朱塗のなかの素木、弘治2年の建立
厳島神社摂社天神社本殿は、広島県廿日市市宮島町の厳島神社境内に建つ桁行三間・梁間三間の入母屋造妻入・背面庇付・檜皮葺の本殿で、弘治2年(1556年)の建立、明治32年(1899年)4月5日に重要文化財に指定された。
周囲はすべて塗られている。広島県教育委員会はそれを正面から指摘する。丹塗の建物群のなかでこの一棟だけが素木造で、繊細な木割をもち、住宅風の建築として読める、と。板壁ではなく漆喰壁であるのもこの建物だけで、県はそこにこの時代の住宅風工法の影響を見ている。
結果として、実際よりも静かに見える堂になった。廻廊や社殿が色で自己主張するところで、厳島神社摂社天神社本殿は色を差し出さない。代わりに目に入るのは比例である。細い柱、薄い長押、儀礼ではなく部屋の寸法に合わせた軒の出。背面には庇が付き、桁行四間の渡廊が建物を廻廊の系統につないでいる。
広島県教育委員会は、弘治2年(1556年)に毛利隆元によって建てられたと記録している。毛利元就の嫡男である。毛利が厳島を掌握した直後の年にあたる。
連歌堂
この建物には別名がある。連歌堂である。県によれば、明治の頃までここで連歌の会が催されており、室町時代に盛行した連歌会所の遺構としても珍しい建物だという。連歌会所という部屋の型は、ほとんど残っていない。
連歌は、短歌の上句(5・7・5)と下句(7・7)を別々の作者が交互に読み連ねていく文芸である。鎌倉時代以後に発展し、14世紀から16世紀にかけて最盛期を迎えた。座の文芸であり、一座が何時間も向かい合って座れる部屋を必要とした。
その要件が建築を説明する。連衆が車座に座るための堂は、劇的でない均質な内部と低い位置から入る光を求める。それは同じ時代の住宅が提供したものに近く、社殿が提供するものとはかなり違う。厳島神社摂社天神社本殿を、まず会所として、次に社殿として読むと、素木も漆喰も未完成ではなく意図として見えてくる。中世の連歌の座では天神が守護神として広く仰がれており、連歌堂という別名はその文脈のなかにある。
指定に何が含まれているか
明治32年(1899年)4月5日の指定は1棟。附として3件が記録されている。宮殿、渡廊、棟札1枚である。
宮殿は一間社流見世棚造・檜皮葺の小さな社で、大きな建物のなかに納まる建物である。渡廊は桁行四間・梁間一間、一重、切妻造、檜皮葺で、この堂を物理的に廻廊の回路へ結びつけている。渡廊を別立てで記載したのは小さな技術的判断だが、実務上の効果がある。廻廊を修理すれば指定物件に手が触れる。この一帯の工事が段階を分けて行われるのは、そのためでもある。
文化庁は年代を幅ではなく弘治2年と単一の年で示している。この境内では珍しく、様式による年代判断ではなく文献にもとづくことを意味する。隣接する数棟は室町後期としか記録されていない。
厳島神社摂社天神社本殿の見学
この本殿は有料区域のなか、長橋の先、西廻廊の手前という一方通行の順路上にある。昇殿料は大人300円、高校生200円、小中学生100円。開門は年中無休で午前6時30分、閉門は時期により午後5時から午後6時30分までのあいだで変わる。
廻廊からの撮影は認められている。内部は非公開である。見どころは対比だ。西廻廊の朱を目に残したまま近づくと、厳島神社摂社天神社本殿の素木がすぐに立ち上がってくる。そのうえで壁面を見てほしい。板ではなく漆喰。ここではこの一棟だけである。
工事の影響を受けやすい一角でもある。長橋とこちら側の廻廊は段階を分けて修理が進められており、時期によって迂回が設けられる。現在の工事は嚴島神社の工事状況のページに掲載されているので、出発前に確かめておきたい。島へはJR宮島口駅または広電宮島口からフェリーで約10分、宮島訪問税が1人100円かかる。
Q&A
- 厳島神社摂社天神社本殿はなぜ朱塗ではないのですか。
- 同時代の住宅風の作法にならい、素木で建てられているためです。広島県教育委員会は、板壁ではなく漆喰壁である点もこの建物だけの特徴として挙げています。
- 厳島神社摂社天神社本殿の別名「連歌堂」とは何ですか。
- 連歌の会が明治の頃までここで催されていたことによる名です。県はこの建物を、室町時代に盛行した連歌会所の遺構として珍しいものと説明しています。
- 厳島神社摂社天神社本殿は誰が建てたのですか。
- 広島県教育委員会は弘治2年(1556年)に毛利隆元が建てたと記録しています。文化庁も幅ではなく同じ単一の年を示しています。
- 厳島神社摂社天神社本殿の中に入れますか。
- 入れません。一方通行の順路の途中、廻廊から眺めるかたちになります。昇殿料は大人300円で、廻廊からの撮影は認められています。
- 厳島神社摂社天神社本殿の指定には何が含まれますか。
- 本殿1棟に加えて、宮殿1基、桁行四間の渡廊1棟、棟札1枚が附として記録されています。
基本情報
| 名称 | 厳島神社摂社天神社本殿(いつくしまじんじゃせっしゃてんじんしゃほんでん) |
|---|---|
| 所在地 | 広島県廿日市市宮島町 |
| 指定区分 | 重要文化財/世界遺産「厳島神社」の区域内 |
| 指定年 | 1899年(明治32年)4月5日 |
| 員数 | 1棟/附 宮殿1基、渡廊1棟、棟札1枚 |
| 寸法 | 桁行三間、梁間三間、一重、入母屋造、妻入、背面庇付、檜皮葺、1556年。渡廊は桁行四間、梁間一間、切妻造、檜皮葺 |
| 所有者 | 厳島神社 |
| 公開状況 | 有料区域内の一方通行の順路上、外観のみ。午前6時30分開門、閉門は時期により異なる。昇殿料は大人300円、高校生200円、小中学生100円。宮島訪問税100円 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「厳島神社摂社天神社本殿」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/3177
- 文化遺産オンライン「厳島神社摂社天神社本殿」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/123984
- 広島県教育委員会「国・県指定等文化財一覧」(PDF)
- https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/640309.pdf
- 嚴島神社「参拝順路」
- https://www.itsukushimajinja.jp/jp/route.html
- 嚴島神社「工事状況及び計画」
- https://www.itsukushimajinja.jp/jp/construction.html
- 廿日市市「宮島訪問税の概要」
- https://www.city.hatsukaichi.hiroshima.jp/soshiki/110/59551.html
最終更新日: 2026.09.08