2棟で1棟と数える本殿
登彌神社本殿は、奈良県奈良市石木町の登彌神社境内にある江戸時代後期の社殿で、文政7年(1824年)の建立、令和2年(2020年)4月3日に国の登録有形文化財に登録された。境内でいちばん奥、一段高い平場に南を向いて建つ。
建物は1棟ではない。同じ大きさ、同じ形式の一間社春日造・檜皮葺の社殿が東西に並び、その2棟を背面通りの壁面と板床でつないでいる。奈良市の解説によれば、両殿の間には大樋をかけ、床を張って相の間をつくる。屋根が2つ並び、その谷に樋が走り、下では床がつながっている。文化庁のデータベースはこれを「特異な形式」と記す。
建立の年代がはっきりしているのは棟札が残っているためで、社の記録では文政7年11月10日の上棟札という。登録上は東西2棟をあわせて1棟と数え、員数は1棟、建築面積は20平方メートルである。それぞれの正面と側面には縁が廻り、外周に浜縁が付く。
西の社殿には神皇産霊神・登美饒速日命・天児屋根命、東の社殿には高皇産霊神・誉田別命が祀られている。祭神の性格が異なる2系統を、分けたまま1つの建物として扱う。形式の特異さは、この祀り方から出ている。
5棟のうち、ここだけが「造形の規範」
令和2年に登録された登彌神社の5棟は、同じ日に、連続した登録番号で登録された。しかし適用された登録基準は一様ではない。登彌神社本殿は登録番号29-0282で、基準は「造形の規範となっているもの」。残る拝殿・神饌所・手水舎・社務所の4棟には「国土の歴史的景観に寄与しているもの」が適用されている。
登録有形文化財の基準は3つあり、第一の「造形の規範」は、その建物が形の手本として通用することを意味する。境内の景観に貢献しているという評価とは、要求の水準が違う。
登彌神社本殿がその評価を受けた理由は、連結の形式と彩色の2点に絞られる。一間社春日造は奈良盆地の神社にありふれた形式だが、それを2棟並べて相の間で結ぶ例は多くない。そして、軸部は弁柄塗を基調に、柱を金襴巻、組物などを極彩色で彩る。小さな建物に、当時の彩色技法が一通り載っている。
色をどう見るか
登彌神社本殿の見どころは色である。ただし、いま見えている色は文政7年のものがそのまま残ったのではない。社の記録によれば、平成27年(2015年)9月に本殿などの営繕工事が竣功し、檜皮屋根が葺き替えられ、極彩色も復元された。工事から10年ほどの状態を見ていることになる。
赤い顔料が弁柄で、酸化鉄を主成分とする。柱や長押の面が一様に赤で覆われ、その上に組物や彫刻の細部が緑・青・白で入る。柱の金襴巻は、織物の文様を柱に巻きつけたように描く技法である。近寄れないので、文様そのものは読み取りにくい。読み取れるのは、赤の面積と、そこに切り込む他の色の位置関係のほうになる。
石段を上りきった拝殿の位置から、その背後の一段高い場所に本殿の屋根と軸部が見える。順光になる午前のほうが色の差は出る。檜皮の茶と弁柄の赤は、曇りの日には近い明度に沈む。
登彌神社本殿の見学方法
登彌神社本殿は内部を公開していない。建物への立ち入りもできない。見るのは外観だけになるが、境内の最奥・最上段という位置のため、拝殿の背後という条件が加わる。正面から真っすぐ見通せる角度は限られており、拝殿の脇まで寄って、そこから斜めに見上げる形になる。
東西2棟という構成を確かめたいなら、正面ではなく少し横に振った位置に立つとよい。2つの屋根が前後にずれて見え、その間の谷筋に相の間の位置が読める。正面からでは1棟の屋根に見えてしまう。
外観の撮影を制限する案内は、社の公式サイトにも掲げられていない。ただし祭典の最中は参列者が拝殿前に集まるため、撮影の前に社務所へ一声かけるのが無難である。境内への行き方、駐車場、参拝の条件は登彌神社のページにまとめてある。
Q&A
- 登彌神社本殿はいつ建てられたのですか。
- 文政7年(1824年)です。棟札が残っており、社の記録では同年11月10日の上棟札とされています。令和2年(2020年)4月3日に国の登録有形文化財となりました。
- 登彌神社本殿が2棟あるというのはどういう意味ですか。
- 同じ大きさ・同じ形式の一間社春日造の社殿が東西に並び、背面の壁面と板床で連結されています。両殿の間には大樋をかけて床を張り、相の間としています。登録上は2棟あわせて1棟と数えます。
- 登彌神社本殿の内部は見学できますか。
- できません。内部は非公開で、建物への立ち入りもできません。見学は境内からの外観観察に限られます。
- 登彌神社本殿の彩色はいつのものですか。
- 社の記録によれば、平成27年(2015年)9月に営繕工事が竣功し、檜皮屋根の葺き替えとともに極彩色が復元されています。弁柄塗を基調に、柱の金襴巻や組物の極彩色という構成そのものは建立時からのものです。
- 登彌神社本殿はなぜ他の4棟と登録基準が違うのですか。
- 本殿には「造形の規範となっているもの」が適用され、拝殿・神饌所・手水舎・社務所には「国土の歴史的景観に寄与しているもの」が適用されました。2棟を相の間で結ぶ特異な形式と、彩色の質が評価されたためです。
基本データ
| 名称 | 登彌神社本殿(とみじんじゃほんでん) |
|---|---|
| 所在地 | 奈良県奈良市石木町648-1 |
| 指定区分 | 国登録有形文化財(建造物) 登録番号29-0282 登録基準:造形の規範となっているもの |
| 指定年 | 令和2年(2020年)4月3日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、檜皮葺、建築面積20平方メートル。一間社春日造2棟を連結 |
| 所有者 | 宗教法人登彌神社 |
| 公開状況 | 内部非公開。境内からの外観見学のみ、拝観料なし |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 登彌神社本殿
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013300
- 奈良市— 登彌神社本殿、拝殿、神饌所、手水舎、社務所
- https://www.city.nara.lg.jp/site/bunkazai/77244.html
- 登彌神社 公式ホームページ
- https://ntomishrine.wixsite.com/official
最終更新日: 2026.09.14