廃線跡の入口で最初に口を開ける隧道
旧中央線玉野第三隧道は、愛知県春日井市玉野町にある明治期の煉瓦造鉄道トンネルで、明治33年(1900年)に築かれ、平成28年(2016年)に登録有形文化財(建造物)に登録された。
延長76メートル、幅員4.6メートル。単線の列車が1本だけ通る大きさで、断面は天井が半円、側壁が垂直に近い馬蹄形断面をとる。JR中央本線の定光寺駅で降り、駅の下から庄内川に沿う小径を300メートルほどさかのぼると入口ゲートがあり、その先で最初に暗がりを見せるのがこの坑である。
愛岐トンネル群と呼ばれる旧線跡のなかで、旧中央線玉野第三隧道は「3号トンネル」の通称で呼ばれてきた。中央線の名古屋から多治見までの区間は明治29年(1896年)11月に着工し、明治33年7月25日に開通している。高蔵寺と多治見の間だけで14基の隧道が穿たれ、そのうち13基が今も残る。
単線では戦後の輸送量に応えられず、複線電化の新線が別ルートで掘られた。旧線と隧道群が役目を終えたのは昭和41年(1966年)である。レールも枕木も外され、藪に呑まれた。再発見は平成17年(2005年)以降、地元の探索によるものだった。
登録の理由は「再現することが容易でない」こと
旧中央線玉野第三隧道の登録基準は、3つある登録基準のうちの「再現することが容易でないもの」である。春日井市の告示資料は登録理由を、官設鉄道の標準例に則った単線仕様の馬蹄形断面で、煉瓦造の躯体であること、と記している。奇抜だから残したのではない。当時の標準がそのまま残っているから残した、という理屈である。
登録は、国の文化審議会の答申を経て、平成28年(2016年)11月29日付の官報告示で確定した。同時に登録されたのは旧中央線玉野第四隧道と旧中央線笠石洞暗渠の2件で、あわせて3基。春日井市にとってはこれが初めての登録文化財となった。所有者は特定非営利活動法人愛岐トンネル群保存再生委員会である。
なお、旧中央線玉野第三隧道に適用されているのは「指定」ではなく「登録」である。登録有形文化財は、活用しながら守ることを前提とした制度で、外観を保てば内部の改修に幅を持たせる。年に2回、実際に人を歩かせているこの隧道には、その枠組みが合っている。
坑門の付柱と、内壁に穿たれたくぼみ
旧中央線玉野第三隧道でまず目に入るのは坑門である。文化庁の解説は、坑門に付柱を施し、下部を切石積として装飾的に見せる、と説明する。付柱は構造上どうしても必要な柱ではない。壁面に柱の形を貼り付けて陰影をつくり、正面を建築らしく見せるための意匠である。切石は坑門の足元をぐるりと締め、その上に赤い煉瓦が積み上がる。
西坑門と東坑門は表情が違う。春日井市が公開している登録時の写真も、この2つを別々に撮っている。同じ設計図から量産されたように見えて、坑門の意匠は坑ごとに変えられており、保存にあたる愛岐トンネル群保存再生委員会は、各トンネルの坑門に同じデザインのものが一つとしてないと述べている。
内部に入ると、側壁に浅いくぼみが並ぶ。待避所である。列車が来たとき、保線の作業員が身をかわすための空間で、単線トンネルでは逃げ場がここしかない。76メートルという長さは、坑口に立てば向こう側の明るみが見通せる程度で、足元に残る砕石の粒まで薄く見えている。
手を触れると煉瓦の目地が指に引っかかる。廃線から半世紀以上、補修らしい補修を受けないまま放置されたにもかかわらず、崩落がほとんど起きていないことは、保存活動を担う委員会も特筆すべき点として挙げている。
隧道の前に据えられた殉職者の碑
旧中央線玉野第三隧道の坑口の手前に、自然石の碑と黒い説明板が並んで立っている。「中央線建設工事殉職者慰霊碑」で、令和7年(2025年)8月にこの場所へ移されたばかりのものである。
碑が建てられたのは明治33年(1900年)6月、開通の直前だった。高蔵寺と多治見の間はわずか10キロあまりだが、庄内川に沿って山裾を14か所の隧道でつなぐ難工事で、落盤や土砂崩れ、傷病死により二十余名が亡くなっている。明治30年(1897年)11月には5号トンネルの東坑門の上から岩が崩れ、内部で煉瓦の巻き立てをしていた坑夫6名が生き埋めとなった。地元の有志が相談して碑を立て、題額に「死有餘栄」と刻んだ。
碑は当初、玉野町の太平寺の境内にあった。開通百年にあたる平成12年(2000年)に東海自然歩道の入口へ移り、さらに25年を経て、工事の現場そのものである坑門の前に落ち着いた。石を読んでから隧道に入るか、出てきてから読むかで、煉瓦の見え方は少し変わる。
見学できる時期と、持っていくもの
旧中央線玉野第三隧道を含む廃線跡は、通常は施錠されており立ち入ることができない。見学できるのは、所有者である愛岐トンネル群保存再生委員会と春日井市観光コンベンション協会が主催する春と秋の特別公開の期間と、場内で催しが行われるときに限られる。令和8年(2026年)秋の公開は11月28日から12月6日までの9日間が告知されている。
