街道に向けられた酒蔵の顔
斎彌酒造店住宅・店舗は、秋田県由利本荘市石脇にある明治35年(1902年)頃の木造2階建の建物で、平成10年(1998年)に登録有形文化財となった。
道路に面した店舗部分は、通りへ庇を大きく差し出す。この構えだけを見れば、各地に残る大規模な町家と変わらない。視線を上げると印象が変わる。2階に洋風の意匠が取り入れられており、和風の骨格をたもったまま外来の装飾を部分的に受け入れた、明治後期の地方都市らしい折衷がそこに現れている。
店舗の東側には、庭を囲むように住宅が続く。こちらの外観は和風で通されていて、通りに向けた店舗の顔つきとは性格が異なる。商いの場と暮らしの場で意匠を使い分けた対照は、道路側から眺めるだけでも読み取れる。建築面積は366平方メートル。屋根は瓦葺で、一部に銅板を葺く。
創業は明治35年(1902年)10月。初代の齋藤彌太郎が、湧水に恵まれた石脇で酒造業を起こした。社名の「斎彌」は創業者の名に由来する。彌太郎は本荘町長を務め、私財で旧本荘城跡を買い取って町に寄付した人物としても市の記録に残る。現在の社名は「齋彌酒造店」と旧字体で表記される。
11棟のなかでの位置づけ
斎彌酒造店住宅・店舗が登録有形文化財として登録されたのは平成10年(1998年)9月2日、登録番号は05-0016である。同じ敷地の蔵・事務所・門など、あわせて11棟が同じ日付で登録された。
登録の基準に挙げられているのは「再現することが容易でないもの」で、これは敷地内では住宅・店舗と文庫蔵の2棟にだけ適用されている。他の9棟は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」による登録で、基準の違いがそのまま建物の性格の違いを示している。
石脇地区は、藩政時代に子吉川の水運で栄えた亀田藩の湊町だった。明治30年代から40年代にかけて工場の立地が進み、新山の麓から湧く水をたよりに醸造業が集まる。大正13年(1924年)の『本荘町業名録』によれば、市内の醸造業の半数にあたる5軒が一本の道沿いに並んでいた。斎彌酒造店住宅・店舗は、その醸造街の姿を通りの側から今に残す一棟にあたる。
店構えを読む
まず庇の出を見てほしい。通りへ張り出した深い庇は雪国の商家に共通する形だが、その入口には唐破風状の曲線がつく。門の武家屋敷風の意匠とは対照的な、客を迎える側の顔である。
2階へ目を移すと、窓まわりの処理が1階と異なることに気づく。洋風の意匠といっても、外壁全体を洋風に仕立てたものではない。木造の町家の枠組みのなかに部分的に持ち込まれているため、和と洋の境目が一棟のうちで見える。
東に回り込むと住宅部分になる。庭を囲う配置で、通りからは全体像が見えにくい。斎彌酒造店住宅・店舗が単なる商店ではなく、一族の住まいを併せ持つ屋敷であったことは、この奥行きから察せられる。
見学方法とアクセス
斎彌酒造店住宅・店舗は現役の酒造会社の建物で、内部は公開されていない。株式会社斎彌酒造店の酒蔵見学も休止しているため、見られるのは道路からの外観だけである。敷地は私有地にあたり、立ち入りや敷地内での撮影には会社の許可がいる。道路上からの外観撮影に制限はない。
通りをはさんだ向かいには、同社が営む「発酵小路 田屋」がある。午前10時から午後5時までの営業で、木曜と日曜が定休。併設のギャラリー「雪の茅舎club」では、申し込みのうえで酒蔵の映像を見られる。斎彌酒造店住宅・店舗の正面を眺めてから通りを渡る、という順で組み立てやすい。
最寄り駅はJR羽越本線の羽後本荘駅で、子吉川を渡って北へ約1.5キロ、徒歩20分ほど。市の循環バスなら桶屋町停留所が近く、そこから数分歩く。営業時間や見学の扱いは変わりうるので、訪ねる前に株式会社斎彌酒造店(電話0184-22-0536)へ確認しておくと確実である。
よくある質問
- 斎彌酒造店住宅・店舗の内部は見学できますか。
- 内部は公開されていません。株式会社斎彌酒造店の酒蔵見学も現在は休止中で、見学できるのは道路からの外観のみです。向かいの「発酵小路 田屋」のギャラリーで、酒蔵の映像を見ることができます(要申し込み)。
- 斎彌酒造店住宅・店舗はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
- 建築は明治35年(1902年)頃、創業と同時期です。登録有形文化財としての登録は平成10年(1998年)9月2日で、登録番号は05-0016です。
- 斎彌酒造店住宅・店舗の見どころはどこですか。
- 通りへ差し出した深い庇と、入口の唐破風状の曲線、そして2階に取り入れられた洋風の意匠です。東側に続く住宅部分は和風で通されており、店舗との対照が見どころになります。
- 斎彌酒造店住宅・店舗へは羽後本荘駅からどう行きますか。
- JR羽越本線の羽後本荘駅から子吉川を渡って北へおよそ1.5キロ、徒歩20分ほどです。市の循環バスなら桶屋町停留所が最寄りで、そこから徒歩数分になります。
- 斎彌酒造店住宅・店舗のほかに登録されている建物はありますか。
- 同じ敷地で、ギャラリー(旧米蔵)・漬物蔵・壜蔵・事務所・釜場・西蔵・中蔵・東蔵・文庫蔵・門を合わせた計11棟が、平成10年(1998年)に登録されています。
基本データ
| 名称 | 斎彌酒造店住宅・店舗 |
|---|---|
| 所在地 | 秋田県由利本荘市石脇字石脇53 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 1998年(平成10年) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、建築面積366平方メートル |
| 所有者 | 株式会社斎彌酒造店 |
| 公開状況 | 外観のみ道路から見学可、内部非公開 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「斎彌酒造店住宅・店舗」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000610
- 由利本荘市「齋彌酒造店(さいやしゅぞうてん)」
- https://www.city.yurihonjo.lg.jp/1001503/1002098/1002113/1002126/1003557.html
- 由利本荘市教育委員会「(資料)齋彌酒造店」
- https://www.city.yurihonjo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/003/557/1003557_002.pdf
- 株式会社齋彌酒造店「齋彌酒造店について」
- https://www.yukinobosha.jp/aboutus/
- 発酵小路 田屋(株式会社齋彌酒造店運営)
- https://hakkokoji-taya.jp/
最終更新日: 2026.09.08