築地塀の内側に立つ7棟
豊島家住宅は、愛媛県松山市井門421番地の1にある大型民家で、宝暦8年(1758年)建築の主屋ほか7棟が昭和45年(1970年)6月17日に国の重要文化財に指定された。文化庁の国指定文化財等データベースでは指定番号01776、種別は近世以前の民家として登載され、同じ姓の住宅と区別するため「豊島家住宅(愛媛県松山市井門)」の名称で扱われている。読みは「としまけじゅうたく」である。
敷地は東西約60メートル、南北約50メートルのほぼ長方形。周囲には築地塀が回り、その外側の一部に矩折りの堀が設けられている。松山市は敷地面積を約3,137平方メートル、建物の延面積を975平方メートルとしている。
豊島家は代々の大庄屋、あるいは大庄屋格の家柄であった。規模の理由はそこにある。農村にあるこれだけの家は単なる住まいではなく、年貢米を計る場であり、藩の用向きを処理する場であり、巡ってくる役人を泊める場でもあった。
「井門の八棟造」と呼ばれる屋根
この土地で古くから八棟造と呼ばれてきた屋根の形が、豊島家住宅を建築の世界の外にまで知らせてきた。主屋は直屋に角屋を組み合わせた構成で、そのため棟の線が逆Z字型に折れる。それぞれの棟に入母屋造の屋根が架かるので、どの方向から見ても複数の妻が重なり、歩くにつれて数えられる棟の数が変わる。
上屋は茅葺である。その下に回る庇はすべて本瓦葺。厚い茅と重い灰色の瓦という取り合わせは、この家で最もよく写真に撮られる部分であると同時に、理にもかなっている。急勾配の上屋は茅が水をよく落とし、風圧を受けやすい緩勾配の下屋には瓦が据わる。
3つの部分、3組の寸法
文化庁は主屋を3つの部分に分け、それぞれに寸法を与えている。居室部は桁行24.6メートル、梁間11.8メートルで四面に庇が付く。居室部と座敷部をつなぐ居室座敷取合部は桁行4.9メートル、梁間8.9メートル。座敷部は桁行12.9メートル、梁間6.9メートルで、便所が附属する。
内部では、居室部の東半分が土間、西半分が床を張った6室で、居間・奥・台所などにあてられる。取合部は東西に2室を設け、東面が縁構えの上り口になる。
座敷部は様子が違う。3室それぞれに床・棚・書院造の付書院を備え、矩折りの広縁が外を回る。松山市は、この部分が幕府の巡見使などの接待に用いられたと記す。欄間や建具の意匠にも、家の働く側の半分にはない洗練が見える。
およそ160年の幅を1件に収めた指定
豊島家住宅の7棟は同時に建ったものではない。最も古い建物と最も新しい建物の隔たりが、この一群のいちばん意外なところである。
- 主屋 宝暦8年(1758年)。上屋は茅葺、庇は本瓦葺。3つの部分が連なる。
- 表門 18世紀中期頃、文化庁の年代表記では1701年から1800年の範囲。棟門で本瓦葺。
- 長屋門 江戸末期、1830年から1867年。桁行11.0メートル、梁間2.5メートル、切妻造、本瓦葺。
- 長屋 江戸後期、1751年から1829年。桁行8.3メートル、梁間4.2メートル、西面に庇が付く。
- 中倉 江戸末期、1830年から1867年。土蔵造で桁行5.9メートル、梁間5.0メートル。東端が衣装倉に接続する。
- 衣装倉 明治、1868年から1911年。二階建で桁行4.1メートル、梁間4.6メートル。東端が米倉に接続する。
- 米倉 大正6年(1917年)。二階建で桁行9.6メートル、梁間7.1メートル。3棟の倉で最も大きい。
江戸期の民家の重要文化財指定のなかに大正の倉が入っているのは、立ち止まって考えるだけの意味がある。大正6年(1917年)の米倉は成り行きで紛れ込んだのではない。この指定は屋敷を、増築を重ねながら使われてきた一個の経営体として扱っている。中倉から衣装倉、衣装倉から米倉へと端で接続する3棟は、3つの別々の建物というより、継ぎ足されて育った一つの塊として読める。
目立たないのは長屋である。もとは馬屋だった。豊島家は藩の馬を預かる役を負っており、その建物が後に居室へ改造された。
指定の理由と、行われた修理
文化庁は豊島家住宅の価値を一行で要約している。伊予地方の豪農の屋敷構えをよく残している、というものである。眼目は個々の建物ではなく全体にある。主屋・門・長屋・3棟の倉が、塀と部分的な堀に囲まれた敷地のなかで当初の位置関係のまま立っており、この階層の家で附属屋まで揃って残る例は多くない。
指定は昭和45年(1970年)6月17日。修理は2回に分けて行われた。主屋は昭和47年(1972年)から昭和49年(1974年)にかけて解体修理され、表門ほか5棟と塀は昭和52年(1977年)12月から23か月をかけて工事が施された。
この種の解体修理は徹底している。部材を一本ずつ降ろし、状態を確かめ、傷みが避けられないものだけを取り替えて同じ位置に戻す。今日の屋根の線が、20世紀までに変形した姿ではなく建てられた当時の姿として読めるのは、この工事のためである。
豊島家住宅の見学方法
豊島家住宅は一般公開されていない。松山市は文化財のページに、個人住宅のため一般公開していないと明記している。所有は個人のままで、文化庁のデータベースでも所有者名の欄は空欄になっている。
