境内に建つ民家
福田寺通玄庵は、愛媛県伊予市上吾川にある江戸時代後期の茅葺建築で、平成17年(2005年)12月26日に登録有形文化財となった。
本堂の南西に南面して建つ。木造平屋建、建築面積66平方メートル。住職を退いた僧の隠居所として建てられた建物であり、造りは寺院建築ではなく住宅のそれに従っている。外観に寺らしさはない。
この建物を説明するのは屋根である。主屋部に寄棟造の茅葺を架け、その四周に一段低い桟瓦葺の下屋を廻す。四国西部の大工がいう四方蓋造で、遠目には茅の屋根が瓦の盆に載っているように見える。
登録の理由
登録は「造形の規範となっているもの」という基準による。評価されたのは住宅形式としての完結ぶりで、民家の間取り、地域固有の屋根形式、座敷飾りの一式が、寺の建物のなかにそろって残っている。
部屋は4畳半を基本の大きさとする。西半分には4室が2列2行に並び、大工はこの配置を漢字の田になぞらえて田の字形と呼ぶ。伊予市はこの4室を奥の間、仏間、表、茶の間と記す。南東隅には玄関が付き、その北側にダイドコと呼ぶ土間がある。
建築年代は資料が割れる。文化庁のデータベースは時代を江戸後期とし、西暦を1751年から1829年の幅で示す。伊予市は宝暦年間(1751年から1763年)と伝えられている、と書く。幅の広い国の値のほうが安全で、市が記すのは記録ではなく伝承である。
見どころ
住み手が僧であったことを示す造作は奥の間にある。ここには付書院が設けられているが、通常なら組み合わさるはずの床の間や違い棚とは切り離され、外壁に向かって浅い出窓の形で張り出している。この古い形には出文机、あるいは出文棚という別の名がある。もとは禅僧の書斎の一隅に置かれた書見のための机で、装飾として床脇にまとめられるのは後の時代のことだ。福田寺通玄庵の付書院は、飾りになる前の、使うための位置にとどまっている。
この庵でもっとも知られた見どころは、いま建物にない。天井の一面に龍が描かれていたのだが、その部屋がどこかで二つの資料が食い違う。文化庁のデータベースは北西の仏間とし、愛媛県の解説は南西の奥の間とする。本記事は一次資料である文化庁の記載に従ったが、現地で確かめるべき点として残る。
いずれにせよ、絵は傷んでいる。傷んだ茅葺から入った雨が天井を損ない、龍の絵も一部が欠損した。令和5年(2023年)8月の時点で、蟠龍図を描いた天井板は取り外され、境内の安全な場所に保管されている。屋根を見上げて龍を探しても、いまは見つからない。
見学方法
福田寺通玄庵に拝観時間や拝観料の設定はなく、定期的な一般公開も行われていない。寺が日常的に使う私有の建物であり、内部は非公開である。見学できるのは、境内から距離をおいて眺める外観に限られる。
訪ねる前に状況を確認したい。令和6年(2024年)12月から修復工事が始まっている。内容は茅葺屋根の葺き替え、雨戸など外装の一部新調、雨漏りで傷んだ建材の修復で、高知県梼原の茅葺職人の援助を受けているという。令和7年(2025年)7月の伊予市文化財保護審議会では工事が継続中と報告され、令和8年(2026年)2月の審議会に完了の報告はない。足場やシートが掛かっている可能性がある。
最寄りは伊予市駅(JR予讃線)で、そこから南東へ直線距離にして約1.6キロメートル、歩けば25分ほどかかる。伊予鉄道郡中線の郡中港駅を使う場合は約2キロメートルの道のりになる。登録建造物についての問い合わせは伊予市教育委員会社会教育課(電話089-982-1111、平日午前8時30分から午後5時15分)が受けている。
Q&A
- 福田寺通玄庵の内部は見学できますか。
- 内部は非公開です。拝観料や公開日の設定もありません。見学できるのは境内からの外観のみです。
- 福田寺通玄庵の四方蓋造とはどんな屋根ですか。
- 主屋部に寄棟の茅葺屋根を架け、その四周に一段低い瓦葺の下屋を廻した形式です。四国西部に見られる屋根形式で、名は四方に蓋をした形に由来します。
- 福田寺通玄庵の天井の龍の絵は今も見られますか。
- 現在は見られません。茅葺の傷みによる雨漏りで絵が損傷し、令和5年(2023年)8月時点で天井板は取り外され、境内に保管されています。
- 福田寺通玄庵はいつ建てられましたか。
- 江戸時代後期です。文化庁のデータベースは1751年から1829年の幅で示し、伊予市は宝暦年間(1751年から1763年)と伝えられていると記しています。
- 福田寺通玄庵には誰が住んでいたのですか。
- 住職を退いた僧です。隠居した僧侶の離れとして建てられたため、間取りが民家の形式になっています。
基本データ
| 名称 | 福田寺通玄庵(ふくでんじつうげんあん) |
|---|---|
| 所在地 | 愛媛県伊予市上吾川878 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 平成17年(2005年)12月26日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、茅葺、建築面積66平方メートル |
| 所有者 | 宗教法人福田寺 |
| 公開状況 | 定期的な一般公開なし。内部は非公開で外観のみ。現在は修復工事中 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「福田寺通玄庵」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005204
- 愛媛県教育委員会文化財保護課 えひめの文化財(たから)「福田寺本堂ほか2件」
- https://www.pref.ehime.jp/ehimenotakara/649.html
- 伊予市「【登録有形文化財】福田寺通玄庵<建造物>」
- https://www.city.iyo.lg.jp/shisetsu/shisetsu/bunka/bunka-122.html
- 伊予市 令和6年度第2回伊予市文化財保護審議会議事録
- https://www.city.iyo.lg.jp/shakaikyouiku/bunkazai/documents/s-kyouiku_bunkazai-hogo-shingikai-record-r6-2.pdf
- 伊予市 令和7年度第1回伊予市文化財保護審議会議事録
- https://www.city.iyo.lg.jp/shakaikyouiku/bunkazai/documents/s-kyouiku_bunkazai-hogo-shingikai-record-r7-1.pdf
最終更新日: 2026.09.05