御幸町通の造り酒屋が、犬山の丘に建っている
明治村京都中井酒造は、愛知県犬山市の博物館明治村にある木造2階建の町家で、明治3年(1870年)に京都市中京区の御幸町通二条で新築され、平成15年(2003年)12月1日に登録有形文化財となった。
中井家が商いを始めたのは天明7年(1787年)、河原町二条でのことである。享和3年(1803年)に少し西の御幸町へ移って酒屋となったが、その店は元治元年(1864年)の禁門の変(蛤御門の変)で類焼した。焼け跡に建て直されたのが、いま犬山の丘に建つこの一棟にあたる。
建物は切妻造・平入のつし二階建で、屋根はゆるく外へ張り出す起りをもつ桟瓦葺である。この低い軒の線が、京都の町家の顔をつくっている。間口は6間弱、建築面積は155平方メートル。向かって右手は一段低い落棟になっている。
京都での役目を終えたあと、昭和46年(1971年)に解体され、平成5年(1993年)に明治村2丁目へ移築された。
「再現することが容易でない」と判断されたもの
明治村京都中井酒造が適用された登録基準は「再現することが容易でないもの」である。登録番号は23-0076、登録の告示は2003年12月25日に出された。
再現しにくい理由は、町家の骨格のなかに醸造の設備がそっくり組み込まれている点にある。表から見れば京都の商家だが、通り庭を一歩入ると右手は小屋裏まで吹き抜け、そこに洗米所と煉瓦造の蒸し竈が据わる。台所の床下には麹室が掘り込まれている。住まいと仕事場が一枚の屋根の下で背中合わせになる構成は、図面から起こし直せる種類のものではない。
登録有形文化財は、平成8年(1996年)に始まった制度である。おおむね建設後50年を経た建造物を対象とし、使いながら守ることを前提に、現状を変えるときは届出を求める。移築されたのちも建物として使われ続けている明治村京都中井酒造には、この枠組みが素直に合う。
立ち止まって見たいところ
正面はまず格子である。太い縦桟の格子と無双窓が入口の左右に並び、庇の上の階には虫籠窓が開く。壁は漆喰塗りで、窓は太い塗り込めの枠に囲われている。酒屋格子と呼ばれるこの太さは、意匠であると同時に、酒樽の出し入れに耐えるための寸法でもあった。
内部は通り土間を境に、性格の違う二つの世界へ分かれる。左は座敷、帳場、台所と続く住まいの側。右は吹き抜けの作業場である。
作業場では上を見上げてほしい。大きく湾曲した天然の丸太が梁として架けられ、小屋束と貫が縦横に組み上がっている。まっすぐな材が手に入らなかったのではない。曲がった材の背を上へ向けて荷を受けさせる、古い町家の架構がここに残っている。
足元には煉瓦造の蒸し竈がある。直径は1.3メートルと1.1メートル。見上げると大梁に滑車が作りつけられていて、人の手では動かない重い釜の蓋を、これで上げ下げした。
台所の床下に掘られた麹室は、地下の温度変化の少なさを利用したものである。2階には物入れと蔵人の寝所があった。冬のあいだだけ働きに来る蔵人たちが、この低い天井の下で寝起きしていた。
ここで行われたのは、新米の貯蔵から洗米、米蒸し、麹づくりまでである。仕込みと貯蔵は建物の背後にあった別棟の蔵が担っていた。その蔵は明治村へ移されていないので、明治村京都中井酒造で見られるのは酒造りの前半にあたる工程の場ということになる。
明治村京都中井酒造の見学方法
明治村京都中井酒造は内部が公開されており、通り土間から作業場と住まいの両側を見ることができる。建物が建つのは村内の2丁目で、正門から入って早い段階で行き当たる位置にある。
見学には博物館明治村の入村料が要る。大人2,500円、高校生1,500円、中学生と小学生は700円、未就学児は無料である。
開村時間は季節で変わる。4月から7月と9月・10月は午前9時30分から午後5時、8月は午前10時から午後5時、11月は午前9時30分から午後4時(土曜・休日は午後5時まで)、12月から2月は午前10時から午後4時、3月は午前9時30分から午後5時。入村できるのは閉村の30分前までである。冬季を中心に休村日が設けられているので、出かける前に公式サイトの開村カレンダーを見ておきたい。料金と時間はいずれも変更されることがある。
撮影は個人の記録であれば可能である。ただし建物内での三脚の使用は禁じられている。
名鉄犬山駅東口から明治村行きのバスが出ており、名古屋駅と栄からの直行バスもある。車で向かう場合は中央自動車道の小牧東インターチェンジから3キロメートル、駐車場は普通車1,000円である。
同じ村内には、酒の仕込みと貯蔵にあてられた蔵である明治村菊の世酒蔵がある。明治村京都中井酒造で前半の工程を見てからそちらへ回ると、酒造りの流れが前後でつながって見えてくる。
Q&A
- 明治村京都中井酒造は建物の中に入れますか。
- 入れます。通り土間から、左手の座敷・帳場・台所と、右手の吹き抜けの作業場の両方を見学できます。蒸し竈や滑車も土間から見える位置にあります。
- 明治村京都中井酒造ではいまも酒を造っていますか。
- 造っていません。京都で1971年に解体され、1993年に明治村へ移築されて以降は展示建造物です。仕込みと貯蔵を行っていた背後の別棟は移築されていません。
- 明治村京都中井酒造を見学するには、いくらかかりますか。
- 博物館明治村の入村料だけで見学できます。大人2,500円、高校生1,500円、中学生と小学生は700円、未就学児は無料です。建物ごとの追加料金はありません。
- 明治村京都中井酒造が登録された「登録有形文化財」とは、どのような制度ですか。
- 1996年に始まった制度で、おおむね建設後50年を経た建造物を対象とします。使いながら守ることを前提とし、現状を変えるときは許可ではなく届出を求める緩やかな保護です。
- 明治村京都中井酒造は、もともと京都のどこにあった建物ですか。
- 京都市中京区の御幸町通二条にありました。跡地に建物は残っていません。中井家はそれ以前、天明7年(1787年)に河原町二条で商いを始め、享和3年(1803年)に御幸町へ移っています。
基本情報
| 名称 | 明治村京都中井酒造(めいじむらきょうとなかいしゅぞう) |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県犬山市内山1 博物館明治村内(村内2丁目19番地) |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 23-0076 |
| 指定年 | 2003年12月1日 登録(告示 2003年12月25日) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、瓦葺、建築面積155平方メートル |
| 所有者 | 公益財団法人明治村 |
| 公開状況 | 内部公開。博物館明治村の入村料が必要(大人2,500円)。名鉄犬山駅東口からバス |
参考文献
- 明治村京都中井酒造(国指定文化財等データベース・文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003663
- 明治村京都中井酒造(文化財ナビ愛知・愛知県)
- https://www.pref.aichi.jp/kyoiku/bunka/bunkazainavi/yukei/kenzoubutu/kunitouroku/1095.html
- 京都中井酒造(博物館明治村 公式サイト)
- https://www.meijimura.com/sight/京都中井酒造/
- チケット・料金(博物館明治村 公式サイト)
- https://www.meijimura.com/guide/price/
- 開村時間・休村日(博物館明治村 公式サイト)
- https://www.meijimura.com/guide/open/
最終更新日: 2026.09.03