3分ほど。かみのやま温泉駅は山形新幹線の停車駅で、東京駅から約2時間30分です。
Q山城屋旧館に宿泊することはできますか。
Aできません。旅館山城屋は平成22年(2010年)に営業を終え、同年9月に株式会社葉山館が建物を取得しました。以後は飲食やイベントの場として使われており、宿泊の受け入れは行っていません。湯町および隣接する新湯地区には営業中の旅館が複数あります。
Q山城屋旧館と山城屋荷蔵はどう違うのですか。
A同一敷地にある別々の建物で、それぞれ独立して登録されています。旧館は敷地中央に建つ大正7年の木造2階建の客室棟で、ガラス戸の廻り廊下と南東向きの客室を備えます。荷蔵(06-0127)は敷地東側の通路沿いに建つ明治後期の土蔵造2階建で、客を迎える建物ではなく荷を納める建物です。
Q山城屋旧館の建築年は大正7年で確定しているのですか。
A国指定文化財等データベースは大正7年(1918年)とし、これが登録台帳上の年代です。一方、所有者である葉山館の公式サイトは大正11年築と記し、旅行記事では大正末期とするものもあります。本記事は文化庁の記載に従いましたが、この差異は公に整理されていません。

基本データ

名称山城屋旧館(やましろやきゅうかん)
所在地山形県上山市湯町277他
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 06-0126
指定年平成23年(2011年)10月28日登録(第71回)
員数1棟
寸法建築面積219平方メートル/木造2階建、寄棟造、鉄板葺
所有者株式会社葉山館
公開状況山形県データベースでは公開あり。内部の見学可否は所有者の運営状況による。事前確認推奨(023-672-0885)。外観は通りから見学可。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)— 山城屋旧館
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00008808
文化遺産オンライン — 山城屋旧館
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/198531
山形の宝 検索navi(山形県)— 山城屋旧館
https://www.pref.yamagata.jp/cgi-bin/yamagata-takara/?m=detail&id=1819
葉山館 公式サイト — 革新的取り組み(山城屋取得の経緯)
https://www.hayamakan.com/company/innovation/
上山市 — 指定文化財一覧
https://www.city.kaminoyama.yamagata.jp/soshiki/25/km201301235.html

最終更新日: 2026.08.10