東京女子大学17号館(ライシャワー館) ―― 構内の静かな隅に建つ創立者の家

ライシャワー館は本館の裏側、構内の北東隅に位置する。この配置は意図されたものであり、今も効いている。ここまで来るとキャンパスのざわめきが遠のき、建物は、一日じゅう学生が行き交う校舎群にはない落ち着きを保っている。

創立者のひとりであるライシャワー博士の家族の住まいとして建てられた。宣教師で神学者だったライシャワーは、日本にキリスト教主義の女子リベラルアーツ大学を設けるべく北米のプロテスタント諸教派の支援を取りまとめた人物であり、創立当時から長く常務理事を務めた。大正10年(1921年)、アントニン・レーモンドにキャンパス計画を依頼したのも彼である。その依頼には、土地探しそのものも含まれていた。

竣工は昭和2年(1927年)。構造は鉄筋コンクリート造一部木造2階建、瓦葺。建築面積は184平方メートル。登録された住宅三棟のうち、外国人教師館・安井記念館と鼎立する位置に建ち、互いに見える範囲にある。

2003年からは1階が国際交流センターによって外国人留学生の交流の場として使われている。創立者一家が暮らした建物に、いま海外から来た学生が集う。整った連続性である。

登録の理由と価値

17号館は登録有形文化財(建造物)。登録年月日は平成10年(1998年)9月2日、告示は同月25日、第11回登録。登録番号は13-0033で、同日に大学へ交付された連番7件の最後にあたる。

平成8年(1996年)に導入された登録制度は、重要文化財や国宝を生む指定の道筋とは性格が異なる。指定は、変わらずにあることに価値の重心がある建物に適している。登録が想定したのは、使われ続け、その使用にあわせて姿を変えていく近代建築であり、外観の大きな変更に対して許可ではなく届出を求める仕組みをとる。住宅が留学生のラウンジになったこの建物は、その趣旨をよく示している。

登録基準は「造形の規範となっているもの」。文化庁の解説文は、何がこの建物を重要にしているかを具体的に述べている。レーモンドがライトの影響下から脱しつつあった時期の鉄筋コンクリート造住宅である、と。

この一句は、昭和2年という年をレーモンドの経歴のなかに正確に置く。大正8年に帝国ホテルのライトの助手として来日し、まもなく独立。大正の半ばの仕事にはライト由来の水平の強調と幾何学的な装飾が残るが、昭和10年代に入ると、彼の名を高めた素っ気ないほど率直なコンクリート建築に到達している。ライシャワー館はその途中に落ちる。外国人教師館が前の段階を、安井記念館が中間を、そしてこの建物が、古い語彙がおおむね姿を消した地点を示す。

小さな住宅が三棟、連続する三つの段階、しかも徒歩数分の範囲に揃って建っている。建築家の変化をこれほど直接たどれるキャンパスは、そう多くない。

見どころ

感嘆するより、比べること。外国人教師館から安井記念館、そしてこの建物へと歩き、軒、庇、柱の頭に何が起きているかを見ていく。三棟のうち最も早い建物を組織していた柱頭飾りや花台の台座飾りは、ここには現れない。構成は、比例と開口部の置き方だけで成り立っている。

混構造にも注意を向けたい。鉄筋コンクリート造に一部木造を組み合わせるのは、1920年代のこの規模の住宅として現実的な解であり、その選択がレーモンドに内部空間で何ができ何ができないかを規定した。瓦葺の屋根は、この建物をキャンパスの他の初期建築へ結びつけている。

周囲の環境も含めて味わいたい。北東隅には成木の緑が家を囲んでおり、大学は内部について格調高い家具調度品を備えると記している。学内の賑わいとは別世界の佇まい、という説明にふさわしい。外からでも空気の違いは感じ取れる。

持って歩くとよい注記をひとつ。ライシャワー博士の子であるエドウィン・O・ライシャワーは東京に生まれ、のちに日本研究者となり、駐日アメリカ大使を務めた。この関係は当該建物の国の記録に含まれるものではなく、文化財としての価値の一部としてではなく背景として添えておく。

実務的な補足。1階は国際交流センターが使用しているため、内部は一般に公開されていない。外観はキャンパス見学の際に見ることができ、事前予約は不要。当日、正門で入構者情報を登録する。入構は正門のみで、来訪者用の駐車場はない。JR中央・総武線西荻窪駅北口から徒歩約12分、吉祥寺駅・上石神井駅からのバスは「東京女子大前」下車。

Q&A

Qライシャワー博士とはどのような人物ですか。
A宣教師で神学者、大学の創立者のひとりです。北米のプロテスタント諸教派の支援を取りまとめ、創立当時から長く常務理事を務めました。大正10年、土地探しを含むキャンパス計画をアントニン・レーモンドに依頼した人物でもあります。
Q建築的にはどこが重要なのですか。
A国の解説文は、レーモンドがフランク・ロイド・ライトの影響下から脱しつつあった時期の鉄筋コンクリート造住宅と位置づけています。彼の仕事の転換点にあたることが記録上明示されています。
Q現在も使われていますか。
Aはい。2003年から1階が国際交流センターにより外国人留学生の交流の場として活用されています。
Q他の二棟の住宅とはどういう関係ですか。
A外国人教師館、安井記念館、ライシャワー館は構内北東部で鼎立し、その順に建てられました。歩きながらレーモンドの三つの段階をたどることができます。
Q内部の見学はできますか。
A1階が施設として使用されているため、通常のキャンパス見学に内部は含まれません。外観と周囲の環境は構内から見ることができます。

基本データ

名称東京女子大学17号館(ライシャワー館)(とうきょうじょしだいがくじゅうななごうかん)
所在地東京都杉並区善福寺2-6-1
指定区分登録有形文化財(建造物)
登録番号13-0033
登録年月日平成10年(1998年)9月2日(告示 同年9月25日/第11回登録)
登録基準造形の規範となっているもの
員数1棟
年代昭和2年(1927年)
構造及び形式等鉄筋コンクリート造一部木造2階建、瓦葺
建築面積184平方メートル
当初用途創立者のひとりライシャワー博士一家の住宅
設計アントニン・レーモンド(1888-1976)
種別住宅/建築物
所有者学校法人東京女子大学
現在の用途1階を国際交流センターが留学生の交流の場として使用(2003年から)
アクセスJR中央・総武線西荻窪駅北口から徒歩約12分
公開状況一般見学時に外観を見学可(予約不要、正門で入構者情報の登録)。内部は非公開。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁):東京女子大学17号館(ライシャワー館)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00000652
東京女子大学:キャンパス紹介
https://www.twcu.ac.jp/main/about/campus/index.html
すぎなみ学倶楽部(杉並区公式情報サイト):東京女子大学
https://www.suginamigaku.org/2023/10/tokyowc-u.html
BUNGA NET:杉山雅則と東京女子大学
https://bunganet.tokyo/sugiyama03/
東京女子大学:アクセス
https://www.twcu.ac.jp/main/access/index.html

最終更新日: 2026.07.22