嘉吉元年、棟札に名の残る造立
厳島神社末社荒胡子神社本殿は、広島県廿日市市宮島町の町家の並ぶ一角に建つ一間社流造・檜皮葺の本殿で、嘉吉元年(1441年)の造立、明治37年(1904年)2月18日に重要文化財に指定された。
社名は「あらえびす」と読む。文化庁のふりがなも「いつくしまじんじゃまっしゃあらえびすじんじゃほんでん」である。胡子はえびすと読む字であり、御祭神からも裏づけられる。嚴島神社は素盞鳴命と事代主神を挙げており、事代主神はえびすと同一視される神である。
誰が建てたかも分かっている。広島県教育委員会は、棟札に室町時代の嘉吉元年(1441年)に島田三郎左衛門尉宗氏が造立した旨が記されていると報告する。この時代の小社では望みにくい水準の情報である。県はこの建物を「美しい小建築」と呼ぶ。その一語は実務的でもある。厳島神社末社荒胡子神社本殿は一間社であり、語るべきことをすべて細部で語っている。
意図してくずされた左右対称
彫刻は近づいて見るだけの価値がある。広島県教育委員会は蟇股の股内彫刻絵様を取り上げ、左右対照をわずかに中心でくずしてあると指摘する。誤りでも摩耗でもない。二つの半分が完全に釣り合うことを望まなかった工人による、意図的なずらしである。
県はさらに二つの手法をこの建物の特色として挙げる。向拝の曲線をもつ丸柱と、背後の部材に密着させず遊離させた手挾の工法である。県はこれらを和様と禅宗様の混交と読む。二つの系統が切り分けられるのではなく組み合わされていた15世紀前半の造立としては、順当な姿である。
色については嚴島神社が伝える。本殿は朱漆塗で、屋根には千木と鰹木を置く。破風下の両側には、極彩色の火焔宝珠を唐草で包んだものを入れた蟇股がある。前には拝殿と石鳥居が立つ。
寺の鎮守が神社になるまで
この建物は、はじめから厳島神社の一部だったのではない。嚴島神社は、もともと島内の寺院である大願寺の子院・金剛院の鎮守であり、明治の初め、神仏分離令の後に御本社の末社に班したと記している。
鎮座の年月は伝わらない。伝わっているのは建物のほうである。厳島神社末社荒胡子神社本殿が周囲からわずかにずれて見えるのは、そのためだ。嘉吉元年に仏教の子院のために建てられた社殿が、1870年代の行政的な決定によって帰属を変えられ、部材はその変化をそのまま通り抜けた。
明治37年(1904年)2月18日の指定は1棟で、棟札1枚が附として記録されている。島田宗氏の名を伝えるのが、その棟札である。例祭日は11月20日。
厳島神社末社荒胡子神社本殿の見学
宮島の指定建造物のなかでは訪ねやすく、そして訪ねる人が少ない一棟である。塔の岡の下、商店や住宅の並ぶ町なかに建ち、有料区域の外にあるため拝観券も開門時間もない。参道からの撮影に制限はなく、内部は非公開である。
宮島桟橋から徒歩10分ほど。神社と五重塔を結ぶ動線からわずかに逸れるだけで着く距離にある。通りから引いた位置に石鳥居と小さな拝殿があり、その奥の朱塗の社殿が指定建造物である。
厳島神社末社荒胡子神社本殿は小さく、見どころは細部にある。建物全体を収めるより、向拝の近くに立つほうがよい。破風下の蟇股と火焔宝珠の彫刻は、垣の内に入らずとも参道から見える。島へはJR宮島口駅または広電宮島口からフェリーで約10分、宮島訪問税が1人100円かかる。
Q&A
- 厳島神社末社荒胡子神社本殿は何と読みますか。
- 「あらえびす」です。文化庁のふりがなも「いつくしまじんじゃまっしゃあらえびすじんじゃほんでん」となっています。「あらごし」などの表記は字の読み違いです。
- 厳島神社末社荒胡子神社本殿はどこにありますか。
- 塔の岡の下、商店や住宅の並ぶ町なかです。宮島桟橋から徒歩10分ほどで、有料区域の外にあります。
- 厳島神社末社荒胡子神社本殿の拝観に料金はかかりますか。
- かかりません。神社の有料区域の外、公道に面して建っており、時間を問わず近づけます。内部は非公開です。
- 厳島神社末社荒胡子神社本殿では何を見ればよいですか。
- 蟇股です。広島県教育委員会は股内の彫刻絵様が左右対照をわずかに中心でくずしていると記し、嚴島神社は破風下の火焔宝珠を唐草で包んだ極彩色の彫刻を伝えています。
- 厳島神社末社荒胡子神社本殿はなぜ社殿から離れているのですか。
- もとは寺院大願寺の子院・金剛院の鎮守として建てられたためです。御本社の末社になったのは、明治の神仏分離令の後のことです。
基本情報
| 名称 | 厳島神社末社荒胡子神社本殿(いつくしまじんじゃまっしゃあらえびすじんじゃほんでん) |
|---|---|
| 所在地 | 広島県廿日市市宮島町 |
| 指定区分 | 重要文化財/世界遺産「厳島神社」の区域内 |
| 指定年 | 1904年(明治37年)2月18日 |
| 員数 | 1棟/附 棟札1枚 |
| 寸法 | 一間社流造、檜皮葺、千木・鰹木を置く、朱漆塗、1441年 |
| 所有者 | 厳島神社 |
| 公開状況 | 町なかで外観を常時無料見学可。内部は非公開。例祭日は11月20日。宮島訪問税100円 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「厳島神社末社荒胡子神社本殿」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/3180
- 文化遺産オンライン「厳島神社末社荒胡子神社本殿」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/124187
- 広島県教育委員会「国・県指定等文化財一覧」(PDF)
- https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/640309.pdf
- 嚴島神社「境外摂末社」
- https://www.itsukushimajinja.jp/jp/setumatusya.html
- 嚴島神社「アクセス」
- https://www.itsukushimajinja.jp/jp/access.html
- 廿日市市「宮島訪問税の概要」
- https://www.city.hatsukaichi.hiroshima.jp/soshiki/110/59551.html
最終更新日: 2026.09.08