大永3年、方形の下層に円形の上層を載せる

厳島神社多宝塔は、広島県廿日市市宮島町の社殿西側の高台に建つ三間多宝塔で、大永3年(1523年)の建立、明治34年(1901年)8月2日に重要文化財に指定された。

嚴島神社は建立者を禅僧の周歓としている。塔の建つ高台は多宝ヶ岡と呼ばれ、かつてここに「多宝院」という寺があり、多宝塔はその附属であったと社伝は記す。文化庁の国指定文化財等データベースは時代を室町後期、種別を「近世以前/寺院」としている。

面白いのは幾何である。下層は平面も屋根も方形。その屋根の上にまんじゅう形の亀腹が据えられ、そこから上は円になる。上層は柱が円形に配列され、軸部まわりから組物にいたるまで円形に従う。嚴島神社はこれを、日本建築の平面計画として円形を使う珍しい手法だと説明している。軒下に立つと、方形が2メートルほどの高さのあいだに曲線へ解けていく様子を見ることができる。

広島県教育委員会は高さを15.6メートルとし、この塔をほぼ純和様を基調とするものと説明する。県の解説は神社側にない点も加える。円形の組物より上では大仏様の組物手先が放射状に配され、軒桁でふたたび方形に取り合わされるという。亀腹についても、多宝塔がインドの卒塔婆から発した形式であり、この丸い塊は墳丘の名残りであると述べている。

屋根の材も、この塔を周囲から区別する。境内の指定建造物はほとんどが檜皮葺だが、厳島神社多宝塔は柿葺で、薄く割った板を重ねている。下から見上げると、檜皮より細かく平らな肌に見える。

多宝塔は「小さい塔」ではない

多宝塔は大きさの区分ではなく形式の名である。名は多宝如来に由来する。法華経で宝塔のなかに現れ、説かれる教えが真実であることを証明する仏である。日本の密教はその情景を、円い胴を持つ二層の塔として建てた。形そのものが教義を担っており、意匠上の選択ではない。

明治34年(1901年)8月2日の指定は1基。棟札1枚がとして記録されている。棟札は建立年と施主を確定させる種類の史料であり、大永3年という年代を推定ではなく事実として書けるのはそのためである。

厳島神社多宝塔が守られるべき理由のひとつは、明治初年の神仏分離を生き延びたこと自体にある。多宝院は消えた。塔は残り、神社の所有となった。文化庁が今も種別を寺院建築としているのは、この塔を生んだ体制の小さな痕跡でもある。

境内でいちばん静かな一角

神社の出口を出た人の多くは、大願寺の前を通って宝物館で足を止める。塔へ上がる石段は右手にあり、たいてい空いている。それだけで体験が変わる。厳島神社多宝塔の前に10分立っていても、誰かに道を譲る必要がない。

まず移り目を見たい。下層の軒は深く水平で、その上の白い亀腹はわざと素っ気なくつくられている。おかげで円形の上層が、生えてきたものではなく置かれたものとして目に入る。次に上層の組物を見る。円の上に並ぶため平行な組物が一つもなく、垂木は中心から放射状に開く。方形の構造では決して生まれない形である。

高台は、社殿の屋根越しに海へ抜ける視線も得られる。周囲には桜が植えられており、4月には塔単体より花越しに撮られることのほうが多い。建物は非公開で、嚴島神社は内部に入れないとしている。

厳島神社多宝塔の見学

見学は無料で、時間の制限もない。外からの撮影も自由である。神社を西の出口から出て大願寺の前を宝物館の方向に進み、海側の石段を上がる。3分ほどの登りで、途中には手すりもある。

塔は囲われていないため、どの拝観券の対象にもなっていない。屋内の見学と組み合わせるなら、社殿の昇殿料が大人300円、宝物館の拝観料が300円、共通券なら500円。宝物館は午前8時から午後5時まで開いている。

島へはJR宮島口駅または広電宮島口からフェリーで約10分、下船して境内のこちら側までは徒歩15分ほど。廿日市市の宮島訪問税が1人100円、乗船料と一緒に徴収される。神社に駐車場はない。

Q&A

Q厳島神社多宝塔はどこにありますか。
A社殿の西にある多宝ヶ岡という高台で、大願寺と宝物館のあいだの石段を上がります。宮島桟橋からは徒歩15分ほどです。
Q厳島神社多宝塔の中に入れますか。
A入れません。嚴島神社は内部非公開としています。外周はいつでも自由に歩けます。
Q厳島神社多宝塔と五重塔はどう違うのですか。
A形式も年代も場所も屋根も違います。多宝塔は1523年の建立で、方形の下層に円形の上層を載せ、屋根は柿葺です。五重塔は1407年の建立で、境内の反対側に建ち、屋根は檜皮葺です。
Q厳島神社多宝塔は桜の名所ですか。
A高台の周囲に桜が植えられ、4月上旬に咲きます。社殿の屋根越しに海が見える位置でもあります。平場は狭いので、季節の週末は早く混みます。
Q厳島神社多宝塔は誰が建てたのですか。
A嚴島神社は大永3年(1523年)に禅僧の周歓が建立したとしています。もとは同じ高台にあった多宝院という寺に属していましたが、その寺は現存しません。
広島県教育委員会「国・県指定等文化財一覧」(PDF)
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/640309.pdf

基本情報

名称厳島神社多宝塔(いつくしまじんじゃたほうとう)
所在地広島県廿日市市宮島町
指定区分重要文化財/世界遺産「厳島神社」の区域内
指定年1901年(明治34年)8月2日
員数1基/附 棟札1枚
寸法三間多宝塔、こけら葺、高さ15.6メートル、1523年。方形の下層に亀腹を挟んで円形の上層を載せる
所有者厳島神社
公開状況多宝ヶ岡で外観を常時無料見学可。内部は非公開。宮島訪問税100円

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「厳島神社多宝塔」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/3179
文化遺産オンライン「厳島神社多宝塔」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/187326
嚴島神社「文化財・建造物」
https://www.itsukushimajinja.jp/jp/culture.html
嚴島神社「拝観時間・拝観施設及び料金」
https://www.itsukushimajinja.jp/jp/admission.html
嚴島神社「アクセス」
https://www.itsukushimajinja.jp/jp/access.html
廿日市市「宮島訪問税の概要」
https://www.city.hatsukaichi.hiroshima.jp/soshiki/110/59551.html
広島県教育委員会「国・県指定等文化財一覧」(PDF)
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/640309.pdf

最終更新日: 2026.09.08