直近の公開の要領では、入場料は1人100円の当日払い、小学生以下は無料で、事前予約は不要だった。開場9時30分、閉門15時、最終入場14時。雨天中止。公開区間は3号から6号までの隧道と廃線跡およそ1.7キロメートルで、往復すると3.4キロメートル、所要はおよそ2時間である。料金と時間は公開ごとに変わりうるため、出かける前に委員会の公式サイトで最新の要領を確かめてほしい。
足元には当時の砕石が残っている。底のしっかりした歩きやすい靴が要る。主催者は懐中電灯の持参も呼びかけており、これは隧道の内部を見るうえでも役に立つ。ペットは入場できない。撮影については特段の制限が公表されておらず、来場者の写真は委員会のSNSでも広く共有されているが、現地の掲示と係員の案内には従うこと。
アクセスはJR中央本線の定光寺駅から。駅の下の小径を上流へ約300メートル、歩いて5分ほどで受付に着く。名古屋駅からは普通列車で30分あまり。公開期間中は一部の快速列車も定光寺駅に停まる。無人駅なので、往復の切符かICカードを用意しておくと戻りが楽になる。会場周辺にも駅前にも駐車場は一切ないため、鉄道以外の手段は考えないほうがよい。
Q&A
- 旧中央線玉野第三隧道は見学できますか。入場料と公開時期は?
- 通常は施錠されており入れません。春と秋の特別公開のときだけ入場できます。直近の公開では入場料は1人100円(小学生以下無料)、予約不要、開場9時30分、閉門15時、最終入場14時でした。2026年秋の公開は11月28日から12月6日までの9日間が告知されています。
- 旧中央線玉野第三隧道への行き方は?最寄り駅からどのくらいですか?
- JR中央本線の定光寺駅が最寄りです。駅の下の小径を上流へ約300メートル、徒歩5分ほどで受付に着き、その先すぐが3号トンネルにあたる旧中央線玉野第三隧道です。名古屋駅からは普通列車で30分あまりです。周辺に駐車場はないので鉄道を使ってください。
- 旧中央線玉野第三隧道はいつ造られ、いつ廃線になったのですか?
- 明治33年(1900年)の建設です。名古屋と多治見の間の鉄道は同年7月25日に開通しました。単線では輸送量に対応できなくなり、複線電化の新線が別ルートに造られたため、高蔵寺と多治見の間の旧線は昭和41年(1966年)に廃線となりました。
- 旧中央線玉野第三隧道の大きさと構造を教えてください。
- 煉瓦造で、延長76メートル、幅員4.6メートルです。断面は官設鉄道の標準にならった単線仕様の馬蹄形。内部の側壁には作業員が退避するためのくぼみがあり、坑門は付柱を施し、下部を切石積として装飾的に仕上げています。
- 旧中央線玉野第三隧道の前にある石碑は何ですか?
- 「中央線建設工事殉職者慰霊碑」です。高蔵寺と多治見の間の鉄道建設で亡くなった二十余名を悼み、明治33年(1900年)6月に地元の有志が建てました。玉野町の太平寺、東海自然歩道の入口と移り、2025年8月に坑門の前へ移設されました。
基本データ
| 名称 | 旧中央線玉野第三隧道(きゅうちゅうおうせんたまのだいさんずいどう) |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県春日井市玉野町字東谷1664-1他 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 平成28年(2016年)登録 |
| 員数 | 1基 |
| 寸法 | 延長76メートル、幅員4.6メートル |
| 所有者 | 特定非営利活動法人愛岐トンネル群保存再生委員会 |
| 公開状況 | 春と秋の特別公開期間のみ入場可。通常は施錠され立入不可 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「旧中央線玉野第三隧道」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00011315
- 春日井市「登録有形文化財(建造物)の登録について」
- https://www.city.kasugai.lg.jp/bunka/bunkazai/shinai/1004355.html
- 愛知県「登録有形文化財(建造物)の登録についてお知らせします」
- https://www.pref.aichi.jp/soshiki/bunkazai/tourokubunnkazaikennzoubutu.html
- 愛岐トンネル群保存再生委員会「近代化産業遺産と登録有形文化財」
- https://aigi-tunnel.org/bunkazai-kinsan.html
- 愛岐トンネル群保存再生委員会「125年前の中央線建設工事殉職者慰霊碑が3号トンネル前に移設されました」
- https://aigi-tunnel.org/News/2025/20250805_Junshokusha-Ireihi.html
- 愛岐トンネル群保存再生委員会「第36回春の特別公開 報告」(開催要領)
- https://aigi-tunnel.org/News/2026/2026Haru-houkoku.html
最終更新日: 2026.08.31