住宅の中に設けられた検潮施設

宮内家住宅潮見堀は、愛媛県伊予市灘町の宮内家住宅内にある江戸後期の石造工作物で、平成30年(2018年)5月10日に登録有形文化財に登録された。台形の平面をもつ深さ約1.5メートルの堀で、面積は8.7平方メートル。文化庁の国指定文化財等データベースは建造年代を江戸後期、1751年から1830年の間としている。

名称のとおり、これは潮を見るための堀である。海とつながる水を敷地内に引き込み、堀の中の水位がどう上下するかを見て、港の干満を知った。船の出入りを左右する潮の状態を、屋敷から出ずに把握できる仕掛けだった。

宮内家は寛永13年(1636年)に上灘村から移り、この浜に灘町を開いて町年寄を務めた商家である。酒造と大洲和紙の取引を営み、船の動きが商いに直結していた。宮内家住宅潮見堀は、その暮らしと港の関係を形に残した施設といえる。

「再現することが容易でないもの」

宮内家住宅潮見堀の登録基準は「再現することが容易でないもの」である。同じ日に登録された主屋と古隠居は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、隠居所は「造形の規範となっているもの」で、この基準が適用されたのは4件のうち宮内家住宅潮見堀だけである。

理由は用途にある。住宅の敷地に検潮のための施設を備えた例はきわめて少ない。港の潮位を測る仕組みは近代以降には検潮所として整備されるが、江戸後期の商家がそれを私的に持っていた形は、他に類を見ない。愛媛県教育委員会も類例の稀な住宅内の検潮施設と説明する。

員数の表記も他の3件と異なる。主屋・隠居所・古隠居が「1棟」であるのに対し、宮内家住宅潮見堀は「1基」。建築物ではなく工作物として登録されているためである。

石積みと構造

宮内家住宅潮見堀は敷地の港側、古隠居の西方にある。平面は台形で、堀の西側に出入りのための石段が付く。水面まで降りて水位を確かめるための段である。

石積みには緑泥片岩が使われている。扁平で丸みを帯びた石を平らに積み上げ、そのあいだに大振りの石を適宜差し込んで積み方に変化をつけている。緑泥片岩は伊予地方でよく採れる薄く割れる石で、平積みに向く。潮の出入りで常に濡れる場所であるため、石の選び方が構造の寿命に直結した。

伊予市の観光案内は、この石積みが五色浜の「さざえ堀」と同じ手法だとしている。さざえ堀は文化9年(1812年)に萬安港が築かれた際、螺旋階段のように石を積んで造られた井戸である。宮内家住宅潮見堀の石積みは、港の普請にたずさわった石工の技術と地続きのものと考えられる。

見学の可否とアクセス

宮内家住宅潮見堀は公開されていない。宮内家の敷地では現在も生活が営まれており、立ち入りは通りに面した主屋までに限られる。敷地の奥、港側にある宮内家住宅潮見堀まで進むことはできず、路上から堀を見下ろすこともできない。

主屋は改修を経て、まちの縁側「ミュゼ灘屋」として事前予約制で貸し出されている。利用時間は午前8時から午後11時までの三区分。問い合わせは専用電話080-2981-6281で、宮内家住宅潮見堀を含む敷地奥の状況を尋ねる場合もこの窓口になる。

撮影については、非公開のため対象外である。所有者の生活の場であることに配慮したい。

灘町へはJR予讃線の伊予市駅、伊予鉄道郡中線の郡中港駅からいずれも徒歩約3分。同じ石積みの手法とされるさざえ堀は五色浜にあり、こちらは自由に見られる。駐車場は主屋裏の専用駐車場と栄養寺の駐車場を合わせて15台分が無料である。

Q&A

Q宮内家住宅潮見堀は見学できますか。
Aできません。宮内家の敷地は現在も居住されており、立ち入りは通りに面した主屋までに限られます。宮内家住宅潮見堀は敷地の港側にあり、路上から見ることもできません。
Q宮内家住宅潮見堀は何のための施設ですか。
A港の潮の干満を知るための施設です。堀の中の水位の変化を見ることで、屋敷にいながら潮の状態を確かめました。住宅内に設けられた検潮施設としては類例が稀とされています。
Q宮内家住宅潮見堀の大きさと構造を教えてください。
A石造で、面積は8.7平方メートル、深さは約1.5メートルです。台形の平面をもち、西側に出入用の石段が付きます。扁平で丸みのある緑泥片岩を平積みし、大振りの石を差し込んでいます。
Q宮内家住宅潮見堀はいつ造られたのですか。
A江戸後期、1751年から1830年の間とされています。平成30年(2018年)5月10日に、同じ敷地の主屋・隠居所・古隠居とともに登録有形文化財となりました。
Q宮内家住宅潮見堀のある灘町へはどう行けばよいですか。
AJR予讃線の伊予市駅、または伊予鉄道郡中線の郡中港駅から徒歩約3分です。旧大洲街道沿いの町並みと主屋の外観は自由に見学できます。

基本情報

名称宮内家住宅潮見堀(みやうちけじゅうたくしおみぼり)
所在地愛媛県伊予市灘町123-1
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号38-125
指定年平成30年(2018年)5月10日登録
員数1基
寸法石造、面積8.7平方メートル、深さ約1.5メートル
所有者個人
公開状況非公開。居住中のため敷地内の主屋以外は立入不可、外観の見学も不可

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「宮内家住宅潮見堀」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00012454
文化遺産オンライン「宮内家住宅潮見堀」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/566558
愛媛県 えひめの文化財(たから)「宮内家住宅主屋ほか3件」
https://www.pref.ehime.jp/ehimenotakara/702.html
伊予市「五色浜」(萬安港とさざえ堀)
https://www.city.iyo.lg.jp/machizukuri/kanko/guidemap/goshiki.html
伊予市観光公式Webサイト「まちの縁側『ミュゼ灘屋』(旧宮内邸)」
https://iyokankou.jp/spot/spot-438/

最終更新日: 2026.09.05