屋根の上へ立ち上がる煉瓦の柱

金光酒造で最も高いのは蔵ではなく煙突である。包装所の北東に建つ高さ約十二メートルの煉瓦造で、構内の他の建物が見えてくるよりも先に、その姿が目に入る。基部は一辺約一・五メートルのほぼ正方形の平面をなし、煉瓦は長手と小口を段ごとに交互に積むイギリス積みとする。堅牢な産業用の組積によく用いられた積み方である。時代は昭和前期で、令和二年に一括して登録された金光酒造の建物のなかでは最も新しい。

頂部近くでは煉瓦を持ち出して帯状の装飾とし、簡素な軸に一つだけ意匠を添える。上部は鉄骨で補強されている。産業的な用途に徹しながらも、最も遠くから望まれる箇所にこの一点の配慮が払われている。

守るべきランドマーク

煙突は令和二年(二〇二〇)四月、登録有形文化財となった。登録の理由は周囲の蔵と同じく、その場所の歴史的な景観への寄与にある。ここではその寄与が文字どおり遠方から目に見える。瓦屋根の上へ立ち上がる煉瓦の柱は、長く酒蔵の目印であり、地域の空を区切るなじみ深い一点として、人々が土地を測る日常のランドマークとなってきた。

平成八年から続く登録制度は、このような構築物に適している。建物だけでなく、景観を形づくる工作物をも対象とするからである。二十世紀前半の酒蔵の煙突は、この制度が守ろうとした近代の産業遺産の明快な一例である。

煉瓦が語る転換の時代

この時代の煉瓦煙突は、老舗の酒蔵が近代化へ踏み出した一時期を示している。金光酒造は明治十三年(一八八〇)から酒を造り続けており、昭和前期には規模の拡大に応じて固定的な産業設備を加えていった。煙突はその段階の生き残りであり、いまは明治の古い蔵や、敷地を共にする大正・昭和の小さな付属建物の傍らに建つ。

煙突に登ったり内部に入ったりはできないが、その必要はない。本来のとおり、離れて眺めるのがふさわしい。敷地内の直売所からは帯状に装飾された頂部を見上げ、その下の蔵で醸された「賀茂金秀」や「桜吹雪」を味わうことができる。

Q&A

Q煙突の高さはどのくらいですか。
A高さは約12メートルです。基部は一辺約1.5メートルの正方形で、上部は鉄骨で補強されています。
Qイギリス積みとは何ですか。
A小口を見せる段と長手を見せる段を交互に積む煉瓦の積み方です。壁が丈夫になり、産業用の組積によく用いられました。
Q頂部の模様は何ですか。
A煉瓦を持ち出して帯状にした装飾です。遠くからも見える位置に施された簡素な意匠です。
Qいつ頃のものですか。
A昭和前期のもので、令和2年4月に一括登録された金光酒造の建物のなかで最も新しい建造物です。
Q登ることはできますか。
A登れませんし内部にも入れません。離れて眺めるのが本来の見方で、直売所はちょうどその真下にあります。

基本情報

名称金光酒造煙突(かねみつしゅぞうえんとつ)
所在地広島県東広島市黒瀬町乃美尾字東門前1364-2
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 34-0272
登録年月日令和2年(2020)4月3日(第95回登録)
員数・規模1基/煉瓦造、高さ約12m、基部一辺約1.5mの正方形、イギリス積み
時代昭和前期
アクセス東広島呉自動車道 馬木ICから車で約10分、西門前バス停から徒歩約3分。敷地内に直売所あり。

参考文献

国指定文化財等データベース — 登録有形文化財(建造物)該当記録
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013330
金光酒造株式会社 — 公式サイト
https://www.kamokin.com/
東広島おでかけ観光サイト ヒガシル — 金光酒造
https://higashihiroshima-kanko.jp/spot/kanemitsu/

最終更新日: 2026.07.05