人形のために建てられた黒漆喰の蔵

祐月本店雛蔵は、茨城県水戸市末広町にある大正5年(1916年)建築の二階建土蔵で、平成27年(2015年)11月17日に登録有形文化財(建造物)に登録された。外壁は黒漆喰で仕上げられ、建築面積は53平方メートルである。

所有するのは人形店の祐月本店。明治23年(1890年)に初代和田祐之介が水戸の旧馬口労町で押絵羽子板と雛人形の製造販売をはじめたのが創業で、明治26年(1893年)には同じ馬口労町、いまの末広町にあたる一角に店舗を構えた。

雛人形は三月三日の節句に飾り、それ以外の十一か月は仕舞っておくものである。年に一度だけ動く在庫を抱える人形商には、乾いて暗く、壁が厚く、そして十分に大きい建物が要った。この蔵はそのために建てられている。

建築年は推定ではない。天井の棟木に「維時大正五年拾月貮日 和田祐之介 立之矣」と墨書があり、大正5年10月2日に初代和田祐之介が建てたことが読み取れる。

祐月本店雛蔵が登録された理由

登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。ただし水戸市の評価はもう少し具体的で、2口の土戸がよく残ること、軸部に改造がないこと、大正5年という建築の経緯が明らかであることを挙げ、盛期の屋敷構成を伝える水戸でも数少ない建物として貴重だとする。

この最後の点は、この街では重い意味を持つ。水戸は昭和20年(1945年)の空襲で旧市街の建物の多くを失い、平成23年(2011年)の地震でもさらに被害を受けている。大正期の土蔵がまとまって残る場所ではない。

用語は「登録」であって「指定」ではない。登録有形文化財は平成8年(1996年)に始まった制度で、指定の仕組みよりも緩やかに働く。所有者に求められるのは、使い続けながら外観を保つことである。祐月本店雛蔵は現に使われており、いまは同社の人形展示室になっている。

構造は土蔵造。木の軸組を厚い土で塗り込め、漆喰で仕上げる工法で、柱は外に見えない。屋根は切妻造桟瓦葺で、棟は南北に通る。小屋組は和小屋である。

見どころ

まず足元から見てほしい。基礎は大谷石を布積にしたもので、宇都宮の北で採れる淡い緑がかった凝灰岩である。ほとんど黒い壁の下に、明るい色の台座が一段まわる。壁の漆喰は黒く染めた仕上げで、何度も塗り重ねる手間のかかるものである。

次に軒下へ目を移す。屋根のすぐ下を鉢巻と呼ぶ帯状の塗り込めが一周し、四面の壁を視覚的に締めている。

それから、開口のある二つの面を見る。東面と、主屋に向かう南の妻面には、それぞれ一階に扉口があり、その上、二階に窓が開く。二階の窓にはいずれも持送りで支えた小さな庇が付く。収蔵の役には立たず、費用だけがかかる部分で、施主が通りから見て堂々とした建物にしたかったことがはっきり出ている。

扉口には戸前土戸が残る。土を塗り込めた厚い扉で、土蔵の防火はここに拠る。祐月本店雛蔵は桁行六間あり、町なかの土蔵としては大きい。全体に、飾り立てるのではなく重厚で丁寧な仕事である。

敷地内には登録外だがもう一棟、昭和6年(1931年)に建てられた母屋があり、現在は展示室として使われている。

祐月本店雛蔵の見学方法

この蔵は見学できる。水戸の同種の登録物件のなかで、内部に入れる数少ない例である。見学は予約制で、電話または公式サイトの問い合わせフォームで申し込む。受付時間は午前9時から午後4時まで。

店舗は土日も営業しているが、蔵は原則として土日は休館である。平日に訪ねるのが確実といえる。店舗の営業時間は午前9時から午後6時まで。予約と問い合わせは電話 029-222-1117 で受けている。

内部は人形展示室として機能しているので、見えるのは空にした建物ではなく、使われている状態の大正の土蔵である。同社は二代目和田祐之介が集めた水戸の金工、主に刀装具の一群も敷地内の別室に収めている。

内部の撮影可否は同社の判断による。到着してから尋ねるのではなく、予約の際に確かめておきたい。祐月本店雛蔵はJR常磐線水戸駅の北西約2.5キロメートルにある。水戸駅北口から茨城交通のバスに乗れば「末広町二丁目」まで10分ほどで、そこから歩いてすぐ。駅からタクシーなら10分ほどである。

Q&A

Q祐月本店雛蔵の内部は見学できますか?
A予約すれば見学できます。電話または公式サイトの問い合わせフォームで申し込み、受付時間は午前9時から午後4時までです。蔵は原則として土日休館なので、平日の訪問を計画してください。予約は電話 029-222-1117 へ。
Q祐月本店雛蔵はいつ建てられ、いつ登録されましたか?
A大正5年(1916年)の建築です。棟木の墨書から、同年10月2日に初代和田祐之介が建てたことが分かっています。登録有形文化財への登録は平成27年(2015年)11月17日で、登録番号は第08-0272号です。
Q祐月本店雛蔵の中には現在なにが置かれていますか?
A所有者である祐月本店の人形展示室として使われています。同社は二代目和田祐之介が収集した水戸の金工、主に刀装具の一群も、敷地内の別室に収めています。
Q祐月本店雛蔵の建築上の特徴は何ですか?
A土蔵造の二階建で、南北に棟を通した切妻造桟瓦葺、基礎は大谷石の布積、外壁は黒漆喰塗、軒下に鉢巻を廻し、小屋組は和小屋です。二つの扉口には土戸が残り、二階の窓には持送りで支えた小庇が付きます。
Q祐月本店雛蔵へは水戸駅からどう行きますか?
A水戸駅の北西約2.5キロメートルです。水戸駅北口から茨城交通のバスに乗り「末広町二丁目」で下車すると10分ほど、そこから歩いてすぐです。タクシーなら10分ほどで着きます。

基本情報

名称祐月本店雛蔵
所在地茨城県水戸市末広町2丁目2282-1
指定区分登録有形文化財(建造物)
指定年平成27年(2015年)登録
員数1棟
寸法土蔵造2階建、瓦葺、建築面積53平方メートル
所有者株式会社祐月本店
公開状況予約制で見学可。午前9時から午後4時まで、原則土日休館

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「祐月本店雛蔵」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010737
水戸市教育委員会「祐月本店雛蔵」
https://www.city.mito.lg.jp/site/education/5692.html
茨城県教育委員会 いばらきの文化財「祐月本店雛蔵」
https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/bunkazai/bunkazai-registered-5956/
祐月本店「登録有形文化財」
https://yugetsu.co.jp/traditional/
祐月本店「お知らせ」(雛蔵見学の案内を含む)
https://yugetsu.co.jp/news/

最終更新日: 2026.09.09