奇想の外観をもつ昭和の温泉旅館
旅館よね本旅館棟は、山形県上山市の温泉街、かみのやま温泉の一角に建つ。昭和14年(1939年)に建てられた木造2階建で、建築面積はおよそ178平方メートル、屋根は寄棟造の鉄板葺である。敷地の中央に位置するこの建物の見どころは、その正面にある。
モルタル塗の外壁には柱形が浮かび、西側の隅は切り落としてドリス式風の柱形に仕立てている。2階には丸窓を並べ、南面には入母屋造の玄関を構える。和と洋を取り合わせた意匠は遊び心に富み、この奇想ともいえる外観こそが、国の登録有形文化財に選ばれた理由となった。
「登録」有形文化財という枠組み
日本の文化財保護には、性格の異なる二つの仕組みがある。一つは「指定」で、特に価値の高い建造物を重要文化財や国宝として選び、現状変更に厳しい制限をかける。もう一つが平成8年(1996年)に始まった「登録」で、築後おおむね50年を超えるような比較的新しい建物を幅広く対象とし、所有者が使い続けながら守ることを促す、緩やかな保護の制度である。
旅館よね本旅館棟は、この後者にあたる。登録番号は06-0128、平成23年(2011年)10月28日に登録有形文化財(建造物)となった。登録の基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。つまりこの建物の価値は、珍しさよりも、現役の温泉街の景観をかたちづくっている点にある。昭和初期の旅館や商店は、近代的であることを示すために西洋古典の細部を取り入れることが多く、隅切りとドリス式の柱形はその好例といえる。一方で入母屋造の玄関は、和の構えをしっかりと残している。
見どころ
まず建物の隅に注目したい。西側の角は斜めに切り落とされ、ドリス式風の柱形が一対つくられている。木造の旅館に添えられた、小さな古典建築の趣向である。視線を上げれば、2階には丸窓が並ぶ。壁面に軽やかなリズムを与える、当時としては珍しい意匠だ。柱形を浮き立たせたモルタルの外壁が、正面全体をひとつにまとめている。南面の玄関は瓦葺の入母屋屋根をいただき、こちらは紛れもなく和の構えである。
この建物はかみのやま温泉の旅館や共同浴場が集まる一画に建つため、温泉街をゆっくり歩きながら眺めるのがよい。なお、建物は私有であり、内部は一般の見学を前提としていない。外観を公道から鑑賞することを基本とし、宿泊や内部の見学を考える場合は、事前に施設へ直接確認することをすすめたい。
かみのやま温泉とその周辺
かみのやま温泉は、古くから湯治の地として知られてきた。開湯は15世紀にさかのぼると伝わり、江戸時代には上山藩の城下町として、また羽州街道の宿場町として、二重の賑わいを見せた。その面影は今も残る。歩いてすぐの場所には再建された上山城の天守があり、蔵王連峰を望むことができる。温泉街には共同浴場や足湯が点在し、日帰り入浴を受け入れる旅館も多い。
近年は「歩く温泉地」としての性格も強い。上山には、ドイツの「クアオルト」の考え方にもとづく健康ウォーキングコースが整えられ、町を見下ろす丘陵の果樹園やぶどう畑をめぐる。地元のワイナリーも見ごたえがあり、駅前の観光案内所ではかみのやまワインの試飲もできる。
Q&A
- 旅館よね本に宿泊できますか。
- 建物は私有で、旅館としての営業状況は変わりうる。訪れる前に、施設またはかみのやま温泉の観光案内所へ、現在の営業や予約について確認してほしい。文化財としての登録は歴史的な建物そのものを対象としたもので、宿泊サービスを保証するものではない。
- 「登録有形文化財」とは何ですか。
- 平成8年(1996年)に始まった登録制度により、国の登録原簿に記載された建造物などを指す。「指定」より緩やかな保護で、比較的新しい建物を対象とし、使い続けながら守ることを目的としている。
- 建物はいつ建てられましたか。
- 昭和14年(1939年)の建築である。登録有形文化財となったのは平成23年(2011年)10月28日である。
- 建築のどこが珍しいのですか。
- 和洋を取り合わせた正面の意匠である。隅切りとドリス式風の柱形、2階の丸窓は西洋古典に由来し、入母屋造の玄関は和の構えを保つ。モルタルの外壁には柱形が表されている。
- かみのやま温泉へのアクセスは。
- JR奥羽本線のかみのやま温泉駅が最寄り。車では東北中央自動車道のかみのやま温泉IC、または山形上山ICからおよそ10分、山形空港からはおよそ45分である。
基本情報
| 名称 | 旅館よね本旅館棟(りょかんよねもとりょかんとう) |
|---|---|
| 所在地 | 山形県上山市沢丁421 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 06-0128 |
| 登録年月日 | 平成23年(2011年)10月28日 |
| 員数 | 1棟 |
| 時代・年代 | 昭和前期 昭和14年(1939年) |
| 構造及び形式等 | 木造2階建、寄棟造鉄板葺 |
| 建築面積 | 約178平方メートル |
| 所有者・管理 | 旅館よね本 |
| 公開状況 | 私有。外観は公道から鑑賞可。訪問前に営業状況の確認を推奨。 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008810
- かみのやま温泉|やまがたへの旅(山形県公式観光・旅行情報サイト)
- https://yamagatakanko.com/attractions/detail_12299.html
- 上山温泉(ウィキペディア)
- https://ja.wikipedia.org/wiki/上山温泉
最終更新日: 2026.06.18