醸造の町に立つ、三層の漆喰

星野本店三階蔵は、新潟県長岡市摂田屋にある明治15年(1882年)建築の土蔵で、平成25年(2013年)3月29日に国の登録有形文化財に登録された。登録番号は15-0379。土蔵造で三階建というのは珍しい。防火を旨とするこの構造は近世から近代の商家建築の主流をなすが、三層に積むものは県内でも数少ないとされる。

なぜこれほどの蔵がこの場所にあるのかは、摂田屋という土地が説明する。江戸期のこの一帯は幕府の天領で、藩ではなく幕府が直接治めた。加えて清冽な地下水が豊富だった。この二つの条件が醸造業を集めた。酒、醤油、味噌、こうじ。集積は条件そのものより長く続いている。旧三国街道沿いの歩いて回れる範囲に17件の登録有形文化財が並び、摂田屋は醸造の町並みが残る国内でも密度の高い一角となっている。

星野本店が摂田屋に蔵を構えたのは弘化3年(1846年)。以来この地で味噌・醤油・こうじを製造してきた。現在も営業中である。事業が付属した博物館ではなく、二世紀近く同じ生業を続ける会社の、稼働中の敷地に建つ蔵である。

建物の中身

文化庁の国指定文化財等データベースは、敷地南端に北面する土蔵造三階建、桁行8.2メートル・梁間4.6メートル、切妻造桟瓦葺、建築面積59平方メートルと記述する。外壁は漆喰塗。腰は簓子下見板張とし、縦の簓子で横板を押さえるこの納まりは、漆喰壁のもっとも傷みやすい足元を跳ね返りの水と雪から守る。一階正面には蔵前が設けられている。

三階は後から加えられた。大正期の増築で、その上の小屋組はキングポストトラスに組まれている。この一点が、この建物についてもっとも多くを語る。キングポストトラスは西洋の構造形式であり、それが伝統的な日本の土蔵の内部にあるということは、輸入された工学が地方の日常的な建設現場にまで及んだ時点を示している。トラスであれば、伝統的な和小屋のように梁を積み重ねずに梁間を飛ばせる。三階を成立させた条件は、この一点にあった。近代化の年代が、屋根裏に記録されているわけである。

平成20年(2008年)に改修が行われ、平成25年(2013年)、「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準で登録された。

この基準は登録有形文化財の三つの登録基準のひとつで、登録は日本の建造物保護の二層のうち軽いほうにあたる。重要文化財と国宝は国が指定し、所有者は現状変更について厳しい規制を受ける。平成8年(1996年)に始まった登録の制度は許可ではなく届出で運用され、規制ではなく税制優遇と修理費補助を手段とする。稼働中の醸造所の敷地に建つ蔵にとって、この違いは机上のものではない。保護された建物が使われ続けられるのは、登録という枠組みがあるからだ。

資料を照合する方のために名称について一点。長岡市の観光資料は星野本店の敷地内にある三階建の「衣装蔵」に言及しており、文化庁は同じ敷地の建物を「三階蔵」として登録し、醤油醸造所の土蔵と記述している。屋号としての呼び名と登録名称の違いである可能性が高いが、確認は会社に取るのが確実である。

摂田屋を歩く

星野本店の店舗は一般に開かれており、現地を見る現実的な手立てとなる。現在も使用している建物の一部を改修し、蔵の梁を再利用したテーブルと椅子が置かれている。工場直の商品もそこで購入できる。営業時間は9時から17時とする資料が多く、8時30分から17時30分とする掲載もある。日曜・祝日は休み、土曜は不定休。この点は軽く見ないほうがよい。長谷川酒造、越のむらさき、味噌星六といった摂田屋の老舗はおおむね週末が休みで、平日に行くのが確実である。電話は0258-33-1530。

蔵そのものは会社の敷地内にある。内部の見学が常時受け付けられているという記載は確認できないので、中を見たい場合は思い込まずに事前に会社へ問い合わせてほしい。通りからの外観撮影に問題はない。

行き方はJR宮内駅から徒歩約15分。長岡市は摂田屋を対象とした観光ボランティアガイドを用意しており、利用日の10日前までに申し込む。17件の登録有形文化財をつなぐ半日の散策コースも設定されている。

