文化9年の隠居屋
宮内家住宅古隠居は、愛媛県伊予市灘町の宮内家住宅内にある文化9年(1812年)建築の隠居屋で、平成30年(2018年)5月10日に登録有形文化財に登録された。敷地の西奥に南北棟で建つ木造平屋建、切妻造・桟瓦葺、建築面積は63平方メートル。
建てられた文化9年は、郡中にとって節目の年にあたる。この年、郡中代官所手代の岡文四郎と町方の人々が萬安港の築造に着手した。工事は24年におよび、完成した港は後に郡中港と呼ばれて、大洲藩の米や木材、砥部の砥石や砥部焼を積み出す拠点となる。宮内家住宅古隠居は、その普請が始まった年の建物である。
宮内家は寛永13年(1636年)に上灘村から移ってこの浜に町を開き、屋号を「灘屋」として町年寄を務めた家である。港ができる前から灘町の中心にいた一族が、港の時代の入口で敷地の奥にこの小さな建物を構えたことになる。
登録基準と価値
宮内家住宅古隠居の登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。宮内家住宅では主屋も同じ基準で登録されており、街道に面した主屋と敷地奥のこの一棟が、灘町の屋敷構えを両端から示す形になっている。
建築面積63平方メートルは、同じ敷地の主屋255平方メートル、明治45年(1912年)頃の隠居所96平方メートルと比べても小さい。規模は小さいが、座敷まわりの造作には手が込んでいる。愛媛県教育委員会は、古風で品のある造りの隠居屋と評価している。
江戸後期の商家が敷地内にどのような隠居屋を用意したのか、その実例が同じ屋敷で明治の隠居所と並んで残っている点に、宮内家住宅古隠居の価値がある。
鏡天井の龍と舞鶴
宮内家住宅古隠居は南北に長い平面をとり、南端に八畳の主室を置く。東西の両側に縁側が通り、北側には四畳と三畳が続く。八畳から北へ抜ける間取りは、隠居した当主が一人で過ごすには十分な広さだが、客を大勢迎える構えではない。
八畳の座敷では柱と長押に面皮材が使われている。丸太の表面をわずかに残して角を落とした材で、木の皮に近い層が稜線に沿って見える。茶室に用いられる手法で、書院造の整った材とは印象が変わる。
南面の床の間脇には、大振りの円窓が開く。壁を丸く抜いただけの単純な形だが、開口が大きいぶん、庭側の光が座敷の奥まで入る。
天井を見上げると、八畳には板を平らに張った鏡天井が張られ、そこに龍が描かれている。北側の四畳の天井には舞う鶴が描かれる。住宅の隠居屋に絵天井を設ける例は多くない。宮内家住宅古隠居のこの二室は、江戸後期の商家が私的な空間にどこまで意匠を入れたかを示している。
見学の可否とアクセス
宮内家住宅古隠居は公開されていない。宮内家の敷地は現在も住まいとして使われており、立ち入れるのは通りに面した主屋までである。敷地の西奥にある宮内家住宅古隠居へは入れず、路上から外観を見ることもできない。鏡天井の龍図や円窓を実見する機会は、一般には開かれていない。
主屋は改修を経て、まちの縁側「ミュゼ灘屋」として事前予約制で貸し出されている。利用時間は午前8時から午後11時までの三区分で、問い合わせは専用電話080-2981-6281。企画展や催しの機会に敷地の歴史が紹介されることもあるため、訪問前に運営者へ確認するとよい。
撮影については、宮内家住宅古隠居が非公開であるため対象外となる。所有者の生活の場であることに配慮したい。
灘町へはJR予讃線の伊予市駅、伊予鉄道郡中線の郡中港駅からいずれも徒歩約3分。宮内家住宅古隠居が建てられた年に着工した萬安港は、五色浜公園の側に旧灯台が残り、こちらは自由に見られる。駐車場は主屋裏の専用駐車場と栄養寺の駐車場を合わせて15台分が無料である。
Q&A
- 宮内家住宅古隠居は見学できますか。
- できません。宮内家の敷地は現在も居住されており、立ち入りは通りに面した主屋までに限られます。宮内家住宅古隠居は敷地の西奥にあり、路上から外観を見ることもできません。
- 宮内家住宅古隠居はいつ建てられたのですか。
- 文化9年(1812年)の建築です。郡中で萬安港の築造が始まった年にあたります。平成30年(2018年)5月10日に登録有形文化財となりました。
- 宮内家住宅古隠居にはどんな絵が描かれていますか。
- 南端の八畳の主室に張られた鏡天井に龍が、北側の四畳の天井には舞う鶴が描かれています。いずれも非公開のため、一般の見学はできません。
- 宮内家住宅古隠居はどのような造りですか。
- 木造平屋建、切妻造、桟瓦葺で、建築面積は63平方メートルです。南北棟の平面で、南端の八畳を主室とし、東西に縁側を通し、北に四畳と三畳を配しています。
- 宮内家住宅古隠居のある灘町へはどう行けばよいですか。
- JR予讃線の伊予市駅、または伊予鉄道郡中線の郡中港駅から徒歩約3分です。旧大洲街道沿いの町並みと主屋の外観は自由に見学できます。
基本情報
| 名称 | 宮内家住宅古隠居(みやうちけじゅうたくふるいんきょ) |
|---|---|
| 所在地 | 愛媛県伊予市灘町123 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号38-124 |
| 指定年 | 平成30年(2018年)5月10日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、瓦葺、建築面積63平方メートル |
| 所有者 | 個人 |
| 公開状況 | 非公開。居住中のため敷地内の主屋以外は立入不可、外観の見学も不可 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「宮内家住宅古隠居」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00012453
- 文化遺産オンライン「宮内家住宅古隠居」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/543867
- 愛媛県 えひめの文化財(たから)「宮内家住宅主屋ほか3件」
- https://www.pref.ehime.jp/ehimenotakara/702.html
- 伊予市「五色浜」(萬安港の築造)
- https://www.city.iyo.lg.jp/machizukuri/kanko/guidemap/goshiki.html
- 伊予市観光公式Webサイト「まちの縁側『ミュゼ灘屋』(旧宮内邸)」
- https://iyokankou.jp/spot/spot-438/
最終更新日: 2026.09.05