旧ハンター住宅:神戸最大の異人館が伝える明治の洋風建築美

神戸市灘区の王子動物園内に佇む旧ハンター住宅は、現存する神戸の異人館の中で最大規模を誇る洋館です。明治22年(1889年)頃の建築とされるこの木骨煉瓦造二階建ての邸宅は、英国ヴィクトリア朝の様式を忠実に伝え、細部にまで行き届いた意匠が高く評価されています。昭和41年(1966年)に国の重要文化財に指定され、明治時代の最も優れた洋風住宅建築のひとつとして、神戸の国際的な歴史を今に伝えています。

歴史的背景

旧ハンター住宅の起源は、明治22年(1889年)頃にさかのぼります。ドイツ人のA・グレッピー氏が英国人の技師に依頼して建てたと伝えられており、明治23年(1890年)に建築届が提出された記録が残っています。設計者についてはA・N・ハンセル(Alexander Nelson Hansel)とする説もありますが、確証は得られていません。

明治40年(1907年)頃、英国人実業家エドワード・ハズレット・ハンター(Edward Hazlett Hunter)がこの建物を買い取り、神戸市中央区北野町3丁目の高台に移築・改造しました。棟札には「上棟式範多氏」「40年5月吉日 棟梁芝嶋吉 建」と墨書されています。

E・H・ハンター氏は弘化3年(1843年)に英国アイルランドのロンドンデリー市に生まれ、慶応元年(1864年)に21歳で来日しました。横浜の商社で働いた後、開港間もない神戸に移り、小野浜の造船所に入りました。その後独立してE・H・ハンター商会を設立し、大阪安治川口に大阪鉄工所(現在の日立造船の前身)を創設。精機、精米、煉瓦、煙草などの事業も手がけ、日本の近代産業の発展に多大な貢献を果たしました。明治42年(1909年)には、外国人としては異例の栄誉である勲五等双光旭日章を受章しています。

ハンター氏の妻・愛子は大阪の薬種問屋平野家の出身で、婦人会・日本済生会・神戸保育院など公共事業に尽力した人物として知られています。ハンター氏は大正6年(1917年)に75歳で亡くなり、神戸の再度山修法ヶ原外人墓地に葬られています。

ハンター氏の没後、住宅は所有者が幾度も変わり、昭和35年(1960年)には料理旅館への転用のため取り壊しの危機に直面しました。学識経験者や建築家、市民による保存運動が高まる中、兵庫県が建物を取得し、昭和38年(1963年)に王子公園内への移築が実現しました。北野町には今も「ハンター坂」の名が残り、かつてこの邸宅があった時代を偲ばせています。

重要文化財としての価値

旧ハンター住宅は昭和41年(1966年)6月11日に国の重要文化財に指定されました。文化庁の解説では「英国ヴィクトリア朝風の様式を正しく伝えていて、明治時代洋風住宅として、特にすぐれたもの」と評価されています。当時の富裕な外国人の生活をうかがい知ることができる第一級の建造物であり、緑の山々を背景に洋風庭園と調和した佇まいと、細部にまで神経の行き届いた意匠が、この時代の異人館の最高傑作としての地位を確立しています。

昭和59年(1984年)には郵政省発行の記念切手「近代洋風建築シリーズ」の図案にも採用されました。

建築の見どころ

旧ハンター住宅は木骨煉瓦造二階建、塔屋付きの構造です。屋根は寄棟造で、我が国で最初期に採用された石綿スレートが葺かれています。天井裏は洋式小屋組、基礎は石造、外壁はモルタル櫛目引きで仕上げられています。

建物の最大の特徴は、南面と東面にめぐらされた重層のコロネード(列柱式)ベランダです。張り出し部の上には三角形のペディメント(切妻)があり、棟飾りや唐草模様の装飾が施されています。当初は開放型であったベランダは、日本の多雨な気候に適さないため、ハンター氏の手により菱形格子の美しい窓がはめ込まれました。この幾何学模様の窓枠を通してベランダいっぱいに広がる光は、この建物ならではの美しい眺めを生み出しています。

室内は、一階に玄関ホール、書斎、食堂、応接室などが配され、各部屋の出入口上部にはブロークン・ペディメントと呼ばれる装飾的な額縁が設けられています。大理石のマントルピース(暖炉の縁飾り)、チーク材の床、ブロンズのシャンデリアなど、当時の豪華な面影が今も残されています。また、階段の踊り場には英国から取り寄せた色鮮やかなステンドグラスが嵌め込まれ、優美な光を室内に投げかけています。

延床面積は約564平方メートルで、一階263.3平方メートル、二階277.8平方メートル、三階(塔屋)22.9平方メートルとなっています。

阪神・淡路大震災による被害と修復

平成7年(1995年)1月17日の阪神・淡路大震災では、旧ハンター住宅も大きな被害を受けました。煉瓦造の煙突2本のうち1本が折れて室内に落下し、東側のベランダが崩れ落ちる深刻な事態となりました。その後、倒壊したベランダを一旦解体して補修・再組立てを行い、煙突も復旧。建物の内外壁面の塗り直しを含む丁寧な修復作業が実施され、歴史的な姿が取り戻されました。

現在の状況と北野への移築計画

旧ハンター住宅は、昭和39年(1964年)の一般公開開始以来、60年以上にわたり多くの来館者を迎えてきましたが、耐震工事の準備のため令和7年(2025年)12月28日をもって内部公開が終了しました。今回の工事では建物を一旦全解体する予定であり、再建にあたっては北野地区への移築が検討されています。

