東京女子大学16号館(外国人教師館) ―― ライトの手つきが最も濃く残る一棟

東京女子大学の登録7棟のうち、フランク・ロイド・ライトがアントニン・レーモンドに及ぼした影響を最も読み取りやすいのがこの建物である。文化庁の解説文がそう明言している。水平線を強調した軒や庇、庇上の花台台座の飾り、ポーチ支持柱の柱頭飾り。ライトの影響下にあった時期のレーモンドの初期作品であり、細部はその出自を隠していない。

この建物には、本学に派遣された外国人の教師たちが暮らした。平面の組み立てはその用途に即している。階上に4戸、階下は共用という構成で、一家族の住宅というより小規模な集合住宅に近い。単身または二人連れで着任する宣教師教師たちが必要としたのは、この形だった。上に私的な住まい、下に共用の部屋。

構造は鉄筋コンクリート造一部鉄骨造2階建、瓦葺。登録上の建築面積は228平方メートル。校舎群と比べれば小さいが、当時の住宅としては十分な規模である。

大正10年(1921年)のキャンパス計画に基づく第一期工事に属する建物にあたる。年代については留保が必要で、国のデータベースは大正14年(1925年)と記録する一方、大学のキャンパス紹介は1924年(大正13年)とし、大学はその年次に基づいて2024年に竣工100周年の行事を開いている。本記事は一次資料である国の記録に従いつつ、この相違を記しておく。

現在、1階には女性学研究所が置かれている。

登録の理由と価値

16号館は登録有形文化財(建造物)。登録年月日は平成10年(1998年)9月2日、告示は同月25日、第11回登録。登録番号は13-0032。

登録は、国宝や重要文化財を生む指定制度とは性格が異なる。平成8年(1996年)に設けられたこの制度は、古い枠組みでは扱いにくかった問題に応えるものだった。すなわち、明治以降に建てられて今なお日常的に使われている膨大な数の建物が、指定の手続きが及ぶ前に次々と取り壊されていくという状況である。登録では、外観を大きく変更する際に所有者が届出を行い、それ以外は建物を働かせたままにしておく。住宅が研究所へ転用されたこの建物は、制度が想定したそのままの事例といえる。

登録基準は「造形の規範となっているもの」。その理由は国の解説文に珍しく明快に示されており、ライトの影響下にあったレーモンドの初期作品である点が挙げられている。

その関係について少し背景を。1888年にボヘミアに生まれたレーモンドは、大正8年(1919年)、日比谷の帝国ホテル建設のためのライトの助手として日本に着いた。二年ほどでライトのもとを離れて自らの事務所を開き、このキャンパスの依頼は大正10年に続く。その後の十年をかけて彼はライトの語法を脱ぎ、より即物的な独自のコンクリート表現へ向かうのだが、大正13年から14年にかけての第一期の建物群では、負っているものが隠しようもない。16号館が有用なのは、その過程の出発点を目で確かめられる点にある。

見どころ

まずポーチへ。支持柱には柱頭飾りが施されている。この一点が、キャンパスで最も明快なライトの署名にあたる。ライトは柱の頂部を古典的なオーダーの場所とせず、幾何学的に抽象化された装飾を置く場所として扱った。レーモンドがここでしているのも同じことである。文様の彫り方が見える距離まで近づいてみてほしい。

次に一歩下がり、軒と、開口部の上の庇を見る。これらは前へ張り出し、落とす影が壁面を途切れなく水平に走る。立面を積み重なった水平の帯へと平坦化するこの操作は、ライトが携えてきたプレーリー・スクールの語彙の核にあたる。レーモンドはそれを、東京郊外の2階建てコンクリート住宅に適用した。

庇の上には、花台のための台座飾りがある。見落としやすく、そして配慮を欠いた改修では真っ先に失われる種類のディテールでもある。それが今も残っているという事実は、大学がこれらの建物をどう扱ってきたかを示している。平成4年度のBELCA賞(ロングライフ・ビルディング部門)が評価したのは、その維持管理だった。

眺めながらもうひとつ考えてみたいことがある。頭上の階には四つの世帯が暮らし、階下を分け合っていた。その多くは船で日本に着いた人々である。この建物の平面は、1920年代のキリスト教主義女子大学がどのように教員を確保していたかを示す、小さな物証でもある。

実務的な補足。1階は現に活動している研究所であり、内部は一般に公開されていない。外観はキャンパス見学の際に見ることができ、事前予約は不要。当日、正門で入構者情報を登録する。入構は正門のみ、来訪者用の駐車場はない。JR中央・総武線西荻窪駅北口から徒歩約12分。

Q&A

Q誰が住んでいた建物ですか。
A本学に派遣された外国人の教師たちです。階上に4戸の独立した住戸、階下は共用施設という構成で、海外から着任する教員に適した造りでした。
Qなぜ資料によって年代が異なるのですか。
A国のデータベースは大正14年(1925年)、大学のキャンパス紹介は1924年としており、大学は2024年に竣工100周年を記念しています。本記事は国の記録に従い、この相違を解消せず明示するにとどめています。
Q具体的にどこがライト調なのですか。
A国の解説文は三点を挙げています。水平線を強調した軒と庇、庇上の花台台座の飾り、ポーチ支持柱の柱頭飾り。いずれもレーモンドがライトの助手時代に吸収した語彙に属します。
Q今も住宅として使われていますか。
Aいいえ。現在は1階に大学の女性学研究所が入っています。こうした転用は、建物を使い続けることを目的とする登録有形文化財の枠組みと両立します。
Q内部を見ることはできますか。
A通常の見学ではできません。研究所として使用されているためです。上に述べたディテールはいずれも外観にあり、構内から見ることができます。

基本データ

名称東京女子大学16号館(外国人教師館)(とうきょうじょしだいがくじゅうろくごうかん)
所在地東京都杉並区善福寺2-6-1
指定区分登録有形文化財(建造物)
登録番号13-0032
登録年月日平成10年(1998年)9月2日(告示 同年9月25日/第11回登録)
登録基準造形の規範となっているもの
員数1棟
年代国のデータベースは大正14年(1925年)。大学は1924年と記載
構造及び形式等鉄筋コンクリート造一部鉄骨造2階建、瓦葺
建築面積228平方メートル
当初用途外国人教師の住居。階上4戸、階下共用の集合住宅的施設
設計アントニン・レーモンド(1888-1976)
種別住宅/建築物
所有者学校法人東京女子大学
現在の用途1階に女性学研究所
アクセスJR中央・総武線西荻窪駅北口から徒歩約12分
公開状況一般見学時に外観を見学可(予約不要、正門で入構者情報の登録)。内部は非公開。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁):東京女子大学16号館(外国人教師館)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00000651
東京女子大学:キャンパス紹介
https://www.twcu.ac.jp/main/about/campus/index.html
東京女子大学:「東京女子大学の建築群に見るA・レーモンドの建築思想」7号館・外国人教師館 竣工100周年特別講義(2024年)
https://www.twcu.ac.jp/main/event/2024/1102_01.html
東京女子大学:アクセス
https://www.twcu.ac.jp/main/access/index.html
すぎなみ学倶楽部(杉並区公式情報サイト):東京女子大学
https://www.suginamigaku.org/2023/10/tokyowc-u.html

最終更新日: 2026.07.22