東京女子大学6号館(東校舎) ―― 段階を追って育った校舎

6号館は、東京女子大学の登録7棟のなかで建築面積が最も大きい。1,453平方メートル。ただし最初からこの規模だったわけではない。正面中央玄関から南側の部分が先に建ち、北半分は後の増築による。そのつもりで立面を追うと、この建物は一つの完成した物体ではなく、時間をかけて重ねられた判断の記録として見えてくる。

用途は自然科学教室として建設された。この当初の目的が、本館の右手前という位置を説明する。中庭に面して正面を西に向け、向かいの西校舎とまっすぐ相対する。

構造は鉄筋コンクリート造地下1階地上2階建、瓦葺の寄棟屋根。教室窓にはスチールサッシを3連にはめる。この繰り返しが立面の長さに沿って続くことで、建物には測ったような、手続き的とすら言える静けさが生まれている。

年代については補足が要る。文化庁データベースは時代を大正、年代を大正14年(1925年)と記録しており、本記事は一次資料としてこれに従う。一方、大学のキャンパス紹介は1927年(昭和2年)とし、さらに1951年・1956年に一部増築があったと添えている。段階的に完成した建物が複数の年を持つことは十分ありうるので、両者は必ずしも矛盾しないが、資料によって記載が異なる点は承知しておきたい。

登録の理由と価値

6号館は登録有形文化財(建造物)。登録年月日は平成10年(1998年)9月2日、告示は同月25日、第11回登録。登録番号は13-0029。

この建物では、登録と指定の違いがふだん以上に効いてくる。重要文化財や国宝へ至る指定制度は、変わらずにあることに価値の重心を置く建造物にふさわしい強い規制をかける。平成8年(1996年)に始まった登録制度が想定したのは別の状況である。使われ続け、使う側の必要に応じて手が加えられてきた近代建築。最初の完成後に北側の棟を得て、戦後にもさらに増築を重ねた建物は、古い枠組みでは収まりが悪い。登録の枠であれば無理がなく、しかも教室として動き続けられる。

登録基準は「造形の規範となっているもの」。文化庁の解説文は、自然科学教室として建設されたこと、中庭に面して正面を西に向け西校舎に相対すること、正面中央玄関以南が先に建ち北半分が後の増築であること、そして2階建・寄棟屋根にスチールサッシ3連の教室窓という構成を記している。

設計は、大正10年(1921年)にキャンパス計画を引いたアントニン・レーモンド。1888年にボヘミアに生まれ、大正8年に帝国ホテル建設のためのフランク・ロイド・ライトの助手として来日し、そのまま日本にとどまって近代建築の流れを変える事務所を築いた。6号館は彼の日本での初期にあたり、ライトの語法がなお聞き取れる一方で、その下にある規律はすでに彼自身のものになっている。

大学は歴史的建造物の維持管理に対して平成4年度のBELCA賞(ロングライフ・ビルディング部門)を受けており、6号館もその対象に含まれる。

見どころ

まず継ぎ目から始めたい。西側の立面を中央玄関から北へ歩き、当初の躯体と後の増築が出会う地点を探す。年代の違うコンクリートは風化のしかたが違うし、窓の上端や床レベルの通り方が、表面を丁寧に納めてあってもどこに縫い目があるかを教えてくれる。見つけ出すのはささやかな推理だが、建物の見え方が変わる。

寄棟屋根は中庭から眺めるとよい。四方に勾配が下りる寄棟は、他所で使われる単純な切妻よりも重く、地に着いたシルエットを生む。地上2階という低さと合わさって、6号館は空に対して低く広く座り、その背後に立つ4階建ての本館と意識的な対比をなす。

窓を数えてみること。ここでは1組3連、中庭の向かいの7号館では5連。文化庁の解説文もこの比較を明示しており、レーモンドが公式を反復するのではなく建物ごとに扱いを変えていたことを、キャンパスのなかで最もわかりやすく示している。

現役の教室棟なので、内部は一般の見学に開かれていない。外観は中庭から余すところなく見える。もともと、そこから見られることを想定した意匠である。

行き方について。一般のキャンパス見学は事前予約不要で、当日正門にて入構者情報を登録する。入構は正門のみ、来訪者用の駐車場はない。JR中央・総武線西荻窪駅北口から徒歩約12分。吉祥寺駅・上石神井駅からのバスは「東京女子大前」下車。

Q&A

Qなぜ資料によって竣工年が違うのですか。
A国のデータベースは大正14年(1925年)とし、大学のキャンパス紹介は1927年、加えて1951年・1956年の一部増築を記載しています。段階的に完成した経緯が食い違いの背景にあると考えられます。本記事は一次資料である国の記録に従っています。
Q建物のどの部分が当初のものですか。
A正面中央玄関から南側が先に建てられた部分です。北半分は後の増築で、戦後にもさらに増築工事が行われています。
Qもともと何のための建物でしたか。
A自然科学教室として建設されました。現在も主に教室として使われています。
Q増築があると文化財としての価値は下がりますか。
A登録制度においてはそうなりません。登録は、使われ続け、その使用にともなって変化してきた近代建築を対象に設けられた枠組みで、そうした建物が機能し続けられるよう、指定より緩やかな規制をかけています。
Q7号館とはどういう関係ですか。
A中庭を挟んで対になって向かい合い、その奥で本館が視線を受け止めます。6号館は教室窓を3連、7号館は5連にまとめており、この違いは国の解説文にも明記されています。

基本データ

名称東京女子大学6号館(東校舎)(とうきょうじょしだいがくろくごうかん)
所在地東京都杉並区善福寺2-6-1
指定区分登録有形文化財(建造物)
登録番号13-0029
登録年月日平成10年(1998年)9月2日(告示 同年9月25日/第11回登録)
登録基準造形の規範となっているもの
員数1棟
年代国のデータベースは大正14年(1925年)。大学は1927年とし、1951年・1956年に一部増築と記載
構造及び形式等鉄筋コンクリート造地下1階地上2階建、瓦葺(寄棟)
建築面積1,453平方メートル
当初用途自然科学教室
設計アントニン・レーモンド(1888-1976)
種別学校/建築物
所有者学校法人東京女子大学
現在の用途教室棟
アクセスJR中央・総武線西荻窪駅北口から徒歩約12分
公開状況一般見学時に外観を見学可(予約不要、正門で入構者情報の登録)。内部は非公開。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁):東京女子大学6号館(東校舎)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00000648
東京女子大学:キャンパス紹介
https://www.twcu.ac.jp/main/about/campus/index.html
東京女子大学:アクセス
https://www.twcu.ac.jp/main/access/index.html
東京女子大学:キャンパス見学
https://www.twcu.ac.jp/main/admissions/visit.html
すぎなみ学倶楽部(杉並区公式情報サイト):東京女子大学
https://www.suginamigaku.org/2023/10/tokyowc-u.html

最終更新日: 2026.07.22