米倉庫から図書館へ — 秋田市立新屋図書館倉庫棟の物語

秋田市の西部、雄物川のほとりに広がる新屋地区。かつて酒田街道の宿場町として栄え、湧水を活かした酒造業で知られたこの地域に、三角屋根の大型木造倉庫が8棟整然と並ぶ姿があります。1934年(昭和9年)に建設されたこれらの倉庫群は、秋田県の年間米消費量の約3割を保管できるほどの規模を誇り、半世紀以上にわたって国の米需給を支えてきました。

その最南端に位置する1棟が、現在の秋田市立新屋図書館倉庫棟です。2000年(平成12年)9月に国の登録有形文化財に登録されたこの建物は、昭和初期の大型木造建築の到達点を今に伝えるとともに、産業遺産を文化施設として再生させた先進的な取り組みの象徴でもあります。

歴史的背景 — 農業倉庫から文化財へ

倉庫群を建設したのは、旧秋田県販売購買組合連合会(現在のJA全農あきたの前身)です。各棟は桁行約45メートル、梁間約14.3メートル、天井最高部約8.5メートルという堂々たる規模の木造平屋建てで、日本有数の米どころ・秋田の農業力を象徴する施設でした。

1939年(昭和14年)に国へ寄付され「国立新屋倉庫」となり、以後1990年(平成2年)3月の用途廃止まで、米の需給調整倉庫として使用されました。JR羽越本線の新屋駅から専用の引込線が倉庫まで敷設されており、鉄道による米の輸送拠点としても重要な役割を果たしていました。

用途廃止後、地元の新屋地区からは倉庫群の保存・活用を求める声が多く上がりました。1992年(平成4年)には秋田県の近代化遺産として認定。秋田市は周辺一帯を「ふるさと文化創造エリア」に指定し、8棟のうち7棟を秋田公立美術工芸短期大学(現・秋田公立美術大学)の施設として、最南端の1棟を新屋図書館の倉庫棟として改修・活用する計画が進められました。1998年(平成10年)に新・新屋図書館が開館し、倉庫棟は渡り廊下で本館と結ばれ、図書館の一部として新たな歴史を歩み始めたのです。

登録有形文化財としての価値

秋田市立新屋図書館倉庫棟が登録有形文化財に選ばれた理由は、大きく二つあります。

第一に、昭和初期における大型木造倉庫建築の優れた到達点を示すことです。建設から約90年を経てなお保存状態が良好であり、当時の建築技術の水準の高さを実証しています。

第二に、その独創的な和洋折衷の小屋組構造です。中央の2列の柱の間は方杖(ほうづえ)で補強した伝統的な和小屋(わごや)とし、両脇には西洋式の半裁三角ハウトラスを採用しています。この和洋を融合させた複合構造により、14メートルを超える梁間を中間壁なしで実現しており、長大なスパンに対応した独創的な形式として高く評価されています。

さらに、他の7棟とともに8棟揃って保存・活用されていることも重要なポイントです。昭和前期の大型木造倉庫が軒を連ねた壮観な景観がそのまま残されており、日本の近代産業遺産の保存再生における模範的な事例とされています。

魅力と見どころ

圧巻の木造架構空間

倉庫棟の内部に足を踏み入れると、高さ約8メートルに達する細い白木の柱が2列に並ぶ壮大な空間が広がります。中央の通路を歩きながら見上げると、和洋折衷の小屋組の精緻な構造がそのまま露出しており、まるで木造建築の大聖堂のような荘厳さを感じることができます。図書館として本棚が並ぶ空間でありながら、築約90年の木造架構の美しさを間近に堪能できる、類まれな読書空間です。

酒の資料コーナー

新屋地区は古くから湧水を活かした酒造業が盛んで、銘酒「新政」をはじめとする地酒の産地として知られてきました。この歴史を受け、倉庫棟内には「酒の資料コーナー」が設けられ、約580冊の日本酒に関する専門書籍・資料が所蔵されています。醸造技術から地域の酒文化の歴史まで、幅広いテーマの蔵書を閲覧できる、全国でも珍しい特色ある図書館コーナーです。

8棟が並ぶ倉庫群の景観

秋田公立美術大学のキャンパスを散策すれば、三角屋根の木造倉庫が8棟横一列に並ぶ壮観な景色を楽しむことができます。かつて倉庫に米を運んだ鉄道引込線の跡地は、新屋駅からキャンパスへと続く遊歩道として整備されており、「記憶のストリート」とも呼ばれる散策路を歩きながら、地域の歴史に思いを馳せることができます。