移築候補地は、神戸市が令和5年(2023年)に文化財保護のために取得した北野町1丁目の旧山口邸の敷地です。神戸市文化財保護審議会は、重要文化財の移築は本来行うべきではないとの意見を付しつつも、耐震工事の確実な実施や旧山口邸の文化環境の保全などの付帯条件のもとで、事実上の承認を与えています。

見学情報

令和8年(2026年)現在、旧ハンター住宅は耐震補強工事のため閉館中です。外観は令和8年春頃までは見学可能とされていましたが、最新の状況については神戸市または王子動物園の公式ウェブサイトでご確認ください。閉館前は、王子動物園の入園料(大人600円)で内部を無料見学でき、4月・5月・10月は毎日(水曜休園日を除く)、3月・6月・7月・9月・11月・12月は土日祝日に公開されていました。

王子動物園へは、阪急王子公園駅西口から徒歩約8分、JR灘駅北口から徒歩約9分、阪神岩屋駅から徒歩約17分でアクセスできます。王子公園駐車場も利用可能です。

周辺の見どころ

旧ハンター住宅の周辺には、神戸の文化と自然を楽しめるスポットが数多くあります。

  • 神戸市立王子動物園:ジャイアントパンダやコアラをはじめ多くの動物に出会える人気の動物園です。六甲山を背景にした園内は四季折々の自然も楽しめます。
  • 北野異人館街:約2キロ西に位置する、明治~大正期の洋風住宅が立ち並ぶ歴史的地区。風見鶏の館やうろこの家、萌黄の館など、国の重要文化財に指定された建物を含む十数棟の異人館が公開されています。
  • 布引の滝:新幹線新神戸駅からほど近い場所にある日本有数の名瀑。都心にいながら自然を満喫できるハイキングスポットです。
  • 神戸布引ハーブ園:新神戸からロープウェイでアクセスでき、神戸の街並みと港を一望するパノラマと四季の花々が楽しめます。
  • 相楽園:市街地中心にある日本庭園で、重要文化財の旧小寺家厩舎をはじめ、静かな庭園散策が楽しめます。

Q&A

Q旧ハンター住宅はなぜ神戸の異人館の中で特に重要とされているのですか?
A現存する神戸の異人館の中で最大規模であり、英国ヴィクトリア朝風の建築様式を忠実に伝える、明治時代の洋風住宅建築の最高傑作と評価されています。細部にまで行き届いた意匠や、実業家ハンター氏の歴史的背景も、その文化的価値を高めています。
QE・H・ハンターとはどのような人物ですか?
Aエドワード・ハズレット・ハンター(1843~1917年)は、英国アイルランド出身の実業家です。慶応元年(1864年)に21歳で来日し、大阪鉄工所(現・日立造船の前身)を創設するなど、日本の近代産業の発展に大きく貢献しました。明治42年に外国人として異例の勲五等双光旭日章を受章しています。
Q現在、旧ハンター住宅を見学することはできますか?
A令和8年(2026年)現在、耐震補強工事のため閉館しており、内部の見学はできません。全解体後の再建・北野地区への移築が計画されています。最新の公開情報は神戸市または王子動物園の公式サイトをご確認ください。
Q建築上の見どころはどこですか?
A南面と東面に広がるコロネード(列柱式)ベランダに嵌め込まれた菱形格子の窓が最大の特徴です。また、大理石のマントルピース、チーク材の床、ブロンズのシャンデリア、英国から取り寄せたステンドグラスなど、ヴィクトリア朝の豪華な内装も見どころです。
Qなぜ北野地区への移築が計画されているのですか?
A王子公園の再整備計画により、旧ハンター住宅が建つ場所が新スタジアム建設予定地となったためです。耐震補強のため全解体が必要であることから、この機会に1907年から1963年まで所在していた北野地区に建物を戻す計画が進められています。

基本情報

名称 旧ハンター住宅(きゅうハンターじゅうたく)
指定 国指定重要文化財(昭和41年6月11日指定)
建築年 創建:明治22年(1889年)頃(伝承)/移築改築:明治40年(1907年)
構造 木骨煉瓦造2階建・塔屋付、寄棟造石綿スレート葺、外壁モルタル櫛目引
延床面積 1階 263.3㎡ / 2階 277.8㎡ / 3階(塔屋)22.9㎡(合計約564㎡)
所在地 兵庫県神戸市灘区青谷町1丁目1番4号(神戸市立王子動物園内)
所有者 神戸市
現在の状態 耐震補強工事のため閉館中(2026年1月より);北野地区への移築を計画
アクセス 阪急王子公園駅西口から徒歩約8分、JR灘駅北口から徒歩約9分

参考文献

国指定重要文化財「旧ハンター住宅」 – 神戸市
https://www.city.kobe.lg.jp/a21651/kanko/bunka/bunkashisetsu/foreigner/sub6.html
旧ハンター住宅 – 神戸市立王子動物園【公式】
https://www.kobe-ojizoo.jp/area/hunter/
旧ハンター住宅 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A7%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E4%BD%8F%E5%AE%85
旧ハンター住宅(旧所在 兵庫県神戸市生田区北野町) – 文化遺産オンライン
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/175472
旧ハンター住宅 – 国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/2235
神戸市:旧ハンター住宅は12月末で一般公開を終了します
https://www.city.kobe.lg.jp/a21651/762010862846.html

最終更新日: 2026.04.01