神を一時的に迎えるための社殿

鹿島神宮仮殿は、茨城県鹿嶋市大字宮中にある元和5年(1619年)建立の社殿で、昭和51年(1976年)5月20日に重要文化財に指定された。仮殿は本殿を建て替えるあいだ神霊を仮に移しておくための建物で、権殿とも呼ばれる。

本来なら工事が終われば役目を終える種類の建物である。鹿島神宮仮殿は取り壊されずに残り、四百年を経て国の文化財となった。

元和の造営はこの建物から動き出した。まず仮殿へ神を遷し、空になった旧本殿を境内の奥へ曳いていき、その跡地に新しい社殿を建てる。手順の最初に置かれた建物だった。作事にあたったのは幕府大棟梁の鈴木長次で、本殿以下の社殿と同じ棟梁の手になる。

造営年には資料の食い違いがある。文化庁の国指定文化財等データベースと茨城県教育委員会は元和5年(1619年)とし、鹿島神宮は自社の説明で元和4年(1618年)の奉納とする。1年の開きがあり、本記事は国のデータベースに従った。

どこまで作り込むかを決めてある建物

構造は桁行三間、梁間二間、一重、入母屋造向拝一間、檜皮葺。土台建てで四方に縁をめぐらし、組物は出三斗、組物のあいだに蟇股を飾る。軒は二軒繁垂木。正面は三間とも板扉とする。

ここまでは正規の社殿と変わらない。差が出るのは内部と細部である。中は間仕切りのない一室で、祭壇のしつらえを設けない。漆彩色は扉と蟇股と破風だけに施し、残る部分は白木のまま。繰形などの彫刻は細部を省いている。茨城県教育委員会は、この省き方を仮殿という性格を意識した結果とみている。

手を抜いたのではなく、どこまで作り込むかがあらかじめ決められていた、と読むほうが実態に近い。文化庁の解説も、意匠は比較的簡素ながら正統な建築だと評価している。細部には桃山時代の気風が残り、そこに江戸時代初期の正統的な意匠が重なる。

境内を三度動いた

この建物は同じ場所に建ち続けてこなかった。造営当初は拝殿の左前方に西を向いて建っていた。その後も位置を変え、昭和26年(1951年)に現在の場所へ移された。江戸時代には楼門を入った真正面にあったと鹿島神宮は説明している。仮に建てられた社殿が、境内のなかを移動しながら残ってきたことになる。

現在は本宮の社殿と参道を挟んで向かい合う位置に建つ。近づいて正面の三間の板扉を見ると、扉にだけ漆彩色が残り、柱や縁が白木であることが分かる。破風の彩色も同じように限られている。装飾のある部分とない部分の境目がはっきりしているので、どこに手をかけ、どこを省いたかを目で追える。

指定の時期も他と離れている。鹿島神宮の本殿や楼門が先に重要文化財となり、仮殿が加わったのは昭和51年(1976年)で、境内の建造物としては最後になった。令和2年(2020年)から令和8年(2026年)にかけて行われた「令和の大改修」の対象は幣殿・拝殿・奥宮・楼門で、仮殿は含まれていない。周囲の建物が屋根と塗装を新しくしたなかで、この建物だけが以前の状態のままである。

見学方法

鹿島神宮の境内には外部と区切る門も柵もなく、鹿島神宮仮殿の前へは時刻を問わず近づける。拝観料はかからない。内部は公開されておらず、見学は屋外からになる。

撮影は自由に行える。三脚やドローンを使う場合は社務所に確認したい。授与所と御祈祷の受付は午前8時30分から午後4時30分まで。宝物館は平成30年(2018年)から休館している。

JR鹿島線・鹿島臨海鉄道大洗鹿島線の鹿島神宮駅から楼門まで徒歩7分、そこから鹿島神宮仮殿までは1分ほど。東京駅八重洲南口からは高速バス「かしま号」が通じており、所要約2時間、片道2,100円。第一駐車場は普通車60台で、通常日の午前7時から午後5時は2時間ごとに500円。境内は概ね平坦で、鹿島神宮仮殿の前まで階段を上らずに行ける。

Q&A

Q鹿島神宮仮殿とはどのような建物ですか。
A本殿を建て替えるあいだ神霊を仮に移しておくための社殿で、権殿とも呼ばれます。元和5年(1619年)に現本殿の造替に際して建てられ、昭和51年(1976年)5月20日に重要文化財に指定されました。
Q鹿島神宮仮殿は誰が建てたものですか。
A二代将軍徳川秀忠による元和の造営の一環で、作事は幕府大棟梁の鈴木長次が担当しました。本殿以下の社殿と同じ棟梁です。造営年は文化庁と茨城県教育委員会が元和5年(1619年)、鹿島神宮が元和4年(1618年)としています。
Q鹿島神宮仮殿は本殿と何が違いますか。
A形式は桁行三間、梁間二間、一重、入母屋造、向拝一間、檜皮葺で、外観は正規の社殿と変わりません。内部は間仕切りのない一室で祭壇を設けず、漆彩色も扉・蟇股・破風に限られ、彫刻の細部が省かれている点が異なります。
Q鹿島神宮仮殿はいまどこに建っていますか。
A本宮の社殿と参道を挟んで向かい合う位置です。造営当初は拝殿の左前方に西を向いて建ち、その後も位置を変え、昭和26年(1951年)に現在の場所へ移されました。
Q鹿島神宮仮殿は拝観できますか。時間と料金を教えてください。
A境内に門や柵がないため時刻を問わず近づけ、拝観料はかかりません。内部は非公開で、見学は屋外からになります。授与所と御祈祷の受付は午前8時30分から午後4時30分まで、鹿島神宮駅からは徒歩8分ほどです。

基本情報

名称鹿島神宮仮殿(かしまじんぐうかりでん)
所在地茨城県鹿嶋市大字宮中
指定区分重要文化財(建造物) 指定番号01993
指定年昭和51年(1976年)5月20日
員数1棟
寸法桁行三間、梁間二間、一重、入母屋造、向拝一間、檜皮葺
所有者鹿島神宮
公開状況屋外から常時拝観可、拝観料なし。内部は非公開

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) 鹿島神宮仮殿
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/255
茨城県教育委員会 いばらきの文化財 鹿島神宮仮殿
https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/bunkazai/kuni-23/
鹿嶋市 鹿嶋デジタル博物館 鹿島神宮仮殿
https://www.city.kashima.ibaraki.jp/site/bunkazai/50119.html
鹿島神宮 仮殿
https://kashimajingu.jp/keidai_annai/%E4%BB%AE%E6%AE%BF/
鹿島神宮 よくあるご質問(参拝時間・交通手段)
https://kashimajingu.jp/info/%e3%82%88%e3%81%8f%e3%81%82%e3%82%8b%e3%81%94%e8%b3%aa%e5%95%8f/

最終更新日: 2026.09.05