これは挑戦すべき条件ではなく、そのまま受け取るべき条件である。敷地は誰かの生活の場である。築地塀は私有地の境界であり、周囲の道は住宅地の生活道路で、来訪者用の駐車場も受付も解説板もない。指定を受けているからといって、予告なしに訪ねて塀越しに撮影してよいことにはならない。
屋敷は松山市南部の井門地区、重信川の流れる一帯の近くにある。監視付きの公開が予定されているかどうかを知りたい場合、問い合わせ先は松山市文化財課(電話089-948-6603)である。市内の文化財巡りの催しで対象になったことがあり、その有無を把握しているのはこの部署にあたる。
同種の建築を見学の制約なしに見たい人には、松山市内に公開されている指定建造物が複数ある。市の文化財一覧が実際的な出発点になる。
Q&A
- 豊島家住宅は見学できますか。公開時間はありますか。
- 見学できません。松山市は個人住宅のため一般公開していないと明記しています。公開時間も入館料も来訪者用の設備もありません。公開の予定については松山市文化財課(089-948-6603)が問い合わせ先になります。
- 豊島家住宅は何棟が重要文化財に指定されていますか。
- 7棟です。主屋、表門、長屋門、長屋、米倉、衣装倉、中倉が該当します。これとは別に塀4棟が附として指定されており、7棟の員数には含まれません。
- 豊島家住宅の「井門の八棟造」とは何のことですか。
- 主屋の屋根に付いた地元の呼び名です。直屋と角屋が組み合わさって棟の線が逆Z字型に折れ、それぞれに入母屋造の屋根が架かるため、どの角度からも複数の妻が重なって見えます。上屋は茅葺、下の庇は本瓦葺です。
- 豊島家住宅の建物はいつ建てられたものですか。
- 建築時期はおよそ160年の幅があります。主屋は宝暦8年(1758年)、表門は18世紀中期頃ですが、米倉は大正6年(1917年)まで下ります。衣装倉は明治、文化庁の年代表記では1868年から1911年です。
- 豊島家住宅はなぜ重要文化財に指定されたのですか。
- 屋敷が全体として残っているためです。文化庁は伊予地方の豪農の屋敷構えをよく残していると評価しており、主屋・門・倉が塀と堀に囲まれた敷地内で当初の位置関係のまま立っています。指定は昭和45年(1970年)6月17日です。
基本データ
| 名称 | 豊島家住宅(愛媛県松山市井門) |
|---|---|
| 所在地 | 愛媛県松山市井門421番地の1 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物) |
| 指定年 | 昭和45年(1970年)6月17日 |
| 員数 | 7棟、附として塀4棟 |
| 寸法 | 主屋の居室部 桁行24.6メートル・梁間11.8メートル、居室座敷取合部 桁行4.9メートル・梁間8.9メートル、座敷部 桁行12.9メートル・梁間6.9メートル。敷地面積約3,137平方メートル、建物延面積975平方メートル |
| 所有者 | 個人。文化庁のデータベースでは所有者名の欄が空欄で、松山市は個人所有と記載している |
| 公開状況 | 個人住宅のため一般公開されていない |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「豊島家住宅(愛媛県松山市井門) 主屋」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/3348
- 文化庁 国指定文化財等データベース「豊島家住宅(愛媛県松山市井門) 長屋門」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/3350
- 文化庁 国指定文化財等データベース「豊島家住宅(愛媛県松山市井門) 米倉」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/3352
- 文化遺産オンライン「豊島家住宅(愛媛県松山市井門) 主屋」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/157885
- 松山市「豊島家住宅 7棟」
- https://www.city.matsuyama.ehime.jp/kanko/kankoguide/rekishibunka/bunkazai/kuni/toshimake_juutaku.html
最終更新日: 2026.09.04
同エリアの文化財
いずれも同じエリアの徒歩圏内にあるので、あわせての見学がおすすめです。
- 豊島家住宅(愛媛県松山市井門) 表門 0.00 km
- 豊島家住宅(愛媛県松山市井門) 長屋門 0.01 km
- 豊島家住宅(愛媛県松山市井門) 主屋 0.02 km
- 豊島家住宅(愛媛県松山市井門) 長屋 0.02 km
- 豊島家住宅(愛媛県松山市井門) 米倉 0.04 km
- 豊島家住宅(愛媛県松山市井門) 中倉 0.04 km
- 豊島家住宅(愛媛県松山市井門) 衣装倉 0.04 km