東京女子大学14号館(安井記念館) ―― 学監の住まい、7棟で最も小さな建物

建築面積111平方メートル。善福寺キャンパスの登録7棟のなかで最小である。この建物は一人の人物のための住宅として建てられた。安井てつ。大正7年(1918年)の創立時から初代学監を務め、のちに第2代学長となった人である。

安井の履歴が、この住宅の存在理由を説明する。彼女は女子官費派遣留学生として英国で学び、日本の女子にも差別のない大学教育をという確信を携えて帰国した。明治33年(1900年)のパリ万国博覧会で、審査員として滞在していた新渡戸稲造と出会う。新渡戸は早くから日本の女子教育の必要を説いていた。その出会いから十八年後、宣教師で神学者のライシャワー博士の尽力のもと、北米のプロテスタント諸教派の援助を受けて大学は開学する。新渡戸が初代学長、安井が初代学監。14号館は、彼女がその仕事を進めながら暮らした場所である。

構造は鉄筋コンクリート造2階建、瓦葺。小さく、堅固で、長く保つように造られている。そして実際に保った。

現在はキリスト教センターが入り、大学のキリスト教活動・行事の拠点となっている。一人の女性の仕事のために建てられた家が、その人が立ち上げに関わった営みを支え続けている。

登録の理由と価値

14号館は登録有形文化財(建造物)。登録年月日は平成10年(1998年)9月2日、告示は同月25日、第11回登録。登録番号は13-0031。

登録は、重要文化財や国宝を生む指定制度より軽い枠組みである。平成8年(1996年)に始まったのは、日本の近代建築のストックが、指定の手続きが動くより速く失われていたためだった。外観の大きな変更にあたっては届出を求め、それ以外は建物を使い続けさせる。ここでは7棟が登録され、いずれも機能するキャンパスの一部であり続けている。

登録基準は「造形の規範となっているもの」。文化庁の解説文は、この基準に対して年代に即した具体的な論拠を示している。14号館はアントニン・レーモンドの大正10年(1921年)のキャンパス計画に基づく第一期工事分の建物だが、着工は関東大震災後の大正13年8月にずれこんだ。この遅れは意匠に見える形で結果を残した。震災前に着工したライト調の外国人教師館に似るのではなく、ほぼ一年遅れて着工したライシャワー館に近い造形意匠をとっている、というのがその指摘である。

この観察は、一見したよりも面白い。レーモンドは大正8年に帝国ホテルのフランク・ロイド・ライトの助手として来日し、大正13年から昭和2年にかけての数年は、ちょうど彼がライトの語法の下から抜け出て自身の表現へ向かっていく時期にあたる。震災がこの小さな住宅三棟を別々の工程枠へ押しやった結果、キャンパスにはその順序が保存されることになった。外国人教師館、安井記念館、ライシャワー館。一棟ごとにライトから一歩ずつ遠ざかる。三棟は互いに見える範囲に建っており、歩きながらその推移を読み取ることができる。

見どころ

他の二棟の住宅を念頭に置いて近づきたい。これは比較の作業であり、三棟のあいだを歩いてこそ効いてくる。まず軒の扱いを見ること。どれだけ前へ出ているか、水平の線としてどれだけ執拗に走っているか。外国人教師館では、その答えは「深く」「きわめて執拗に」である。ここでは出が引き戻され、効果は静かになっている。

装飾、あるいはその後退にも目を向けたい。先行する住宅を特徴づけていた柱頭飾りや花台の台座飾りは、この立面を同じようには組織していない。レーモンドは、コンクリートの塊と開口部だけに構成を担わせ始めている。同じ設計者の、三年後の姿である。

規模についても考えてみたい。111平方メートルというのは住宅の寸法であって、施設が住宅の格好をしているのではない。そう設計されている。安井てつは学生から離れた場所の公邸ではなく、構内のここに住んだ。敷地内のこの位置取りは、女子大学をどう運営するかについての判断だった。

建物はキリスト教センターとして現に使われているため、内部は一般に公開されていない。外観は構内から見ることができる。

訪問について。一般のキャンパス見学に予約は不要で、当日正門にて入構者情報を登録する。入構は正門のみ、来訪者用の駐車場はない。JR中央・総武線西荻窪駅北口から徒歩約12分。吉祥寺駅・上石神井駅からのバスは「東京女子大前」下車。

Q&A

Q安井てつとはどのような人ですか。
A女子官費派遣留学生として英国で学んだ教育者で、大正7年(1918年)の創立時に初代学監となり、のちに第2代学長を務めました。この建物は彼女の住居でした。
Q外国人教師館と外観が違うのはなぜですか。
A着工が関東大震災の前ではなく後、大正13年8月になったためです。国の解説文は、震災前着工でライト調の色濃い外国人教師館よりも、約一年遅れて着工したライシャワー館に近い造形意匠をとる、と記しています。
Q現在は何に使われていますか。
A大学のキリスト教センターとして、キリスト教活動・行事の拠点になっています。
Q他の登録建物と比べてどのくらい小さいのですか。
A建築面積111平方メートルで、7棟のうち最小です。比較すると6号館は1,453平方メートル、講堂・礼拝堂は1,186平方メートルです。
Q内部に入れますか。
A施設として使用されているため、内部は一般に公開されていません。通常の見学では外観を構内から見ることができます。

基本データ

名称東京女子大学14号館(安井記念館)(とうきょうじょしだいがくじゅうよんごうかん)
所在地東京都杉並区善福寺2-6-1
指定区分登録有形文化財(建造物)
登録番号13-0031
登録年月日平成10年(1998年)9月2日(告示 同年9月25日/第11回登録)
登録基準造形の規範となっているもの
員数1棟
年代大正14年(1925年)/着工は大正13年8月
構造及び形式等鉄筋コンクリート造2階建、瓦葺
建築面積111平方メートル
当初用途初代学監・安井てつの住宅
設計アントニン・レーモンド(1888-1976)
種別住宅/建築物
所有者学校法人東京女子大学
現在の用途キリスト教センター
アクセスJR中央・総武線西荻窪駅北口から徒歩約12分
公開状況一般見学時に外観を見学可(予約不要、正門で入構者情報の登録)。内部は非公開。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁):東京女子大学14号館(安井記念館)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00000650
東京女子大学:キャンパス紹介
https://www.twcu.ac.jp/main/about/campus/index.html
すぎなみ学倶楽部(杉並区公式情報サイト):東京女子大学
https://www.suginamigaku.org/2023/10/tokyowc-u.html
東京女子大学:アクセス
https://www.twcu.ac.jp/main/access/index.html
東京女子大学:キャンパス見学
https://www.twcu.ac.jp/main/admissions/visit.html

最終更新日: 2026.07.22