五つの石が示す五大
石手寺五輪塔は、愛媛県松山市の石手寺が所有する鎌倉時代後期の石造五輪塔で、昭和27年(1952年)11月22日に国の重要文化財に指定された。花崗岩製で、総高は273センチ余りある。
五輪塔は木造の層塔とは別の系譜に属する。方形の地輪、球形の水輪、笠形の火輪、半月形の風輪、宝珠形の空輪を積み上げ、仏教でいう五大を象った石塔である。下から順に見上げていけば、石手寺五輪塔そのものが五大の図解になっている。
松山市の解説は、五輪の均勢がとれ、損傷が見られないと記す。屋外に露出したまま七百年を経た花崗岩の石塔としては、これは珍しいことである。火輪の隅が欠けたり、水輪の球が痩せて歪んだりしていない。
銘が無いまま年代が決まる
この石塔には年紀銘がない。文化庁の国指定文化財等データベースも銘を欠くことを記録しており、鎌倉時代という年代は形式と手法だけを根拠にしている。水輪の張り、火輪の勾配、各輪の繰形の深さ。判断材料はそうした造形の内側にしかない。そのうえで石手寺五輪塔は、この形式の代表的優品と位置づけられている。
五輪塔は宝篋印塔とともに、日本の石塔の主流をなす形式である。宗派をこえて造立されたため各地に数多く残り、その多くは造立者を特定できない。石手寺五輪塔も同じで、誰が何のために建てたのかを示す文字資料は見つかっていない。
材の選択にも触れておきたい。花崗岩は硬く、彫るには手間がかかるが、そのぶん風化に強い。松山市が損傷なしと記録できるのは、鎌倉時代の石工がこの石を選んだ結果でもある。凝灰岩の塔であれば、同じ年月を屋外で過ごした後にこの状態は望めない。
国のデータベースは、この石塔を寺院建築ではなく「近世以前/その他」に分類している。建物ではない指定物件のための区分である。指定番号は01189。石手寺五輪塔が重要文化財に指定されたのは昭和27年(1952年)11月22日である。
門前から裏山へ、動いた石塔
平成7年(1995年)まで、この石塔は石手寺の門前に立っていた。江戸時代の『石手寺往古図』にもその位置が描かれており、参道を歩く遍路は必ずその前を通ったことになる。現在は寺の裏山寄りに移されている。
移設は記録にも跡を残した。文化庁のデータベースは所在地を松山市石手二丁目とし、松山市は常光寺町とする。どちらも現行の記載であり、移設の前後を写しているとみるのが自然である。したがって石手寺五輪塔を探すときは、門前を見ても見つからない。位置と経路は寺務所で尋ねるのが確実である。
近づいて見るなら、輪と輪の継ぎ目に注目したい。五つの輪はそれぞれ一つの石から彫り出されており、水平の線はこの継ぎ目にしかない。午後の低い光のとき、水輪の球面が地輪の上に弧を描いた影を落とす。二つの石がどれほど正確に合わせてあるかは、その影がいちばんよく示してくれる。
拝観と行き方
石手寺の境内は午前8時から午後5時まで、年間を通じて無休で開いており、拝観料はかからない。ただし石手寺五輪塔は本堂前の広場から離れた場所にあるため、時間には余裕をみておきたい。経路は寺務所で確認できる。
撮影については、寺・松山市・愛媛県のいずれも境内での一律の制限を公表していない。宝物館のみ別料金で、大人200円、中学生・高校生150円、小学生100円である。
石手寺へは道後温泉の電停から東へ徒歩約15分。松山市駅からのバスは石手寺停留所で降りる。駐車場は普通車およそ40台から50台分、平日は1時間210円から。ここに記した見学情報は2026年9月3日に確認した。石手寺の電話は089-977-0870である。
Q&A
- 石手寺五輪塔とはどのような文化財ですか。
- 花崗岩を五つに彫り分けて積み上げた石造五輪塔です。地輪・水輪・火輪・風輪・空輪が仏教の五大を表します。総高は273センチ余りで、木造の層塔とは別の系譜の石塔です。
- 石手寺五輪塔はいつ造られ、いつ指定されましたか。
- 年紀銘を欠くため、国指定文化財等データベースは形式と手法から鎌倉時代のものと認めています。重要文化財の指定は昭和27年(1952年)11月22日です。
- 石手寺五輪塔は境内のどこにありますか。
- 平成7年(1995年)までは門前に立っていましたが、現在は裏山寄りに移されています。国と市で記録されている所在地が異なるため、位置は寺務所で確認してください。
- 石手寺五輪塔の見学に拝観料は必要ですか。
- 必要ありません。境内は午前8時から午後5時まで無休・無料で開いています。宝物館のみ別料金で、大人200円です。
- 石手寺五輪塔へのアクセス方法を教えてください。
- 道後温泉の電停から東へ徒歩約15分です。松山市駅からバスに乗り石手寺停留所で降りることもできます。駐車場は普通車40台から50台分で、平日は1時間210円からです。
基本情報
| 名称 | 石手寺五輪塔(いしてじごりんとう) |
|---|---|
| 所在地 | 文化庁データベースでは愛媛県松山市石手二丁目、松山市の記載では松山市常光寺町(移設後) |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物) |
| 指定年 | 昭和27年(1952年)11月22日 |
| 員数 | 1基 |
| 寸法 | 総高273センチ余り、花崗岩製の石造五輪塔 |
| 所有者 | 石手寺 |
| 公開状況 | 境内は午前8時から午後5時まで無休で公開、拝観無料。塔は本堂前から離れた位置にあるため経路は寺務所で確認 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「石手寺五輪塔」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/3314
- 松山市「石手寺五輪塔 1基」
- https://www.city.matsuyama.ehime.jp/kanko/kankoguide/rekishibunka/bunkazai/kuni/isiteji_gorintou.html
- 愛媛県公式観光サイト いよ観ネット「熊野山 石手寺」
- https://www.iyokannet.jp/spot/875
最終更新日: 2026.09.03