蔵を事務所に変えて使う
斎彌酒造店事務所は、秋田県由利本荘市石脇にある昭和初期(1926年以降)の土蔵造平屋建の建物で、平成10年(1998年)に登録有形文化財となった。
建築面積は68平方メートル。屋根は鉄板葺で、瓦葺で統一された敷地内の蔵群のなかで、これだけが金属の屋根をもつ。位置は店舗・住宅の西北方、漬物蔵の北にあたる。
もともとは物を納めるための蔵として建てられ、後に内部を改修して事務所に転用された。文化庁の記録はこの蔵がもと道具蔵であったと記し、由利本荘市の資料は精米所であったとする。用途の記録が資料によって分かれているが、蔵として建てられたものが事務所になったという経緯は共通している。厚い土壁と小さな開口をもつ建物を、机と帳簿の置かれる部屋に作り替えたわけである。
創業者の名を冠した会社の中枢
斎彌酒造店事務所が登録有形文化財となったのは平成10年(1998年)9月2日、登録番号は05-0020である。登録の基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」だった。
社名の「斎彌」は、明治35年(1902年)10月にこの地で酒造業を起こした初代、齋藤彌太郎の名に由来する。彌太郎は本荘町長を務め、私財で旧本荘城跡を買い取って町へ寄付したことでも知られる。事業家であると同時に地域の公職を担った人物で、その名を掲げた会社の事務をとる場所が、この建物だった。
敷地内の他の10棟が、米・酒・壜・漬物・書類といった物を納めるための建物であるのに対し、斎彌酒造店事務所だけが人の仕事のための空間である。11棟を通して見ると、酒造業という商いが原料の保管から出荷、そして経営の管理まで、どれだけの種類の場所を必要としたかがわかる。
鉄板葺の屋根に注目する
屋根を見比べてほしい。住宅・店舗も、米蔵も、西蔵も中蔵も瓦を葺いている。門だけが銅板で、斎彌酒造店事務所だけが鉄板である。
昭和初期は、地方でも安価な波形鉄板が流通しはじめた時期にあたる。蔵を事務所へ改める工事のなかで、瓦より軽く扱いやすい材が選ばれた可能性は高い。素材の選択には、その建物がどの時期にどんな考えで手を入れられたかが残る。
また、この建物は敷地の斜面のなかほどに位置している。斎彌酒造店事務所の北には釜場が並び、そのさらに北に西蔵が続く。敷地は新山の麓の傾斜地で、高低差はおよそ6メートル。上の精米所から下へ向かって工程が進む配置のなかで、事務所は現場と道路のあいだに置かれている。
見学方法とアクセス
斎彌酒造店事務所は今も株式会社斎彌酒造店が日々の業務に使っている建物で、内部を見学することはできない。同社の酒蔵見学も休止しており、見られるのは道路からの外観にかぎられる。敷地は私有地であるうえ、就業中の場所でもある。用件がないかぎり、業務の妨げにならないよう距離をとりたい。
向かいの「発酵小路 田屋」は同社の運営で、午前10時から午後5時まで、木曜と日曜が定休。ギャラリーでは酒蔵の映像を申し込み制で公開している。斎彌酒造店事務所の外観を確かめてから、通りを渡って立ち寄る流れがよい。
行き方は、JR羽越本線の羽後本荘駅から子吉川を渡り、北へ約1.5キロ。徒歩20分ほどである。市の循環バスは桶屋町停留所が最寄り。電話0184-22-0536が問い合わせ先になる。
よくある質問
- 斎彌酒造店事務所はもともと何の建物でしたか。
- 物を納めるための土蔵で、後に内部を改修して事務所に転用されました。もとの用途は資料によって記述が分かれ、文化庁は道具蔵、由利本荘市は精米所としています。
- 斎彌酒造店事務所の屋根はなぜ他の蔵と違うのですか。
- 鉄板葺だからです。敷地内の蔵は瓦葺、門は銅板葺で、鉄板を用いているのはこの建物だけです。昭和初期の改修時期を反映した材の選択と考えられます。
- 社名の「斎彌」は何に由来しますか。
- 明治35年(1902年)に創業した初代、齋藤彌太郎の名に由来します。彌太郎は本荘町長を務め、旧本荘城跡を買い取って町に寄付した人物としても記録されています。
- 斎彌酒造店事務所は見学できますか。
- 現在も業務に使われているため内部の見学はできません。酒蔵見学も休止中で、見学は道路からの外観のみとなります。
- 斎彌酒造店事務所は敷地のどこにありますか。
- 店舗・住宅の西北方、漬物蔵の北です。北側には釜場が並び、さらに北へ西蔵が続きます。高低差およそ6メートルの傾斜地の中ほどにあたります。
基本データ
| 名称 | 斎彌酒造店事務所 |
|---|---|
| 所在地 | 秋田県由利本荘市石脇字石脇53 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 1998年(平成10年) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 土蔵造平屋建、鉄板葺、建築面積68平方メートル |
| 所有者 | 株式会社斎彌酒造店 |
| 公開状況 | 外観のみ道路から見学可、内部非公開 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「斎彌酒造店事務所」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000614
- 由利本荘市「齋彌酒造店(さいやしゅぞうてん)」
- https://www.city.yurihonjo.lg.jp/1001503/1002098/1002113/1002126/1003557.html
- 由利本荘市教育委員会「(資料)齋彌酒造店」
- https://www.city.yurihonjo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/003/557/1003557_002.pdf
- 株式会社齋彌酒造店「齋彌酒造店について」
- https://www.yukinobosha.jp/aboutus/
- 発酵小路 田屋(株式会社齋彌酒造店運営)
- https://hakkokoji-taya.jp/
最終更新日: 2026.09.08