数分の徒歩圏には、レンガ塀と彫刻を施した蔵の扉で知られる旧機那サフラン酒本舗、長谷川酒造、吉乃川酒ミュージアム醸蔵、そして2020年秋にサフラン酒本舗の米蔵を改装して開いた摂田屋6番街発酵ミュージアム・米蔵がある。明治30年(1897年)に星野本店から分家し、その際に蔵を移築した味噌星六も、すぐ近くで今も味噌を仕込んでいる。一族二世紀の商いが、町割りのなかに読み取れる。

Q&A

Q長岡市摂田屋の星野本店と三階蔵は見学できますか。
A星野本店の店舗は一般に開かれており、商品の購入もできます。蔵の梁を再利用したテーブルと椅子を置いた休憩スペースもあります。営業時間は9時から17時とする資料が多く、8時30分から17時30分とする掲載もあります。日曜・祝日は休み、土曜は不定休なので平日の訪問が確実です。蔵は稼働中の敷地にあり、内部見学が常時受け付けられているという記載は確認できません。事前に0258-33-1530へお問い合わせください。
Q星野本店三階蔵のキングポストトラスとは何ですか。
A三階は大正期の増築で、その小屋組が西洋の構造形式であるキングポストトラスで組まれています。伝統的な和小屋は梁を積み重ねる方式で、上階を足すために梁間を飛ばすのが難しくなります。このトラスは、輸入された工学が新潟の地方の日常的な建設現場に届いた時点を示す痕跡です。
Q星野本店三階蔵はいつ建てられ、いつ登録されたのですか。
A明治15年(1882年)の建築で、大正期に三階が増築され、平成20年(2008年)に改修されています。平成25年(2013年)3月29日、登録番号15-0379で、「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準により登録有形文化財となりました。桁行8.2メートル・梁間4.6メートル、建築面積59平方メートルです。
Q摂田屋へのアクセスと、星野本店三階蔵以外の見どころは。
AJR宮内駅から徒歩約15分です。摂田屋には旧三国街道沿いの歩いて回れる範囲に17件の登録有形文化財があり、レンガ塀と彫刻の蔵扉で知られる旧機那サフラン酒本舗、長谷川酒造、吉乃川酒ミュージアム醸蔵、摂田屋6番街発酵ミュージアム・米蔵などが含まれます。長岡市の観光ボランティアガイドは利用日の10日前までに申し込めます。
Q摂田屋に醸造業が集まったのはなぜですか。
A理由は二つあります。江戸期の摂田屋は幕府の天領で、藩ではなく幕府が直接治めていたこと。そして清冽な地下水が豊富だったことです。この条件が酒・醤油・味噌・こうじの生産者を旧街道沿いの短い一帯に集め、その集積が現在まで続いています。星野本店が蔵を構えたのは弘化3年(1846年)です。

基本データ

名称星野本店三階蔵(ほしのほんてんさんかいぐら)
所在地新潟県長岡市摂田屋2-1812-1他(店舗所在地は摂田屋2-10-30)
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 15-0379
指定年登録年月日・登録告示年月日ともに平成25年(2013年)3月29日
員数1棟
寸法土蔵造3階建、瓦葺、桁行8.2メートル・梁間4.6メートル、建築面積59平方メートル。明治15年建築、大正期に三階増築、平成20年改修
所有者合資会社星野創業
公開状況店舗は一般開放(おおむね9時〜17時、日曜・祝日休、土曜不定休)。蔵内部の常時見学の記載は確認できず、事前問い合わせが必要(0258-33-1530)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「星野本店三階蔵」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009447
文化遺産オンライン「星野本店三階蔵」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/277980
長岡観光ナビ「星野本店(味噌・醤油・こうじの醸造製造専門店)」
https://nagaoka-navi.or.jp/spot/41986
長岡観光ナビ「醸造のまち摂田屋のまち並み散策と17の登録有形文化財をめぐる旅」
https://nagaoka-navi.or.jp/course/41952
発酵・醸造のまち、長岡。「Nagaokaぶくぶく発酵めぐり『摂田屋』」
https://hakko.na-nagaoka.jp/round_settaya/
にいがた観光ナビ「星野本店」
https://niigata-kankou.or.jp/spot/42113

最終更新日: 2026.08.13