BELCA賞受賞の改修デザイン

倉庫群の改修設計を手がけたのは松田平田設計です。このプロジェクトは2002年に第11回BELCA賞ベストリフォーム部門を受賞しました。「古きよきモノ」としての木造倉庫群と、「新しきよきモノ」としての大学研究棟を対峙させるデザインコンセプトにより、過去と現在が共生する独自の文化空間が実現されています。

周辺情報

秋田公立美術大学

東北地方唯一の公立美術大学で、図書館倉庫棟と同じキャンパス内に位置しています。モダンなアトリウム棟やシンボルタワーと歴史的な倉庫群の対比が印象的です。公開展覧会やイベントも随時開催されています。

アトリエももさだ

8棟の倉庫群のうち3棟は「アトリエももさだ」として市民に開放されています。名称の由来は、新屋地区の旧地名「百三段(ももさだ)」で、アイヌ語の「モムサンドイ(川尻の土地)」が語源とも言われています。木工・陶芸・ガラス工芸などの体験工房、ギャラリー、地域交流棟があり、レストコーナー「蔵詩(くらし)」ではカフェメニューも楽しめます。

秋田市新屋ガラス工房

2017年にオープンしたガラス工芸の拠点施設です。吹きガラスの制作体験(要予約、3,300円)のほか、県内外のガラス作家の作品展示・販売、オリジナルグラスで飲み物を楽しめるショップ&カフェが併設されています。図書館から徒歩圏内にあり、あわせて訪れるのがおすすめです。

新屋の酒造文化

新屋地区は現在も酒造りの伝統が息づく街です。雄物川の伏流水を活かした地酒は秋田を代表する銘品として知られており、周辺の歴史的な町並みとともに、秋田の酒文化に触れることができます。

Q&A

Q倉庫棟の内部は見学できますか?
Aはい。倉庫棟は新屋図書館の一部として一般公開されていますので、図書館の開館時間内であればどなたでも入館でき、内部の木造架構を間近にご覧いただけます。酒の資料コーナーの閲覧も自由です。
Qアクセス方法を教えてください。
AJR秋田駅から秋田中央交通バス「新屋線」に乗車し、「美術大学前」バス停で下車、徒歩約3分です。車の場合は秋田駅から約20~25分です。JR羽越本線の新屋駅からは、旧引込線跡の遊歩道を通って徒歩でアクセスすることもできます。
Q入場料はかかりますか?
Aいいえ。新屋図書館は無料の公共図書館ですので、入場料は不要です。隣接するアトリエももさだも入場無料ですが、体験工房の参加には材料費等がかかる場合があります。
Qおすすめの訪問時期はありますか?
A倉庫棟の内部は屋内施設ですので通年楽しめます。ただし、キャンパスの散策や8棟の倉庫群の外観を楽しむなら、春(4月下旬~5月)や秋(10月~11月)が特に気持ちのよい季節です。大学やアトリエももさだの季節イベントにあわせて訪れるのもおすすめです。
Q駐車場はありますか?
A秋田公立美術大学および新屋図書館には来訪者用の駐車場があります。お車でのアクセスも便利です。

基本情報

名称 秋田市立新屋図書館倉庫棟(あきたしりつあらやとしょかんそうことう)
文化財区分 登録有形文化財(建造物)/2000年(平成12年)9月26日登録
建設年 1934年(昭和9年)
構造 木造平屋建、鉄板葺、建築面積約660㎡
旧用途 米需給倉庫(国立新屋倉庫)
現用途 新屋図書館倉庫棟(公共図書館)
改修設計 松田平田設計
図書館開館 1998年(平成10年)
所在地 〒010-1632 秋田県秋田市新屋大川町12-26
電話 018-828-4215
所有者 秋田市
アクセス JR秋田駅から車で約25分/秋田中央交通バス「美術大学前」下車徒歩約3分

参考文献

秋田市立新屋図書館倉庫棟 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/139101
秋田市立図書館 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/秋田市立図書館
アトリエももさだ — 秋田公立美術大学
https://www.akibi.ac.jp/ateliermomosada
第11回BELCA賞 秋田公立美術工芸短期大学・秋田市立新屋図書館
http://www.belca.or.jp/akita.htm
秋田市立新屋図書館 — 松田平田設計
https://www.mhs.co.jp/work/akita_araya_library/
新屋図書館 — 秋田市公式サイト
https://www.city.akita.lg.jp/kurashi/shakai-shogai/1008469/1008848/index.html
国指定文化財等データベース
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00001649

最終更新日: 2026.03.02